映画『BLUE/ブルー』リングの呪い(ネタバレ感想文 )
「リングの呪いに取り憑かれた男達」と書くとまるでホラーですが、「ボクシングに魅了された」では少し弱い。
「ボクシングに取り憑かれた」あるいは「ボクシングの呪いにかかった」というのが適切な気がします。
私の中で吉田恵輔監督は、いい意味で期待を裏切る信頼のブランドです。
2018年の私のナンバー1邦画は『愛しのアイリーン』ですし、同年は『犬猿』も高評価していますが、今回もいい意味で期待を裏切られました(そもそも監督が30年もボクシングやってたことが驚きですがね)。
ボクシング映画というとマッチョなイメージですが、実に繊細な映画です。
計量や敵の癖から対策を考えるシーンなど、まるでボクシング自体が繊細なスポーツであるかのよう。この繊細さは、登場人物の心の機微とも重なるのです。
マツケンと東出ぬ〜ぼ〜が主役扱いですが、時生も重要です。あと赤い髪の彼(守谷周徒という役者さんでしょうか)重要です。
私は、この4人の男達が「ボクシングという呪いに取り憑かれた話」だと思うのです。
例えば時生。
ボクシングを始めた動機は女です。しかし次第に「やってる風」から「勝ちたい」「(負けて)悔しい」と言うまでになっていく。
ほら、取り憑かれてるでしょ。
実はマツケンも動機が女だったことが後々明らかになります。『タッチ』状態ですよ。南を甲子園に連れって。南ちゃんは罪な奴。
マツケンが引退したのは負けたことが理由ではありません。東出が勝ったからです。
マツケンは恋のリングに上がることすらできなかった。なんて繊細な映画。文乃ちゃんも罪な奴。
ブルー=青コーナー=挑戦者。
4人を「挑戦者たち」と呼んでもいいのですが、「敗者」にも見えます。誰一人「勝者」がいない。
ダイエット目的のおばちゃんに「こんな芽の出ないことを続けていてどうすんの?」と心ない言葉を投げつけられます。
でも仕方がないんですよ、取り憑かれちゃってんですから。
おそらく若き日の吉田恵輔も、ボクサーではなく映画監督として、同じことを親族辺りに言われたはずです。
「映画監督?そんな夢見てないで、ちゃんと就職しなさい」とかなんとか。
でも仕方がないんですよ、吉田恵輔は映画に取り憑かれたんですから。
世界中ありとあらゆるジャンルの「挑戦者たち」は、こうしたダイエットおばちゃんの悪意なき余計なお世話によって、あたかも「人生の敗者」であるかの如く、コーナーポストに追いつめられるのです。
でも仕方がないんだよ、取り憑かれたんだから。
そう考えるとこの映画は、ボクシングに限らず、人生の青コーナーに立つ全ての「挑戦者たち」へ向けた応援歌に思えてきます。
あのラストのマツケンは、決して人生の敗者の姿ではない。挑み続ける者の姿なのです。
余談
この映画の繊細さを支えているのはリアリティだと思うんです。
そしてそのリアリティを支えているのが、役者の「らしさ」。ものすごく鍛えたんだと思います。皆、ボクサーの面構えだった。そして木村文乃は惚れちゃうほど可愛いかった。
余談2
最近、「ボクシング邦画」が多い気がする。これは何の潮流なんだろう?
『百円の恋』(14年)とか、『あゝ荒野』(17年)とか、観てないけど『アンダードッグ』(20年)とか。え?実写版『あしたのジョー』(11年)?うん、まあ、そうだね・・・。
余談3
試写を観てその完成度の高さに興奮した東出昌大が吉田恵輔監督に電話したつもりが間違って吉田大八監督に電話してしまったという本当か嘘か分からないエピソードがありますが、パンチドランカーだから仕方がない。(2021.04.18 渋谷シネクイントにて鑑賞 ★★★★☆)
監督:吉田恵輔/2021年 日(2021年4月9日公開)