見出し画像

貯水タンク

幼少期に遊びの定番と言えばかくれんぼだった。そんなかくれんぼで不思議な体験をしたとAさんから聞いた。Aさんが小学生の頃、夏休みだった。友人達とかくれんぼをする事になりAさんは鬼から隠れる事になった。Aさんには鉄板な隠れ場所があった。それはマンションとマンションの細い間を通ると片方のマンションの貯水タンクを納めてる小さな塀があった。鍵付きのドアがあるが、小さなAさんでもジャンプして登れば塀の中に入れる。中には貯水タンクしかないが子供なら身体を伸ばしたりゆっくり休める程のスペースがあった。

Aさんはかくれんぼの度にその場所を使い、
皆が辛抱きれるまで隠れるのが定番だった。
その日も塀に登り中に入ろうとすると、
貯水タンクの隅に先客がいた。自分と同じくらいの年齢の少年だった。半ズボンと半袖だったのを覚えているそうだ。こちらを見ずにただ体育座りをして下を向いていただけだった。顔は見えない。

近くから友人達が探す声が聞こえてくる。
このままだと見つかる。少年に話しかける事もなくAさんは逆側の隅に隠れ声を殺して友人達の声が通り過ぎるのを待っていた。

数分が経ち、友人達がAさんを呼ぶ声がした。すると友人達がこの貯水タンクを突き止め、ついに鉄板の隠れ場所も見つかってしまった。友人の一人が塀に登り顔を出した「Aここにいたのか!」Aさんはついに見つかったと残念な顔をしつつ先程の少年がいた方向へ目を向けると少年の姿がなかった。

Aは自分が息を潜めてる間に少年は出て行ったと思ったが帰り道に友人に聞くとそんな少年は見ていないと話した。貯水タンクまでの道は細く1人が通るので精一杯なので向かいから鉢合わせたら必ず気づくからだ。

Aさんももし少年が自分より先に出るなら塀を登らなければならず物音が出るはずだと思った。帰り道あれは見てはいけない者だったのではと感じ背筋が寒くなりながら足早に帰ったそうだ。それから10年以上が経ち、ある日夕暮れに道を歩いているとその貯水タンクの道を通った。経年のため当時とは違い古びたマンション、塀に変わっていた。急に懐かしくなり貯水タンクの細道を通って貯水タンクの塀のドアの前に来てしまった。大人になりあんなに高く感じた塀が小さく感じた。

大柄なAさんが背伸びをしたら塀越しに貯水タンクのほうを見れるからだ。一瞬久々にあの少年の事を思い出してしまったが誘惑に負け背伸びをしてみた。するとあの当時と変わらない光景が見えた。

貯水タンクがある。隅を見るとあの少年がいた。Aさんは怯んだ。あの時と全く変わらない姿で体育座りをする少年、ただ違うのは顔を上げていた。青白い顔色で無表情にこちらを見ている。ただ小豆の様な目の小ささで黒目だけのようにこちらを凝視してるのだけは分かった。

不思議と危ういと感じなかったようだが、Aさんはすぐに背伸びを止め急ぎ足で貯水タンクの細道を出た。あれからあの道は通っていないそうだ。


サポートして頂けたら、今後の創作活動の励みになります!