コロナ禍で事業の「3年間で3ステップ」を実現した秘訣とは
文/本誌編集長 蒋豊
新型コロナウィルスは猛威を奮い続け、2022年は感染爆発して3年目となる。華僑華人の多くがコロナ禍で経営困難に陥っている現在、本誌は株式会社サオスの馬寧社長に注目した。馬寧社長はIT企業の出身で、この3年間で飲食店運営への投資からIT技術サービス支援の創業へ、さらに不動産投資情報プラットフォームの開設まで、3年間で3ステップを確実に実現させてきた。このコロナ禍で逆に飛躍できた背景には何があるのだろうか。
イノベーションで人々の人生を幸せに
社名の「サオス」は日本語の「幸せ」のローマ字読みから取ったものだ。馬寧社長は「イノベーションで人々の人生を幸せにする」と、シンプルな表現で自身の起業理念を語る。社会に出て十数年、IT技術者からシステムアーキテクトへと、IT技術が進化し続けるのに伴い、彼の人生航路もまたイノベーションとバージョンアップを続けてきたのである。
2019年5月、馬寧社長は本格的な中国料理店「味四川 四川ダイニング」を開業させた。なぜITと全く関係のない飲食業に参入したのか。コロナ禍の前、訪日中国人観光客と在日華僑華人は年々増え続けていた。彼の住む千葉県も首都圏であり、ライフスタイルや流行も東京と同調している。住んでいる日本人の多くは中国に行ったことがあり、本格的中国料理のファンが多い。しかし、残念ながら近くには正統派の中国料理店がなく、いつも友人たちから「無性に食べたくなる」と愚痴をこぼされていた。
馬寧社長は冗談めかして、長年「ソリューション」が仕事でしたから、と話す。プログラム理論は問題解決のための理論である。IT技術者として、問題の発見を得意とし、ソフトウエアを開発し、システマチックに問題を解決してきた。市場にニーズがあれば、本格的な中国料理店を開業しない手はない。
思いついたらすぐに着手する。馬寧社長は調達、注文、提供、支払い、在庫管理などのプロセスを一貫させたレストラン管理システムを構築し、東京の有名レストランの特級シェフと提携合意し、料理の質を保証して、一流の味を確保した。
興味深いことに、「味四川」は客の流れが多い1階ではなく、わざと2階で開業している。他の同業者との過当競争を避け、広々とした店内、優雅な個室、接待向けのしつらえによって、開業後わずか5カ月で純利益を計上した。日本では12月に忘年会を行う習慣があるが、馬寧社長が設計したレストランは宴会に理想的であり、快適な空間で味の良い「味四川」は開業から7カ月しかたっていなかったが、早くから近くの日本企業の忘年会の予約で埋まった。
2020年初めには新型コロナの感染拡大が日本の飲食業に深刻な打撃をもたらしたものの、客観的には日本の飲食業の「デジタル化」の進化を促し、次々に「デリバリーとテイクアウト」へと参入、「三密」を避ける対策に動いた。しかし、IT技術者出身の馬寧社長は「味四川」オープン当初から、デリバリーとテイクアウトのプラットフォームを構築しており、他の経営者たちがそれらのシステムのインターフェイスとフローを模索しているとき、「味四川」はすでにテイクアウトの人気店になっていたのである。
コロナがデジタル化を促進 IT人材育成ビジネスを産出
「味四川」の成功は、市場に新しいビジネスモデルを提供した。IT業務に従事することと、飲食店経営は対立、相反するものではなく、情報時代においてITは伝統産業のリソース統合をサポートし、効率を上げることができる。もちろん、このような成功は偶然によるものではない。
「味四川」の経営が軌道に乗るのと同時に、馬寧社長はIT人材育成ビジネスにも乗り出した。ここで注目すべきは、彼は単に人材派遣会社を設立するだけでなく、完全なIT人材育成課程を構築しようとしたことである。プログラミングを学びたい若者は、サオスの人材育成課程でトレーニングを受け、審査を通れば同社に入社し、その他の傘下組織に勤務して顧客のニーズに応じた技術サポートを提供し、システムの問題を解決し、専門人材としてイノベーション能力を発揮することになる。
コロナ感染の蔓延に伴い、日本政府は感染防止対策を打ち出した。対策に協力するため、日本企業はリモートワーク、デジタル化の経営モデルへと転換した。もともとはコロナ禍によって迫られた変革であるとはいえ、客観的にはサオスに成長のチャンスをもたらした。同社は日本企業にAIのサービス、業態フレームのバージョンアップ、ビジネスモデルの再構築を提供し、確固たる技術によって2020年度には純利益を計上したのである。これこそ、ピンチはチャンスということだ!
情報共有、緊密な双方向の開かれたプラットフォーム
不動産の権利の永久性と賃貸料の高さを比較すると、日本の不動産はコロナ禍においても依然として成長し続ける可能性を持っている。また、中古市場の質が高く、設備も整い、快適であることが、日本の不動産市場が購入者を引きつける要因の一つでもある。
馬寧社長は、日本の不動産業界は情報プラットフォームを持っており、安定しているものの、閉鎖的でもあることに注目した。不動産仲介業者だけがこのプラットフォームに入り、自社物件を公開するかどうか選択できるので、一般の購入者が積極的に全体の情報を得ることは難しい。さらに、こうしたプラットフォームは仲介業者と購入者間の縦方向だけの交流にとどまり、購入者同士の横のつながりには対応していない。この壁を突破し、不動産市場に参入しようとする多くの潜在的な顧客にチャンスを提供し、市場の活力を喚起し、好循環を促進するため、馬寧社長はまた「ソリューション」を試みた。
早速サオスは不動産投資情報プラットフォーム「不動産投資HouseFan」の構築に着手した。リソースの統合により、台湾で十数年間の歴史を持つ不動産情報ポータルサイトを買収し、8カ月間の準備期間を経て、「HouseFan」は日本(HouseFan.jp)、中国大陸(HouseFan.net)、台湾(HouseFan.tw)の3地域に向けた総合情報プラットフォームへと迅速に成長した。
「HouseFan」は多言語に対応したサービスを提供できるプラットフォームである。日本語のわからない海外の購入者にリアルタイムで日本の不動産情報を提供するため、自動翻訳機能サービスがある。不動産の物件ごとに管理費用、修繕基金、賃貸料の予測、投資回収率、年間収益など購入者が関心を持つ完全かつ詳細な情報を提供、全てが目立つように並んでいる。交通アクセスの良さ、付帯の教育施設、水道や電源の位置、駐車場の条件、ペット飼育の可否、室内外のインテリアなど住み心地についての細かい情報についても、すべて中国語で詳細に説明されている。
最近話題を集めている「バーチャル内覧」について馬寧社長は、現行の技術では物件のすべての状況を把握することは難しく、認識誤差も避けられないので、人的サービスによるカバーが必要だと明言する。
不動産購入のプロセスにはまだ軽視できない問題がある。売主と買主間での情報が平等でないことや情報の授受に誤差があることにより、不動産取引に瑕疵が生じることもあることだ。例えば、日本では不動産取引において仲介業者には「告知義務」があり、買主に対して物件の瑕疵を含む全ての情報を告知するが、買主は「高速道路に近い」という説明を受けるものの、それについての具体的な影響については知り得ない。住み始めてから、車の騒音が耐えられないほどであることがわかってクレームをつけても、法律的なサポートは得られず混乱するだけである。
そこで、「HouseFan」はオープンな不動産情報のプラットフォームを構築し、購入希望者が即時に情報を一括して入手し、全面的な情報を得ることで事実に最も近い理性的な評価を下せるようにして、現在の日本の不動産投資市場の問題を解決するよう取り組んでいる。これも市場のニーズに注目した馬寧社長の「ソリューション」である。
サオス傘下の優秀な開発チームが丹念に作り上げた「HouseFan」はバージョンアップを続け、コンサルティング、SNS、レジャー、サイエンス、マーケティングなどの多機能の総合プラットフォームへと成長した。ここでは不動産取引のプロセスにおいて何気ない落とし穴を避けられるだけではなく、異文化ギャップによる理解のずれをなくし、専門的な知識をも得られるのだ。
「HouseFan」は物件情報を収集できるだけでなく、さらに買主のコミュニケーションを図るためにSNSを開設している。同じタイプの物件に関心を持つフォロワー同士がリアルタイムに交流し、グループを作り、情報をシェアし、問題を検討し合い、その後住宅を内覧、購入して、友達になった者同士で一緒に遊ぶようになる。馬寧社長の「情報の時代には情報を得た者が天下を取る」という視点はまさに急所を突いている。
取材する中で、2週間前に台湾向けの広告が正式にリリースされたことを知った。「HouseFan」は日本から東アジア地域に広がり、最も活力ある、技術革新で業界の発展をリードする総合的な情報プラットフォームとなる。サオスはまさに産業地図を塗り替えつつあると言えよう。
取材後記
新型コロナが世界を席巻するなか、馬寧社長は事業の「3年間で3ステップ」という「クロスオーバー」を成し遂げた。彼はITを動力源として、1から3を実現し、将来はさらに多くをプラスしていくだろう。コロナ後、歩みを止めることのない彼はどのようにブレイクスルーを成し遂げていくのだろうか。
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