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「鴻池朋子 ちゅうがえり」展観て書き

美術館に行ってきた。いつぶりだか忘れた。

観たい展覧会、行きたい場所、食べておきたいものは行けるうちに行かなければならぬということを私たち皆が学んだと思う。「行きたいリスト」は虚しく手帳の最初の方にぴらぴら貼りついたままになっている。それでもその中から会期を改めて仕切り直してくれた展覧会があり、感謝しかない。

中でもいま都内で観ることのできる鴻池朋子関連の二展は、時期もうまく重ねてくれて本当にありがたいのである。などと言いつつも結局開幕してからしばらく経ってしまったわけだが、ようやく行ってきた。

ジャム・セッション 石橋財団コレクション×鴻池朋子 鴻池朋子 ちゅうがえり

鴻池朋子の大型個展を観るのは3度目である。
(2016年「鴻池朋子展 根源的暴力 Vol.2 あたらしいほね」群馬県立近代美術館、2018年「ハンターギャザラー」秋田県立近代美術館)

元々は、革を用いて制作をおこなっている作家だと聞いて興味を持ったのが最初だった。革を繋ぎ合わせて巨大な一枚の「緞帳」に仕立て、そこに色鮮やかな絵画を描いた作品が有名で上記ページでも見ることができる。だが革は単なるキャンバスがわりなのではなくて、それが生き物の死体であることは常に忘れられておらず、かつまた野生の生き物のパワーや、生と死と再生についての神話は、展示空間の中で繰り返し語られる。死体(から剥いだ皮)を(敢えてそのもとの形が分かるように)林のように吊るすことも、毛皮を剃った跡に草花や虫の刺繍を施すことも、かなり生命に対して切り込んでみせた呪術であろう。これまでに観た展示は、特に秋田のものは、観る者の心を揺さぶる(というのは、感動とかそういうアレではなくて、気を抜いたら振り回される、油断したらガツンとやられる、という類の)構成を作ってきているぞ、という感触を受けた。

今回の鴻池朋子は、そういう意味では、かなり“観やすい”と感じた。
展示室内はぽーんと広く、ほとんど仕切りはない。壁際に一箇所だけ仕切られた空間と、もう一箇所だけ通路状の場所がある。だがそれも順路は判然としないし、それどころか脇から突然入ってこられる小口がある。中央にパイプで組まれた構造体があって、それは襖絵に囲まれた空間に向かって降りることができる滑り台である。滑り台!?となるが、滑り台なのである。

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竜巻、石、星々。作品はあちこちに点在していて観客たちは自分自身が動き回りながら、上から下から、好きなものから観ることができる。そうして観ていくとなんとはなくそんなモチーフが見つかる気がする。襖絵ではそれは顕著である。散らばる石、星の誕生、竜巻のエネルギーと恐らくは破壊、そしてまた石。そういったストーリーも、まあ、伺えはするのだが、私たちの鑑賞は気まぐれに惑星を巡るように自由でもある。
素直に楽しい。そして観ていると、なんだかおなかがへる気がするのである。言葉や身体を捨て去る感覚(作家の言葉を簡便に解釈しすぎかもしれないが)というのを、追体験というのは少し違う気もするのだけれども……ただそのエネルギーは受け取れる気がする。
楽しい一方で、皮を切り裂きその表面を穿つという手法からの(当然の)あやうさは、今回、比較的伏せられていると感じた。

帰宅してから考えた。
鴻池朋子は地方で観たいなぁ。
もちろん、私は、群馬までは友人の車でブーっと行き、秋田までは東北新幹線でガーッと行ってしまう俗人なのだけれども、それでも、やはり、そこに行きつくまでの道のりも含めて私は鴻池朋子を鑑賞していたのだなぁ。
旅、隔たり、ある種の儀式。
その先にある鑑賞と、都心での鑑賞は違うなぁ。今回はあれで良かったんだろうなぁ、と、旅を思い出して却ってそういうふうにも思う。美術館の中をくるくると、遊ぶように観て回り、滑り台を滑る。展覧会には赤子も来ていた。父親に前にしょわれたまま滑り台を滑って笑っていた。なかなか悪くなかった。

ところで会場となったアーティゾン美術館は、ブリヂストン美術館が改装・改称したものである。以前はビルの中のちょっとしたワンフロアという感じだったが、どーんと6階まで使った巨大ミュージアムになって帰ってきた。めちゃくちゃ綺麗。吹き抜けと、各階から外が見える窓が存在感を放つ。
ちなみに今回、入り口で検温、次のフロアで金属探知機、それからQRチケットもぎり。それぞれに数人ずつのスタッフがついて、これは果たして成立しているのか正直心配にもなった。時間指定制チケット、1時間に何人設定なのだろう? 入っている人数はおそらく20人にも満たなかったと思うが。

さらにところで、アーティゾン美術館、新略称はなんだろう? アー美? ゾン美? 私は今のところ勝手にゾン美と読んでいる(こちらもリニューアルオープンしたばかりの、SOMPO美術館とかぶるので、もうやめようと思っている)。

(この日はこのあと国立新美術館の「古典×現代」展もハシゴしたので、別記事に書きます)

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