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映画『ほえる犬は噛まない』ネタバレ感想文 ー ペ・ドゥナは噛みつかない

2000年の韓国映画。監督はポン・ジュノ。お目当てはペ・ドゥナ。

ウチの夫婦はペ・ドゥナ好きなんですが、山下敦弘『リンダ リンダ リンダ』(05年)、是枝裕和『空気人形』(09年)以降なもので、初期作品を観てませんでした。パク・チャヌク好きだから『復讐者に憐れみを』(02年)は観てましたけど。ちなみに「ウチの夫婦」と書きましたが、主に「ウチの妻が」です。君とこサイ飼うてんのか。
そしたら早稲田松竹で「ペ・ドゥナをお願い」と銘打った『子猫をお願い』との2本立て上映があったので足を運んだ次第です。いそいそ。

結論から言うと、ペ・ドゥナは満喫したのですが、ポン・ジュノ嫌いが再燃。逆に、ペ・ドゥナのおかげでポン・ジュノ嫌いの理由が分かったような気がする、という話を書きます。
題して「俺はポン・ジュノにほえるが、ペ・ドゥナは噛みつかない」

ペ・ドゥナの表情は見ていて飽きないんですよね。いつまででも見ていられる。
似たような感想は、最近だと『私をくいとめて』ののんがそうでしたが、私の中の代表格は柴咲コウです。コロコロ変わるその表情は見ていて本当に飽きない。『メゾン・ド・ヒミコ』(05年)の時に強く思いました。正直、映画自体は全然覚えていないんですが(<申し訳ない)柴咲コウの表情だけは覚えている。

たぶん私は、この映画のペ・ドゥナも忘れないでしょう。

それで逆に気付いちゃったのさ。
他のポン・ジュノ作品で、魅力的なキャラクターが思い浮かばないことに。

ちなみに私が観ているポン・ジュノ作品は、『殺人の追憶』『グエムル』『母なる証明』『パラサイト』と『TOKYO!』っていうオムニバス映画の中の短編1本。なんだ、結構観てるな。
名優ソン・ガンホが多く出てるのに、いい役柄が思い当たらない。
『TOKYO!』(08年)に至っては香川照之と蒼井優先生だからね!全然記憶にない。他の短編、ミシェル・ゴンドリーの藤谷文子は覚えてるのに。あと、レオス・カラックスは糞だった。

巧いしアイディアは豊富なんだけど、魅力的なキャラクターや感情移入できる登場人物がいないがために、共感できないというか、観ている者の気持ちの持っていき場がない。
これが、私の思うポン・ジュノ総論。

『パラサイト』が分かりやすい例ですが、ほぼ全ての作品で「上流階級」と「下層市民」が描かれます。
当然、「上流階級」は良く描きません。この映画で言えば、賄賂学長とかですね。
一方、「下層市民」も良く描きません。バカでマヌケでグータラな上に小賢しい小悪党として描かれます。
カウリスマキのような市井の人々に向ける優しい視線や、ケン・ローチのように市民寄りの社会に対する厳しい目といったものは皆無なのです。

この映画のペ・ドゥナは、経理としてはダメっ娘ですが、打算が無い。
ポン・ジュノ作品はいつもバカ・マヌケが引き起こす「偶然」で話を転がすのでイラつくんですが、本作のペ・ドゥナのマヌケは双眼鏡を落とすくらい。可愛いもんですよ。
こんな、他作品では見当たらない思わず応援したくなるような素直ないい意味でのバカに対しても、ポン・ジュノは何も報いてあげない。テレビニュースに映るというささやかな願いすら叶えることはない。なんてヒドイ奴。なんて『悪い男』(<それはキム・ギドク)。

無駄話が多くて長くなってしまいましたが、別な観点からも「気持ちの持っていき場がない」ということを少し書きます。

そもそも、韓国の社会情勢が皮膚感覚で分からないんですよ。
『殺人の追憶』『グエムル』で、私は「韓国人だったら面白いのかもしれない」と評したのですが、この映画も同じです。
ポン・ジュノが描こうとしているテーマは「韓国社会に対する揶揄」だと思うんですよね。実は社会派コメディなんですよ。

例えばこの映画で、「ペット禁止なのに皆飼ってる」「戦後、韓国人はルールを守らないから」という会話がありますが、これ、韓国人は笑うのかなあ?
さも当然の「建設ラッシュ=手抜き工事」や「賄賂文化」。ネタなのか?ガチなのか?

ここで言う戦後は朝鮮戦争でしょうし、建設ラッシュの背景はソウル五輪でしょう。53年の休戦後から88年ソウル五輪まで続いていた右肩上がり経済成長も頭打ちとなり、ちょうどこの映画の2000年頃は韓国社会に閉塞感が漂ってた頃だと思うんです。元大統領やその家族の贈収賄が明るみになったりね。ソウル五輪から犬食も禁止されてるしね。K-POPが韓国社会に光をもたらすのはまだ10年近くも後のこと。

そんな状況下での作品だってことは、頭では理解しています。でも皮膚感覚では分からない。だから観ている最中、何の感慨も感情もわかない。気持ちの持っていき場がない。
実は私、『母なる証明』は高く評価しているのですが、これは社会情勢とは関係なく「母の物語」として腑に落ちたからなんです。

そうは言っても、やっぱり巧いんですよ。
ケーキのクダリとかね。箱の高さが札束分足りなくてイチゴを食べるでしょ。あのイチゴの赤は、犬殺しの際のシャツと帽子の色。この映画、「善」の象徴として黄色のパーカーは何度も登場するけど、赤色が強調される場面は他にはない(と思う)。
(2021.02.13 早稲田松竹にて鑑賞 ★★★☆☆)

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監督:ポン・ジュノ/2000年 韓国

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