ピープルフライドストーリー (14)三毛乱短編小説

【作者コメント: 2018年以前のある芸能人をイメージした女性が登場するが、当時ほぼ完成してた話で、壇蜜さんで映像化したいと思っていた。ま、知らんけど、…というつっこみ言葉が聞こえてくるかも…しれないけが…。(途中、笑いだしながら作成した事も報告しておきます。)】

    第14回
 
   パンティが……  

 (落ちている物 その②)

       by  三毛乱

 
 その男が20代後半になって英語塾に通い始めて8ヵ月が過ぎた。
 塾仲間も出来た。
 塾の時間を終えて、塾仲間と建物を出ても英語で会話した。
 例えば、塾仲間が「Let’s  go  to   a  yakiniku  restaurant .」と言うと、男はその時あいにく持ち合わせがあまりなかったので「I  have   no  money .」と応じた。
 塾仲間は「How  about  a  ramen   shop .」 
 男は「I  have  no  money .」
 塾仲間は「Really?」
 男は「Really .」
 塾仲間は「Now?」
 男は「Now .」
 塾仲間は「OK . OK .  See  you   next  week .」
 男は「Next  week .」
 塾仲間は「Bye  bye .」
 男も「Bye  bye .」  
 …………と、こんなふうに会話が行われていた。


 さらに2ヶ月が過ぎて、男はいくらかお金が手に入ったので、久しぶりに 友人達とお酒を飲んで、カラオケ店へ行き、その後の深夜に一人で歩いて帰宅した。
 幹線道路から横道に入り、いくつか角を曲がりながら歩いて行くと、街灯がチカッ、チカッと点滅している道路に出た。
 そこに何かが落ちていた。近づくと、それは広げられたパンティだった。
 普段なら、パンティを見てもあまり興味を示さなかったが、その時男はそのパンティに魅力を感じていた。
 街灯の点滅してる音も男の心を急き立てているようだった。
 男は誰もいないか辺りを見回すと、素早くそのパンティを拾って胸元に隠すと一目散に駆け出した。

 ワンルームのアパートの部屋に着くと、男は息を切らせながら、パンティをテーブルの上に広げた。そして観察した。
 全体はやや青みがかった黒の高級感のある花柄模様の刺繍入りレース生地を使用して、あちらこちら向こう側が透け抜けて見えるようになっている。広げたパンティの前面は厳密な縦ではないが三分割に区分されていて、両サイドより真ん中の部分がより花柄が密集しており、その結果両サイドより黒くなっていて、女性の大事な部分をなるべく隠そうという意図が分かる。でも透け抜け感はまだあるので、向こう側が見えなそうで見えそうな感じがたまらなく男の心をくすぐる魅惑的なものとなっていた。
 両サイドの一番端の下には可愛い小さなフリルも幾つかあり、それも男にはグッとくる魅力があった。
 全体としては強烈なセクシーショーツというものではなく、シックな大人の色気を持つ女性が身に付けるようなしっとり感があり、つまりはつややかな色気を感じるものだったのだ。
 その、つややかな色気の一番の誘因は、黒く花柄の密集した部分の上方の絶妙な位置に青い多面体の宝石がとり付けられていた事によるものだった。
 この宝石が本物なのかニセモノなのか男には判らなかった。そもそも男は宝石類には疎かった。たぶんエメラルドかサワァイアだろうと思った。この青くきらめく宝石が絶妙な大きさ・形で付けられていて、そのパンティ全体の配合・バランス具合が男を大きく魅了していた。
 パンティに宝石がこのように取り合わされているのを初めて見たので少なからずびっくりもしていて、どうやらインポート製品なのではないかという気がした。
 男はどんな女性がこれを身につけるのか想像してみた。
 芸能人をいろいろ思い浮かべてみた。すぐに甘蜜が浮かんだ。
 そうだ、甘蜜だ。と思った。
 甘蜜ならこのパンティに似合っている。甘蜜がスカートの下に上品な落ち着きさがあり、かつ艶やかさがあるこのパンティを身につけて街を歩いていくのを想像すると男はだらしなくニンマリとした顔になった。
 普段は、男は甘蜜のことを特段好きだとも思ってなかったが、どうやらこのパンティが男の潜在意識をあぶり出したのかもしれなかった。
 パンティの後ろ側も観察してみた。
 その後ろ側を見ていると、それを身につけてる甘蜜のお尻を想像してしまい、またニンマリとしてしまった。
 パンティの内側を裏返して観察すると、裏面の腰に触れる部分に何かが金糸刺繍されていた。目を凝らすと、とても小さな文字が幾つも丁寧に刺繍されているのが分かった。
 金糸刺繍……とは、これもまた奥床しさを感じる言葉だと男は思っった。
 男は父親の遺留品でもある虫眼鏡を、乱雑に積み重ねられたダンボール箱の中から取り出してじっくり文字を見ようとした。父親の虫眼鏡は直径75㎜、倍率5倍だった。父親もこんなふうにパンテを虫眼鏡で調べた事があったのかなと思ったらちょっと笑ってしまった。
 金糸刺繍されていたのは住所であった。まぎれもなく住所だった。
 男は甘蜜が小学校の先生となって教壇に立ち「みなさん、大事なものには名前を書きましょうね。できたら住所もね」と生徒へにこやかな笑顔で言ってる映像が想像できた。
 生徒らが「は~い」と言ってる声も男の頭の中で響いていた。
 男は、そのように素直な女生徒の一人が成長して大人になって大切なパンティに名前はともかく住所だけは小さく刺繍して大事に扱っている事を示しているのか、はたまた生徒ではなく甘蜜のような先生が自ら自分の言葉どおり大切なパンティに小さく小さく匠の技の如くの金糸刺繍をしているのかの2択だと思った。
 男は甘蜜のような先生自らだといいなと思った。
 そしてこのパンティをどうしたらいいか考えた。
 …ただ俺はこのパンティを身につけている女性を空想して愉しんでいるだけだ…。

 男はその夜に何の結論も得なかった。紙に住所を書き写した後は、ただパンティの前で悶々としただけだった。明け方になってようやく寝る事が出来た。夢を見た──裸の甘蜜がこのパンティを身につけて、手で乳房を隠してグラビア撮影のようなポーズを数限りなく続けていく──そんな夢が眠っている男を悩ませて悶々とさせて苦しませた。

 昼ごろ目覚めた男には仕事も何も予定が入ってない日だった。
 男は、パンティを金糸刺繍されている住所に持って行こうと思った。住所を標す程だから大事なパンティに違いない。持って行って甘蜜に似た女性に返してあげなくては…。
 その後俺は何を期待しているんだろう…。
 男はもちろん淡い期待を抱いていたのだが、それは考えない事にした。
 男はアパートを出て、途中でパンティを入れるお洒落な感じの小さな紙袋を買って、駅に着くと電車に乗った。一駅で降りた。
 紙に書き写した住所は、その駅近くの商店街を抜けて静かな街並みに入り、緩やかな坂を7分程歩いた10階マンションの10階の一室だった。
 男はその建物のエレベーターに乗り込むと胸がどきどきし始めた。
 10階でエレベーターを降りて、陽のあたる外廊下へと出た。
 そこには後ろ姿の甘蜜がいて、何度も笑顔で振り返っては手招きを──掌を上にして、小指から薬指中指へと指を曲げて引き寄せる動き、妖しく誘い込むような娼婦がするような指の動きを──しながら男の前を歩いて誘導していく。そして一番奥の部屋のドアの前に来るとふっと姿が消えた。
 男は眼をしばたかせた後に、いまの甘蜜は自分の空想による幻だったのだとやっと気がついた顔となった。
 そして、紙に書かれていた住所と同じ場所の部屋のドアの前にいるのを何度も確かめた。
 しばらく男は立ったままだったが、最後の決心をしたような顔でドアのカメラ付きインターホンを押した。
 すると「ドウゾ オハイリクダサイ」と機械による人工的な女性の声が聞こえた後に、ドアの鍵が自動で開いた音がした。
 男はゆっくりとドアを開けて中に入った。
 入ると玄関に置いてあったスリッパを履いて仕切り壁の続く廊下を歩いた。仕切り壁の全面には、男の観測では太陽系ではないと思われる宇宙の絵が暗く神秘的に描かれていた。
 突然、天井に設けられた幾つものミラーボールからの発光した様々な色がぎらぎらと流れて廻り始めるとともに、耳をつんざくようなディスコサウンドが鳴り響いた。
 1990年代のジュリアナ東京でワンレン・ボディコンの女性らがお立ち台で踊っていた場面に流れていたような曲だった。フウッ!フウッ!というかけ声のような合いの手のような声が時々入ってくる軽いノリのダンスミュージックが大音響で流れ始めたのである。
 男は体が固まりつつも前に進んだ。
 廊下が途切れて開け放たれている入口で、慎重な面持ちで広々した部屋の中を覗くとアンティック調の箪笥や鏡などの高級感ある家具もちょっと見えたが、部屋のどこもかしこもが、ここでも幾つものミラーボールからの光の色が乱舞狂喜して煌めいていた。
 広い部屋には幾何学模様の仕切りカーテンがあちこちに幾つもあり、一番奥のカーテンにはスポットライトからの強力で大きな金色の光が当たり出した。   
 そのカーテンがするするとスライドして、ベッドが見えてきた。
 ベッドの上には、体重は部屋を覗いた男の3倍はあるかと思われる巨体でつるつる頭の50代の男が裸でうつ伏せに寝そべっていて、左手の上に顎をのせ、銜えてた長煙管を右手で口から離してはぷかぷかと優雅に煙を吐いていた。
 その全身を覆い包み込む金色の光を浴びて、巨体男は深海に棲むふしぎな生き物を思わせた。
 ダンスミュージック曲の爆音が絞られて低くなった。
 巨体男はゆっくりと首を廻して、部屋をおずおず覗いている男 を見ると、胴間声を張り上げた。
 「カモ~ン。いらっしゃ~い」
 精一杯甘い声を出したつもりだったのかもしれない。ニッコリと笑った。
 さらに、先程の幻の甘蜜と同じく、掌を上にして小指から薬指中指へと指を引き寄せる─大きな太い指での─動きの手招きをした。
 それを見た男は、思わず「……I  have   no  future …」と洩らすように言った。そして、すぐそのあとに、俺には文字どおり将来はないのかも……と思った。


              (終)
            2023  2  3
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             秋山
             あい  
              の
           パンティ
           オロジー
            という
              本
            を見た
            過去の
            記憶も
             参考
              に
             して
             作成          
             しま
             した
              …
                                                         ..
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