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映画『冬薔薇』 (ネタバレ感想文 )下請けの悲哀物語。絶妙なキャスティング。

「冬の薔薇」と書いて「ふゆそうび」と読ませる薔薇はながあるそうだ。
「厳しい状況に耐えて花を咲かせる」
これは、そういう映画です。

もし私が伊藤健太郎更生企画を考えさせられたら、今更ラブロマンス系のイメージは通用しないわけじゃないですか。かと言ってヤクザ顔でもない。
「甘いマスクのクズ野郎」設定しかないわけですよ。
「半グレもどき」って絶妙だと思うんですよね。
永山絢斗や毎熊克哉の半グレ感も絶妙。
彼ら、ヤクザ顔じゃない。イケメンなんですよ。それが悪い奴だっていうのが今時感があるんです。

一方、おじいちゃんたち。
石橋蓮司に伊武雅刀。彼らはかつて「悪役顔」でブイブイ言わせた人たちですよ。伊武雅刀なんかデスラー総統だからね(顔じゃなくて声だけど)。
かつての「悪役面」が今や「人のいいおじいちゃん」。
方や、イケメン半グレ。
絶妙なキャスティングだと思うんですよね。

さらに言えば、「イイ人に見えて実はヤバい奴」ってのも今時なんですよ。
よくある注意喚起で「不審な人を見かけたら……」的なものがあるけど、古くてさ、本当にヤバい奴は不審な挙動なんかしない。
このキャスティングも絶妙で、そいつの父親役=真木蔵人でしょ。そいつがヤバいのはお前の血だよね、って思っちゃう(<失礼な言い草)。

そんなことはさておき、小林薫と余貴美子の夫婦喧嘩なんて絶品。リアルすぎて見てらんない。

また、海運業も半グレも「下請け仕事」なんですよ。
社会の底辺、とまではいかない辺りが絶妙で、今時のご時世感がある。
下請けが抱える「緩やかな理不尽さ」。
これが、今の日本全体を覆う閉塞感の一因なんじゃないかって気がしてきました。

実はこの映画が描く「甘いマスクのクズ野郎」も「半グレ」も「下請けが抱える緩やかな理不尽」も、全部「半端で分かりにくい今時の風潮」を象徴しているように思えるのです。
日本に限った話じゃないんだろうけど、世界は年々シンプルさを失っている。

そして阪本順治の観点で言うと、『半世界』(2019年)で描いた父子の物語と、『一度も撃ってません』(2020年)で描いた「俺たちの時代が終わろうとしている」物語の延長上にあるように思います。
阪本順治、まだ63歳なんだけどな。

いい映画でしたよ。
ちょっと、モヤモヤするけど。
あと俺、阪本順治に甘いけど。

監督:阪本順治/2022年 日(2022年6月3日公開)

(2022.06.05 新宿ピカデリーにて鑑賞 ★★★★☆)

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