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地元鳥取を宇宙で元気に!『星取県』誕生秘話(前編)[鈴木 雄大]

「星取県」を名乗り、美しい星空や宇宙産業を武器に地域の活性化に取り組んでいる鳥取県。宇宙メルマガTHE VOYAGE11月号12月号の記事では、地元・鳥取県を宇宙で盛り上げようと奮闘する高校生たちを取材し、その取り組みを2ヵ月にわたって紹介してきました。2022年1月号・2月号では「星取県」の取り組みそのものについて、発案者である鳥取県庁産業未来創造課の井田さんへの取材記事を掲載します。今号では井田さんが星取県の取り組みを始めたきっかけと、星取県の観光に関する取り組みについて紹介します。

大山と星空

▲鳥取県西部にある大山と美しい星空

井田さんが鳥取県を宇宙で盛り上げようと思ったきっかけは、今から 6 年前の 2016 年に遡る。ある仕事がきっかけで、鳥取県出身の岡島礼奈さんという方が株式会社ALEを立ち上げ、人工衛星を用いて人工的に流星を降らせるエンターテインメント事業を展開していることを知り、いつかコラボした
いと興味を持った。
実際に岡島さんに話を持ちかける前に鳥取県と宇宙について色々調べていたところ、鳥取市は過去に環境省が実施していた全国星空継続観察で全国 1 位を取ったことがあることや、伯耆富士(ほうきふじ)の愛称でも知られる大山が星が綺麗に撮れるスポットとして写真家の間で有名であることを知 った。鳥取県東部の鳥取市も西部の大山も、さらに は鳥取県全域も「星空」を共通のキーワードとして売り出せるのではないか。これが星取県の取り組みの始まりだった。

岡島さんが鳥取県に帰省した際に話を持ちかけたところ、岡島さんも興味を持ってくださり、本格的に企画が始動した。日頃から星や宇宙に関わっていない団体も含め、地元の様々な団体にも構想を 話して回った。初めは短期的な企画に終わるのではないかと静観する団体や人々も多かった。しか し、関心を寄せる人々も徐々に増えてきた。特に鳥取商工会議所青年部という経済団体に別件で講演 をしに行った際には、団体のトップの方が本プロジェクトに非常に興味を持ってくださり、その後、平井県知事に提言をしてくださった。その結果、構想から 1 年後の 2017 年に、ついに「星取県」が県の公式プロジェクトとしてスタートしたのである。

幼少期より星空を眺めることはよくあったものの、「星大好き少年」というほどではなかった井田さん。「今このような仕事をしていることに自分自身が一番驚いています。」と語った。

砂丘の透明ドーム

 ▲鳥取砂丘に設置された透明なドーム。神秘的な空間の中で
星や宇宙を題材にした料理を楽しめるイベントの様子。

「星取県」の取り組み内容は、大きく分けて 3つの柱に分けられる。

1 つ目の柱が「観光」だ。前述の通り鳥取県は特に星が綺麗な県だが、それを全国の方々に知ってもらい、星空をきっかけに鳥取県に旅行に来る 人を増やすことを目指している。星空の美しさをメディア向けにPRしたり、星が特に綺麗に見えるスポットをまとめた”星空MAP”を作成したりしている。 県内の星空スポットには星取県のキャッチフレーズ“CATCHE the STAR 星取県”の看板も設置した。
「宙ツーリズム 推進協議会」にも鳥取県として加入している。晴天時に美しい星空を楽しむだけでなく、鳥取砂丘に透明なドームを多数設置し中で食事をとったりしてもらうなど、星空が見えない場合でも楽し めるイベントも開催された。

星空マップ

▲街中に設置されている『星空MAP』の看板

2 つ目の柱は「環境教育」だ。移動プラネタリウムを持って県内の小学校や社会教育施設へ出張し、プラネタリウムの体験をしながら星について学ぶ機 会を提供している。また、星空観望イベントを推進するために、天体望遠鏡や双眼鏡などの貸し出しも行っている。

 最後の柱は「地域振興」だ。美しい星空を街明かりから守るため、2018年に星空保全条例が定められた。この条例により、県全域でサーチライトの使用に制限がかけられたほか、一部地域では街灯などにも工夫を求めている。
他にも、SNSを用いたキャンペーンなど、PRも積極的に行っている。インスタグラムでは、星空の写真や身の回りの星のついたグッズを探して写真を撮ろうというキャンペーンを実施した。みんなで盛り上がれると大評判となった。平井県知事のPR力も星取県の知名度向上の重要な因子となっている。
限られた予算の中でも、メディアに取り上げてもらうべく平井県知事はダジャレを武器に県の魅力のPRを行ってきた。県庁職員の井田さんまで、平井知事が挨拶をする星取県イベントなどの資料にダジャレを入れなければならない、という徹底っぷりだ。
地元の企業も星取県の取り組みへの関心が非常に高い。2019年から本格的な栽培が始まったブランド米「星空舞」や、星空舞を使用したクラフトビール「星空エール」、マスク、ストラップなど、星取県関連商品が毎年新しく誕生している。
高校生たちも地元の魅力の発信に積極的だ。青翔開智高等学校・鳥取城北高等学校の生徒たちが絵本や名鑑を制作したり(詳細は10月・11月号の記事参照)、鳥取西高等学校の生徒たちが鳥取の魅力を発信する映像を制作したほか、他の学校の学習発表でも星取県に因んだ劇が行われることもある。
県知事や県庁職員のみならず、県内のあらゆる立場の人たちが一丸となって、県の魅力の発信に努めているのだ。

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▲水田と美しい星空

井田さんは星空を用いた観光産業の振興のみならず、宇宙産業も巻き込んだ取り組みにしたいと考えていたが、プロジェクトが始動した当初は参加して
くれる企業が足りず、一旦はここまで紹介してきたように、観光産業を軸とすることとなった。しかし、2021年に入って鳥取県庁内にも新しい部署が立
ち上がり、星取県の取り組みは宇宙産業も巻き込んださらに大きなものへと進化するのである。

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▲Zoom取材の様子 左上:SS鈴木 中央下:井田さん


井田さんプロフィール画像

井田 広之(いだ ひろゆき)
鳥取県庁産業未来創造課。鳥取県の星空と宇宙をテーマにした地域活性化構想を提唱し、地域内外に共感者を増やしながら県公式プロジェクト「星取県」を立ち上げ、展開中。Forbes JAPANからスーパー公務員に選ばれる。これまでに、全国知事会「先進政策大賞」、グッドデザイン賞、「読売広告大賞」優秀賞、「日本プロモーション企画コンテスト」地域キャンペーン特別賞を受賞。神戸大学経営学部卒。山陰合同銀行を経て、鳥取県庁入庁。中小企業診断士。

鈴木雄大1 - Yudai Suzuki

鈴木 雄大(Udai)
東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 博士 2 年
すいせい(水星・彗星)の大気や探査機に搭載するカメラの開発に
関わる研究を行う一方で、「惑星の探検家」として YouTube チャンネ ル「宇宙冒険隊」など多様な媒体で活動中!
Web サイト: http://spaceadv.wp.xdomain.jp
YouTube チャンネル: https://www.youtube.com/c/uchuuboukentai


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