見出し画像

太陽の空より vol.11 河村聡人

タイトルの「太陽の空」を追いかけるシリーズも最終回です。(連載の最終回ではないですよ)
太陽から太陽風、その行き着く先としての太陽圏、さらにその外側の重力圏へと進みましたが、今回はまた地球に戻ります。

太陽から吹き出す太陽風は磁場と作用するプラズマと呼ばれる状態という話がありました(vol.9)。

そして方位磁針が示すように、地球には磁場が存在します。ということは太陽風地磁気は作用して、何らかの構造を作るだろうと想像できます。地磁気は地球に近づくほど強くなりますので、どこかで太陽風と地磁気が釣り合います。そうして出来上がる構造を地球磁気圏と呼びます。太陽風から地球を守る家の様な存在です。

太陽活動に振り回されて横道に行った時(vol.5~7)にオーロラの話をしました。

オーロラは太陽活動(特に大規模なものはフレア)に起因するのですが、オーロラを引き起こすエネルギーは太陽から地球までプラズマによって、いわば太陽風の突風によって運ばれてきます※1。
外から強い風に吹かれたら家が揺れたり、酷ければ屋根が飛んだりしますよね。似たような感じで、突風に見舞われた地球磁気圏は揺れて、その磁場の根元にエネルギーが伝わり、それが大気を光らせ、我々がオーロラと認識
します。

※1 漠然と太陽風というと定常のもので、大規模なオーロラを引き起こす突風や爆風ともいうべきコロナ質量放出は含まれませんが、観測者側の定義の問題な気もするので広義の意味で太陽風とします。

地球磁気圏の境界面は、太陽風の強さにより変動しますが、最も近いところで地球の中心から約10地球半径程度のところにあります。
地表からの高度に直すと約5.7万kmです。これは国際法的に言われる宇宙の境界であるカーマンライン(高度100km)や国際宇宙ステーション(高度約400km)、静止軌道衛星(高度約3.5万km)よりも遠いです。

では月は?となると、月は地球の中心から約60地球半径になりますので、地球磁気圏の境界面の6倍の距離に位置します。月は地球の周りを回っているので、月は地球の重力が支配的な領域にあります。地球の重力はさらに遠くまである程度支配的に振舞います。
ひとつの目安は太陽と地球の間においてこの2天体の重力が見かけ上釣り合う点(ラグランジュ点、より固有にはL1)で、地球から150万km(約230地球半径または0.01天文単位)の距離に位置します。

天体の周りで、プラズマにより形作られる構造とその外側に広がる重力の影響って前回も話がありましたよね。太陽も、そのプラズマの影響が及ぶ太陽圏とその外側に広がる重力圏があります。並べてみましょう。

天体の大気と、その外側に広がる偶然にもよく似た形をしたプラズマ圏(これは本当に偶然です。条件次第で様々な形となりますし、プラズマ圏を持たない惑星もあります)、さらにその外側に丸く広がる重力圏。スケールは異なりますが、同じですね。

では最後に、「空」について考えてみましょう。
あくまで僕の個人的な意見ですし、言葉遊びの範疇と捉えられるものかもしれませんが、もう一息お付き合いください。
vol.4の時のように、もし「空」大気と言い換えれば、天体の「空」と別の天体の「空」の間に「未定義」の空間が広がってしまいます。「未定義」の空間を名付けて「定義」してしまえば問題解決ではありますが、それよりも、やはり全ての空間をより少ない「定義」された言葉で満たしたいです。
プラズマ圏重力圏「空」とすれば、少なくとも太陽のプラズマ圏や重力圏のあたりまでの空間はすべて「〇〇の空」で「定義」できそうです。

では、プラズマ圏か重力圏のどちらが「空」の範囲なのか?
それはあなたが月を「地球の空」に入れるか入れないか次第かと思います。

「太陽の空」についてのお話はここまでです。
現象の話や宇宙物理の話はまた折々しますが、次回からは少し趣向を変えて、思い出を中心にお話していこうと思います。少しペースダウンで月一の更新にします。

河村聡人(かわむら あきと)
アラバマ州立大学ハンツビル校卒(学士・修士)、京都大学大学院退学。太陽・太陽圏物理学が本来の専門。最近は地球観測も。天文教育普及研究会2023年度若手奨励賞受賞。8月は怒涛でした。特に月の頭に急遽入ったカンボジア出張。個人的にはOuk Chaktang(カンボジアのチェス)のセットを手に入れられたのでまあ良し。とはいえ、相手いないのでもっぱらアプリでオンライン対戦…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?