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【ぺぺいけ備忘録】 花火大会

昔から私は何故かネガティブな感情を持つ女性に好かれる傾向が強かった。以前noteにも書いた「さやか・参照」が良い例である。一般的な恋愛をした経験もある。けれどもふとした瞬間からその女性の恋愛観が歪みそれを私に押し付ける事も度々あった。自分がそう言った女性を深層心理で求めているのだろうか...思い悩む日々だ。実話怪談とは違うが人間の怖さ。特に過剰な執着心は恐ろしい。

これから話すエピソードは私が20歳に体験した話だ。私は浪人後、目標の大学に入学した。浪人時代の後半は「さやか」に悩まされる事もあったが大学入学時期にはその縁も切れた。それが安心でキャンパスライフを楽しむ気マンマンだったのだ。入学して三ヶ月ほどした頃だったろうか。サークルの友人の誘いで他大学の女子と合コンをする事になった。

当時私は彼女がおらず、大学にも出会いがなくその話にすぐ飛びついた。当日、私は出来る限りのお洒落を行い、待ち合わせの繁華街で友人達と一緒に他大学女子を待っていた。遠くからキャピキャピした女子達の楽しげな声が聞こえて来る。昭和的な表現で言えば胸がドッキドキである。声が近づいて来る。女子達の姿が見えてきた。その瞬間私は「当たり回だ!」と心の声が漏れた。女性グループは3人。3人ともとても可愛く彼氏が居ないとは思えぬルックスであった。合流し学生がよく利用するようなリーズナブルな居酒屋に入った。

私の前に座ったのは由美と言う女子だった。顔もスタイルも小池栄子に似ており、側から見たらグラドルにも見える。趣味が映画と言う事で話が思いのほか盛り上がり、連絡先を交換した。こちらも好感触で終え、帰りの電車では既にメールのやり取りをしてたのを覚えている。

翌日もメールのやり取りをしていると、由美から「夜電話平気?」と連絡が来た。何ともシンプルで可愛らしいやりとりだ。私は有頂天になった。その日、時間に余裕があった私は二つ返事で了解した。その夜、あちらから電話があり2時間程話を楽しんだ。そして翌日も同じ時間電話をした。その翌日も。

あれから毎晩電話が来て、鳴り止まない日がない。そんなある日、つい寝入ってしまい由美からの着信を取ることが出来なかった。すると由美の行動が豹変し始めた。電話を取るまでコールをやめない。着信を凄まじい数残すようになった。
少しでも出るのが遅いと「どうしたの?他の女と一緒にいるんじゃない!?」と語気を強めに問い詰めるようになった。

私は付き合ってもいない仲でこんなにも束縛が強くなる事に恐ろしさを感じた。アイアンメイデンに身体を巻き込まれるかの如くだ。また彼女の勢いは猪突猛進と例えれる程、止まらなくなる。もはや小池栄子でなく猪に見えてきた。ある日の事だ。バイト先のロッカールームでロッカーが延々と震えていると言われ見に行くと私の専用ロッカーだった。すぐさま扉を開け携帯を手に取ると「由美」という文字が煌々と光輝き私の手を揺らす。もはやバイブレーションでなく恐怖で手が揺れていた。

恐る恐る通話ボタンを押すと、ロッカールームに鳴り響くほどの怒号と罵詈雑言が由美の口から放たれた。私は周りに対する恥ずかしさと由美に対する恐怖で携帯電源を消そうとした。すると電源を押す前に携帯が消えた。リモート電源オフかと錯覚したが全く違う。電池切れだ。朝まで満タンだったのに。由美が延々と着信を繰り返した結果、昼過ぎで電池が空になって消えたのだ。私は絶望した。

帰宅して携帯を充電する。
頃合いを見計らい電源を付けると数秒程で由美から着信がきた。凄まじいレスポンスの速さに最早尊敬さえ感じる。


電話を取ると先程の怒号とは打って変わり穏やかで落ち着いた声だ。私は少し安心して由美と話すとデートで花火大会に行きたいと希望された。私はこのまま会ったら逃れる事は出来ないと感じたが思考回路はショート寸前、判断能力が欠如、言われるがまま了承した。

花火大会当日。由美は高価な浴衣を纏い待ち合わせ場所に登場した。小池栄子に瓜二つだ。浴衣にも関わらず胸が強調され、良い香りが漂う。こいつ今日俺を狩るつもりだ....そう直感した。二人並びながら花火会場に向かう。私が意識せず歩いていると彼女の手が私の手に纏わり絡みつき始めた。そして胸を押しつけ攻め込んでくる。このまま付き合っちまうか...と安易な考えも浮かぶが、私が目線を他の方へ逃すと、すぐ様「他の女の子見てるの!?」と怒り狂い私を叱責しようとする。この女完全にバーサーカーだ....すぐに冷静になった。

歩きながら他愛もない話をする。
旅行の話。私の家にお泊まりに行く予定。今後由美ちゃんの親に会う事。先に伝えるがまだキスどころか付き合ってもない。しかしどんどん詰められて行くのが分かる。あちらの方が一枚も二枚も上手なのだ。きっと由美は将棋が上手いだろうなと現実逃避をしている間に花火会場に着いた。

花火会場は予想以上に混雑し、周りはカップルだらけだ。気を抜き人波に飲まれると逸れてしまうかもしれない。こんなところで逸れてしまっては逃げ出したと勘違いされる。今思えば何故そんな思考をしていたが不明だがこれはある種の洗脳に近かったかもしれない。逸れぬよう必死に由美の手を握る私。その行動を受けご満悦な由美。悪循環である。

すると由美は私の気持ちとは裏腹に手を離し突然飲み物を買ってくると言い出した。「これはチャンスだ」とはいかず、私は従順な犬の様に芝生に座り「待ってるね^^」と彼女に忠誠心を見せたのであった。しばらく芝生に座り今後の動向を模索していくが、由美がなかなか戻って来ない。念のため携帯に電話をしてみたが人が集中しすぎているためか圏外だ(当時はそうだった)どうやら由美は迷子になってしまったのだ。すると私の頭の上に華やかな花火が打ち上げられた。私の脳裏に悪魔と悪魔が現れる。この状況では天使など現れるはずがないのである。

探すふりをして逸れた体でいけば...ごくり。
思い立ったが吉日。行動あるのみである。
既に花火が打ち上がり始め15分ほどが経過した。私は花火に目も暮れず周囲を見渡す。やはり由美は見当たらない。私は芝生から立ち上がり、側にあるラーメン屋台の椅子にどかりと座りラーメンを一杯頼んだ。そこから戻ってくるであろう由美を待つ事にしたのだ。

これは逃げではない。あくまで迷子になった由美をラーメンを食べながら待っているだけだ。すると顔を真っ赤に怒りの形相で由美が先程の芝生に戻ってきた。そして携帯を取り出し私に電話をかけてるであろう所作が見える。しかし電波がないのだ。それを知ると由美の顔はより一層険しいものに変化した。


これはいけない。そう思い私はすぐに立ちあがろうとしたが恐怖で足に力が入らず立ち上がる事が出来なかった。すると花火が打ち上がり終わった。もはや戻るに戻れない。すると由美は帰宅民の波に巻き込まれ姿を消した。私はこれを良い事にラーメンのスープを飲み干しその人混みの波に紛れ携帯電源を消したまま帰宅したのだった。酷い男に見えるだろう。しかし帰宅後、めげない由美の猛烈な電話攻撃によりお詫びの映画の約束を取り付けさせられたのであった。

そして映画後、しばらくして他に好きな人が出来たと由美に言われ私は呆気なく捨てられたのである。あんなに執拗に迫られたにも関わらずだ。女の子の気持ちは分からないものだ。

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