窓から見える女
Twitterで知り合った中村さんの幼少期の話だ。彼が小学校高学年だった頃。
親戚の叔父が所有する別荘へ遊びに行く機会があった。場所は和歌山、中村さんが住んでいる大阪からだと車で6時間ほどかかった。
別荘とは言ったが、便利なリゾート地でもない。辺りはコンビニ一つもない単なる山奥だった。当然、高速道路も通っていない。ただひたすら山道を走る。そんな中村さんには悩みがあった。彼の父親が運転する車の独特な芳香剤の匂いが苦手だったからだ。
車に乗るたび、しばしば車酔いに悩まされた。短時間でも酔ってしまい、酷い時は嘔吐することもあった。正直言えば、叔父の別荘にもあまり行きたくはなかった。ある休みの日。別荘からの帰り道だった。父親が運転する車の助手席に彼の母が乗り、後部座席の左側に中村さん、右側には妹が乗っていた。太陽は沈み、辺りはすっかり暗くなっていた。車のヘッドライトのみが、進む山道を照らす。
特にすることもなく、車酔いの不安を持ちながら、ただ窓から暗い景色を眺めていた。途中大きな川が見え、長い橋がかかっていることに気づいた。乗っている車がその橋の手前に差し掛かろうすると、道の隅に誰かが立っていた。それは赤い着物を着た髪の長い女性だった。
その女性の肌は驚くほど白く、光っていた。車のヘッドライトが原因ではないことだけは分かった。中村さんはその女性が普通の人ではないと直感で悟った。けれども不思議と怖いという感情は湧かず、美しさに見惚れる程だったそうだ。
視線を外そうにも何故か外すことが出来ない。ただジッと女性を見つめ続けた。姿が見えなくなるまで。両親や妹にたった今見た光景を伝えるが、「そんな女は居なかった」と、怪訝な顔をされた。中村さんの記憶にはその女性の顔が今でも鮮明に残っている。ただ雪のように真っ白な肌。そして目も口も鼻もない、のっぺらぼうだったからだ。
それから何度か叔父の別荘へ遊びに行き、その橋を渡ったが、その女性に遭遇することはなかったと中村さんは語った。
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