Space Seedlings I「地元鳥取を宇宙で元気に!高校生たちの挑戦」[鈴木 雄大]
皆さんは自分の生まれ育った土地について、人に自慢できるところをすぐに言えるだろうか。
残念ながら、幼少期に引っ越しを2回経験した筆者には、生まれ育った土地に対する愛はあまりない。あるいは、都会育ちということも影響しているかもしれない。
先日、親しい友人たちと共に、ある友人の故郷の宮城県気仙沼市にて星空観望会を行った時、気仙沼では天の川が当たり前のように見えることを知って羨ましく思った(ちなみに、雨男の能力を遺憾無く発揮し、観望会当日は暴風雨により天の川はおろか、夏の大三角さえ見ることが叶わなかったことは秘密である)。
悪天候の中、地元の方が沢山お越しくださったが、その多くが天の川が見られる地域が珍しいことを知らなかった。せっかくの地元の強みを自覚せずに過ごすのは勿体無い。これからも、筆者は友人たちと共に気仙沼を中心に地域に根ざした観望会を継続的に実施し、宇宙を使って気仙沼を盛り上げていくつもりだ。
さて、このように宇宙を使って地元を盛り上げようとしている若者たちが鳥取県にもいる。
本記事では地元・鳥取県の宇宙に関する取り組みを発信しようと奮闘している高校生たちを取材し、その取り組みを2ヶ月にわたって紹介する。今月号では高校生によるプロジェクトの立ち上げに焦点を当て、コンテンツの詳細は来月号にて紹介する。
鳥取市はかつて環境省が行っていた全国星空継続観察にて県庁所在地で唯一1位に輝いたことがあるほど、星空が美しい場所だ。現在、鳥取県は「星取県」を名乗り、美しい星空や宇宙産業を武器に地域の活性化に取り組んでいる。
【CATCH the STAR 星取県】上に大山の星空、下に鳥取砂丘の星空
「この活動に自分も加わり、宇宙のファンをもっと増やしたい。」そう考えた1人の高校生がいた。鳥取市にある青翔開智高等学校に通う山根衣羽さんだ。元々宇宙に興味を持っていた山根さんは、高校の探究の授業のテーマを伝統産業×宇宙産業のイベント実施に設定した。学園祭実行委員長の経験も活かし、エンターテインメントを使って多くの人々に宇宙の、そして鳥取の魅力を伝えることを目指したのだ。
2021年3月末には、(株)amulapoが主催する宇宙産業創出シンポジウムが鳥取市にて開催された。学校でシンポジウムのポスターを見た山根さんも参加し、その後先生の紹介により(株)amulapoの鳥取オフィスを訪問した。これ以降、山根さんたちは、既に鳥取などを中心とした宇宙ビジネスの展開に成功している会社、(株)amulapoという強力なバックアップを手に入れることとなる。
イベントを行うには必ず資金の確保が必要である。そこで、知り合いの先生の紹介を経て近くの鳥取城北高等学校の生徒である、橋本さんや清水さんに新たに仲間として加わっていただき助成金の申請を行い、見事資金の確保に成功した。橋本さんや清水さんは鳥取城北高等学校の部活動の取組として、(株)amulapoと連携してVRを利用した宇宙アートのプロジェクトを進めていた。宇宙というまだマイノリティでなかなか周りに興味を持ってくれる友人も少ない中で、学校の垣根を超えることで大きな取り組みに挑戦ができる土台が整った形だ。
筆者たちも先述の気仙沼星空観望会などの際に苦労した点であるが、助成金獲得のための書類作成は非常に骨の折れる行程である。プロジェクトの全体像がまだ固まっていない段階で、ほぼ高校生だけの力で助成金獲得のための資料を作成して見事採択されたというのだから脱帽である。
助成金の審査会場にて、当時のメンバー3人で集合写真。
(写真の左から橋本さん、清水さん、山根さん)
鳥取の宇宙産業を広く紹介するために、山根さんたちは大きく分けて3つのコンテンツを用意した。1つ目が鳥取の宇宙に関連した名所を巡る「絵本」の制作、2つ目が鳥取で宇宙に関わる仕事をされている方々を紹介する「名鑑」の制作、そして3つ目がこれらのお披露目イベントの企画である(各コンテンツの詳細の紹介は来月号に譲る)。
絵本については、構想当初は図鑑を制作する予定だったが、情報量が膨大になりそうだったため、急遽絵本に作戦変更。山根さんの友人で、得意なイラストで学園祭でも大活躍だった木島さんが新たにメンバーに加わった。「私が入らなかったらどうしていたの(笑)」とすかさず木島さんがツッコミを入れる。「うーん……。」と言葉に詰まる山根さん。圧倒的熱量で皆を引っ張りつつも、どこかツッコミどころがあり親しみを持てる。これが山根さんの魅力であり、求心力の源なのだろう。
山根さんと同じく宇宙産業創出セミナーに参加していた大下さんや山根さんの同級生の梶田さんも加わり、初めは山根さん1人だったメンバーも6人まで増えた。現在は2, 3人ずつで分担して3つのコンテンツの準備を進め、週に1回、オンラインベースでお互いの進捗の報告をし合っている。
メンバーは6人中5人が女性だが、唯一の男性である大下さんも「抵抗を感じたことはない。皆さんから学ぶことがとても多くて勉強になる。」と、完全に馴染んでいるようだ。「大下くんの加入のお蔭で空気感が『女子会』から『プロジェクト』という感じに(良い方向に)変わった。」と山根さん。勉強や部活などで多忙なため全員が集まれることは稀だが、時に真面目に、時に和気あいあいと、非常に良い雰囲気でミーティングが行われているようだ。
オフラインでのミーティングの様子。
基本的には大人たちが直接的なサポートをすることなく、高校生たちが主体となってプロジェクトを進めているが、青翔開智高等学校や鳥取城北高等学校の先生方、(株)amulapoの社員など、頼れる大人は周りに沢山いる。インタビューの最後には、同席してくださった (株)amulapoの田中克明CEOより、「山根さんたちも、鈴木くん(筆者)のようにプロジェクトのwebページを用意すると良い。今後このプロジェクトを広く宣伝する上でwebページの存在は非常に重要になる。」とのアドバイスがあった。やる気に満ち溢れた高校生たちが試行錯誤しながら邁進するのを、経験豊富な大人たちがそっと後ろから支える。本プロジェクトの強みが垣間見えた瞬間であった。
来月号では、高校生たちのプロジェクトの3つのコンテンツ「絵本」「名鑑」「お披露目イベント」について、具体的に紹介する。
今回の取材の様子。ご協力、ありがとうございました!
写真の中段の左から木島さん、大下さん、
下段の左から山根さん、(株)amulapoの田中克明さん
山根衣羽(やまねいゔ)
青翔開智高等学校2年。鳥取県出身。
星取県宇宙魅力発信プロジェクトで活動中。マイブームはアニメ鑑賞とアイスクリームとシャチ。
木島野花(きしまののか)
青翔開智高等学校2年
イラスト担当。好きな色は黄色。
大下知輝(おおしたともき)
青翔開智高等学校1年。青翔開智中学校高等学校でメディア委員会委員長を務める。専門は生物。本の虫。多趣味で好奇心の塊。好きな人工衛星はボイジャー2号。
梶田息吹(かじたいぶき)
青翔開智高等学校2年
マイブームは洋酒チョコレート。趣味はドラムとギター。
清水千絢(しみずちひろ)
鳥取城北高等学校 2年
アントレプレナー部部長
橋本 栞 (はしもとしおり)
鳥取城北高等学校 2年
アントレプレナー部所属
田中克明(たなか かつあき)
宇宙ロボットの専門、博士(工学)。(株)amulapoの代表取締役としてxR、ロボット,AI等のICT技術で宇宙体験コンテンツの制作を行う。株)ispaceのロボティクスエンジニアとして月面探査車のモビリティの設計にも従事、その他、経産省ELPISから派生のELPIS NEXTの理事、早稲田大学の招聘研究員、TECHNO-FRONTIERの航空宇宙委員、日本かくれんぼ協会の研究員などを兼任。2050年に向けて宇宙を中心に科学技術を促進。最高峰の宇宙体験の開発を目指している。
鈴木 雄大(Udai)
東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 博士2年
すいせい(水星・彗星)の大気や探査機に搭載するカメラの開発に
関わる研究を行う一方で、「惑星の探検家」としてYouTubeチャンネル
「宇宙冒険隊」など多様な媒体で活動中!
YouTubeチャンネル: https://www.youtube.com/c/宇宙冒険隊
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?