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地元鳥取を宇宙で元気に!『星取県』誕生秘話(後編)[鈴木 雄大]

「星取県」を名乗り、美しい星空や宇宙産業を武器に地域の活性化に取り組んでいる鳥取県。先月から2ヶ月にわたり、星取県の発案者である鳥取県庁産業未来創造課の井田さんへの取材記事を掲載している。先月は「星空」を共通のキーワードとして鳥取県を盛り上げるプロジェクトを始めたきっかけと、星取県の具体的な取り組みのうち「観光・環境教育・地域振興」の3つの柱についてご紹介した。今月は2021年度に入って本格的に動き出した、宇宙産業に関連する取り組みについて紹介する。

前編の記事でもご紹介した通り、星取県のプロジェクトが始動した当初は宇宙分野に取組む企業が足りず、一旦は観光業を軸とすることとなった。しかし、初めは短期的な企画に終わるのではないかと静観していた人たちも徐々に理解を示し始め、地元メディアも取り組みを大きく取り上げるようになった。そして2021年4月、井田さんの妄想から始まったプロジェクトは、今や県庁に「産業未来創造課」という新しい部署が創設されるまでに大きくなった。新しい部署は産学連携や新産業の創成が主な目標であるが、宇宙産業もその1つの柱に据えられた。プロジェクトを始めた当初からの井田さんの悲願であった、宇宙産業の振興がついにスタートしたのだ。

具体的には、鳥取県内の企業の宇宙分野への参入のサポートや他県で宇宙関連事業に取り組む企業の誘致などを行っている。助成金による初期段階の支援だけではなく、セミナーや交流会の開催などを通して企業同士の繋がりの形成を目指すのが大きな特徴だ。宇宙に関する知識が乏しい県内企業が、既に多くのノウハウを蓄積してきた県外企業と融合して新たなビジネスを展開していく。その過程で、実証試験の場所の確保など、事業の障壁となる部分は企業と行政が一緒になって乗り越えていく。こうして構築された宇宙産業のネットワークは今では40以上の企業・団体が参加しているが、今後も増加する予定だ。例えば、鳥取県内でコンサルティング事業等を行っている(株)ダブルノットと、県内外に拠点を持ち人工衛星データの人工知能を用いた解析等を行っている(株)スペースシフトのコラボレーションにより、人工衛星で取得した画像と畑で計測したデータを組み合わせて鳥取県内のネギ畑の生育状況を正確に把握するプロジェクトが進行している。2月19日には、宇宙産業およびビジネスについて学び、新たな宇宙ビジネスのアイディア出しを行う「U35鳥取宇宙ビジネスアイディアソン」も開催される。

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2021 年 11 月には産学官連携で新たな宇宙産業の創出を目指す
「とっとり宇宙産業ネットワーク」が発足した。

鳥取宇宙ビジネスアイディアソン

2022年2月19日「U35鳥取宇宙ビジネスアイディアソン」開催

鳥取県は大量生産には向かないかもしれないが、宇宙産業では一点ものを丁寧に作り上げることが求められる場合が多く、鳥取県とは非常に相性が良い。余談だが、宇宙の日(毛利衛宇宙飛行士がスペースシャトルで宇宙に旅立った日)ととっとり県民の日(県が誕生した日)が同じ9月12日というのも、なんとも運命的な話である。これからも分野・地域の垣根を越えた融合により、次々と斬新なコラボレーションが誕生することだろう。

取材を通して、県が主体となって新たな事業の創成を進めるというよりは、「場」を作ることに特に注力していると感じた。だからこそ、「星空舞」などのように星取県のコラボ商品が続々と生まれる。井田さん曰く、地域の人たちが星を地域の誇りとして認識できること、多くの方が「自分事」として楽しめることを意識していると言う。例えば、インスタグラムで実施したキャンペーンでもどうやったらキャンペーンに参加しやすいかを考え、星空に限らずに身の回りの星空に関連するグッズの写真も投稿してもらうようにしたのだという。やはり、常に参加する人たちの立場に立って考えることが、皆が参加しやすい場を作るコツだろう。

最後に、「野望はありますか?」と聞いてみた。すると、「あります!」と井田さんは即答した。そして、「地元で育った若者も、大学進学や就職をきっかけに県外に行きがちです。星・宇宙産業を通して、より多くの若い子たちが戻ってきたくなる、或いは地元にとどまりたくなるような、より魅力的な鳥取県を作りあげたいと思っています。」と続けた。現在も企業や研究者などのプレイヤー不足に悩んでいるようだが、本取り組みを通してさらに多くの企業が他県から参入したり、刺激を受けた地元企業がより活性化していくだろう。井田さんの野望が実現する日も遠くない。これからも星取県の進化に注目だ。

11月号の冒頭でも少し紹介したように、筆者は宮城県気仙沼市にて地域に根ざした観望会を実施しているが、今後は同様の活動を全国に展開していく予定だ。その時はまず鳥取県で実施したい。本取材を通して鳥取県の魅力を知るうちに、そう決意した。

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今回の取材の様子(下: 井田さん、右上: 鈴木)
ご協力、ありがとうございました。

井田さんプロフィール画像

井田 広之(いだ ひろゆき)
鳥取県庁産業未来創造課。鳥取県の星空と宇宙をテーマにした地域活性化構想を提唱し、地域内外に共感者を増やしながら県公式プロジェクト「星取県」を立ち上げ、展開中。Forbes JAPANからスーパー公務員に選ばれる。これまでに、全国知事会「先進政策大賞」、グッドデザイン賞、「読売広告大賞」優秀賞、「日本プロモーション企画コンテスト」地域キャンペーン特別賞を受賞。神戸大学経営学部卒。山陰合同銀行を経て、鳥取県庁入庁。中小企業診断士。

鈴木雄大1 - Yudai Suzuki

鈴木 雄大(Udai)
東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 博士 2 年
すいせい(水星・彗星)の大気や探査機に搭載するカメラの開発に
関わる研究を行う一方で、「惑星の探検家」として YouTube チャンネ ル「宇宙冒険隊」など多様な媒体で活動中!
Web サイト: http://spaceadv.wp.xdomain.jp
YouTube チャンネル: https://www.youtube.com/c/uchuuboukentai


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