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サイクルベルマン

「お前、俺らがカンニングしてるってことバラしたろ。前々から気にいらねぇって思ってたんだよ。」
「僕は言ってないよ、僕はないもしてないよ。」
「うるせぇ、知ってんだよ、先生にバラしたってことをコイツからから聞いたんだよ。」
「僕は本当に何もしてないんだよ。」
「本当に何もしてないなら金よこせよ。」
とある小学校の通学路の脇道で少し大きな小学生Bと、その相方のCが同じクラスのD君を脅している。いわゆるイジメだ。
「お金も持ってないんだ、許してよ。」
「許すわけないだろ、こっちはな、先生に怒られてんだよ。今すぐにでもお金を持ってこい、持ってこれないなら殴らせろ。」
何と理不尽な奴だ、こっちの主張も聞かずに脅してくるなんてとD君は思ったが何も言えなかった。そして、Bが腕を振りかぶって殴ろうとした時、「チリンチリン。」と言う音が聞こえた。3人とも音が鳴った方を振り返った。
「サイクルベルマン参上!!」と自転車に乗り、ヘルメットを被り、マスクをつけた眼鏡の少年が叫んでいる。BとCは少し驚いたが、「何だよてめぇは。」と眼鏡の少年に言った。
「君たち、イジメは良くない、辞めたまえ。」と言い、またも「チリンチリン。」と鳴らした。
「これは警告音だ、今すぐ辞めないと私が君たちの悪事を君たちの両親、先生に言ってしまうぞ。」
「何だよお前は、俺らに関係ねえだろ。」
とBが言った。続けてCが
「そうだよ関係ないじゃんかよ、引っ込んでろよ。Bがお前も殴るはめになるぞ。」と言った。
眼鏡の少年はニヤっと口角をあげ、得意げに言った。
「C君、君はD君をイジメたかったのだろう、だから君は先生にB君がカンニングした事を伝えて、それをあたかもD君がバラしたようにB君に伝えたんだな。」
その話を聞いたBはCの方を睨みつけた。Cは戸惑っている。そしてCは言った。
「しょ、証拠はあるのかよ。」
眼鏡の少年はポケットからスマートホンを取り出した。そこに先生とCとの会話が録音されていた。
「お前、良くもハメやがったな。許さねぇ。」
Cは逃げた。Cを追いかけるようにBは去っていった。その数日後二人とも先生に叱られ、しばらく廊下に立たされたと言う。
「大丈夫かい?」
「ありがとう、おかげで助かったよ。君は一体何者なんだい?」
「正義のヒーローサイクルベルマンだよ。」
Dは最近この辺で噂になっている、自転車のベルを鳴らした少年の話を思い出した。その少年は自転車のベルを鳴らし、困っている人を助けるらしい。噂程度だったので興味はあまりなかったが、本物の自転車の少年を目の前にし、少し興奮した。
「君はどこの学校なの?もしかして、僕と一緒の学校?」
「それは秘密だよ。」
「でも先生とCとの会話を録音してるくらいだから、同じ学校だよね。」
「そこまで言われたらしかたない、君と同じ学校だ。」
Dは少年の声が聞いたことある気がしていた。少し考えたDは思い出した。
「あ、もしかして、君同じクラスのA君だよね。」
少年は少し慌てたが仕方ないと思い、マスクとヘルメットを外し、正体を明かした。
「そうだよ、僕はAだよ。」
Aはとても恥ずかしそうにしている。
「やっぱりそうだ、A君クラスにいる時と全然雰囲気違うね。サイクルベルマンってとってもかっこいい。」
Dは憧れの眼差しでAを見ている。Aはサイクルベルマンを喜んでもらえたのが嬉しいのか、興奮して話し始めた。
「かっこいいよね、僕は最近自転車を買ってもらったんだ。それでね、おばあちゃんにちっちゃい頃から人の役に立つことをしなさいって言われて、困ってる人を助ける事にしたんだ。サイクルベルマンになっている時は自分は凄いんだ、かっこいいんだって気持ちになって頑張れるんだ。僕は少しでも困ってる人を助けられるヒーローになりたいんだ。」
Dはその話を聞いて、A君みたいな人になりたいなって思っていた。そしてこの件以降、AとDは親友となった。

数十年後、とある4階建のマンションの屋上に男が立っていた。この男は飛び降りようとしている。男は数日前に勤めていた会社を辞めたのだ。辞めた理由は、上司によるパワハラで、男の業績はとても優秀なのだが、それを気にくわない上司が男に無理難題な仕事を押し付け、今に至ってしまったのだ。友人には相談していたのだが、友人は仕事で忙しくて、メールも1週間に1件ほどであった。
男は精神的に病んでしまっていて、これ以上生きられない、いっそのこと死んでしまおうと思っていた。友人にも遺言のメールは送っていた。そして、男は屋上のフェンスを上り、死ぬ覚悟をした。思った以上に高いが、4階の高さで死ねるのであろうかという疑問が浮かんだ。だが、そんなことはどうでもいい、飛び降りるのだ、死んで上司に後悔をさせてやるんだ。また男は下を見た、下には下校中の小学生、仕事帰りのサラリーマン、高校生のカップルなど様々な人がいた。その時マンションの下の道路から「チリンチリン。」と音が聞こえ、ヘルメットを被りスーツ姿の20代後半の男が自転車に乗ってきた。その自転車の男は自分の丁度真下に来て、こう叫んだ。
「サイクルベルマン参上!!」
男は小学生の頃自分を思い出した。それは自転車に乗りベルを鳴らし困っている人を助ける、サイクルベルマンであった。それを思い出した男は涙ぐみ、下の自転車男にこう叫んだ。
「お前は一体何者だ。」
「私は正義のヒーローサイクルベルマン、困っている君を助けに来た。」
男は眼鏡をかけ、自転車男の顔をしっかり見た。それは友人であった。自転車男は周りに笑われている、だが、それを気にせず友人は屋上まで上がってきた。そして友人は言った。
「あの時君は僕を助けてくれた。今度は僕が君を助ける。正義の味方サイクルベルマンとしてね。」
男は涙ぐみながら言った。
「ありがとう。だけどめちゃくちゃダサいぞそれ。」
二人は子供のように笑い合った。
友人に助けられ、家に帰った、男は、コンビニに行く為に自転車に乗った。
「チリンチリン。」と鳴らし、男はニヤっと口角をあげた。そして、真夜中の住宅街で
「サイクルベルマン参上!!!」
と叫んだ。

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