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ぺんてるOBに聞く、シャープペン替芯を強くする研究の奥深い世界とは!?

こんにちは、シャー研部員の藤村です。

以前にお届けした記事の中で、シャープペン替芯についてお話ししましたよね。

ハイポリマー芯が生まれるまでには数々の工夫や苦労があったことを知り、あれから、もっとシャープペン替芯について研究を深めたい…!と思うようになりました。

そこで先日、シャー研部内でこんな質問をなげかけてみたのです…

シャA:ねえねえ、みんな!シャープペン替芯についてもっと深く研究したいのだけど、開発に詳しい人いないかなぁ?

シャB:う〜ん……。
あっ!そういえば、ぺんてるのOBで、替芯の強度を上げた人物がいるというのを聞いたよ。その人に聞いてみたらどうかな?

な、なんと!“替芯の強度を上げた人物”ですって…、何やら研究心をくすぐるワードが飛び出してきました。これは間違いなく何か面白い話が聞けるはず!ということで、早速インタビューのオファーすることに。

その人物の名前は、ぺんてるOBの「堅田(かただ)さん」。
私たち研究部のこと、ノック式シャープペンとシャープペンの替芯60周年ということを伝えると、快くお受けいただけました。1970年代以降のシャープペン替芯市場のお話や強度を上げた“秘策”などどんな話が飛び出すのやら…!


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シャー研部員(以下、シャ):初めまして!シャー研部です。今日はどうぞよろしくお願い致します!



堅田さん(以下、堅田):よろしくお願いします。

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この方がぺんてるOBの堅田さん。1971年にぺんてるに入社してから2007年に退職されるまで、主に研究、企画、そして製造とぺんてる一筋でお仕事をされてきた方です。

え!替芯の強度を測る「強度計」の開発者!?


シャ:今日は「シャープペン替芯」の開発に関してお伺いしたいと思ってます。

堅田:はい。よろしくお願いいたします。

シャ:早速ですが、社内にあったハイポリマー芯や歴代の替芯など持ってきました。
こんな装置もあったので持ってきてみたのですが…ご存知ですか?

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堅田:おお、懐かしいね。実はこれ、僕が作ったんですよ。

シャ:えぇっ!?か、堅田さんが作られた装置だったんですね。

堅田:これはね「強度計」と言って、芯の強度を測定する装置なんです。自社のシャープペン替芯がどれだけ強度があるのかを、セールスマンが営業先で実演するために作ったんです。ここに芯を入れて、こうやって力を入れると…ポキっと芯が折れる。


芯が折れた目盛に「何グラム」と書いてあるので、芯の強度が目で見てわかるんです。当時はみんな持ち歩いていましたね。

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しょっぱなから、驚きを隠せないシャー研部員たち。ぺんてる社内で受け継がれている、「強度計」の生みの親が堅田さんだったとは…!


そもそも当時の替芯研究室って、どんな研究をしていたの?


シャ:堅田さんが入社した1970年代のシャープペン替芯市場はどんな様子だったんですか。

堅田: 私が入社した1971年には、ハイポリマー芯の登場からすでに11年が経っていました。ですが、変わらずぺんてるの「ハイポリマー芯」は人気。
1960年の発表と同時に特許を出願したこともあり、合成樹脂を使用した芯を作れるのは、ぺんてるだけだったんです。当時、ぺんてるの替芯は国内シェアの約50%を占めていました。海外に至っては80〜90%とかなりの割合でしたよ。ほぼ独占状態でしたね。

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シャ:驚きの数字ですね。

堅田:ただ各社開発には前のめりでしたから、市場ではいろんな商品が出ていました。例えば、芯の上に金をコーティングして強度を上げたゴールド芯やアスファルト素材を使用した芯、天然樹脂を使ったネオ芯なんかも他社メーカーから販売されていました。

シャ:ゴールド芯ですか、なんだか名前だけで強そうです(笑)。

堅田: その頃から芯の多様化というか、いろんな芯が登場してとても面白かったです。

シャ:なるほど、群雄割拠の替芯戦国時代へ…という感じですね。

堅田: 1977年に特許権が終了した後は、他社も樹脂芯開発に乗り出して次々と新しい商品が市場に出てくるようになりました。その中でぺんてるは頭一つ抜け出すために、日々研究に取り組んでいたわけなのですが、その研究に取り組んでいたのが「替芯研究室」なのです。



シャ:「替芯研究室」というと、シャー研としてはワクワクしてしまうのですが(笑)、
どんなことをしていた部署なのでしょうか。



堅田:主に既存の替芯商品の改良と新たな替芯商品の開発をしていました。私が入社した頃は「芯の強度アップ」がミッションでした。強度の高いハイポリマー芯の登場は当時画期的でしたが、芯の強度はまだまだ上げていく必要があったんです。
一般的にシャープペン替芯は、①配合→②ロール混錬→③成形→④熱処理(低温・高音)→⑤浸油という手順で製造します。私たち研究室は、この各製造工程の段階で、実験と検証を重ねてさまざまなアプローチをしていくんです。

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▲一般的なシャープペン替芯製造の手順


シャ:具体的にはどうやって芯の強度を上げるのですか?

堅田:具体的には3つです。

1つ目は、もっといい素材がないか探っていく【素材の追求と実験】です。強度を上げるために樹脂などの粘結材や黒鉛、樹脂の劣化防止を目的とするその他の材料など、さまざまな材料の見直しをします。もちろん扱う材料の種類や量も検証します。

2つ目は、もっといい加工方法はないか、またそのために必要な製造装置はどういうものかを考え、作る【加工方法の追求と装置製作】です。シャープペン替芯の加工に際して、配合や混錬、成形、熱処理といったいくつか工程があるのですが、その手順の見直しや研究も行います。また、製造機械は市販のものではないため、設計部分から考えたりもしましたよ。

そして最後に、【筆記メカニズムの追求による替芯の理想構造、目標構造の策定】です。これは、「芯の強度をアップするぞ!」というときに、どのぐらいまで上げるのかという目標を設定して、どんな基準を満たしたら、強度が上がったと判断するかという設定をすることです。

シャ:ちょ、ちょっと待ってください。
想像していたよりも、だいぶ守備範囲が広いのですが…!

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堅田:そうですね。当時は私を含めて研究室のチームは5〜9名ほどだったので、大変でしたよ(笑)。基礎的なところから地道にやっていくしかないですし、そもそも業界でもまだ研究の方法論などが確立されていなかったので、他社メーカーで真似をできる相手もいませんでしたしね。


現役社員も知られざる、ぺんてる替芯の工夫とは…!?


シャ:製造工程ではどんな工夫をされたんでしょうか。

堅田:具体的なところでいうと替芯の材料をつくる際の⿊鉛と合成樹脂を混ぜ合わせたものを練りこんでいく「混錬(こんれん)」という⼯程に、⿊鉛と樹脂がよく混ざり合うように、ぺんてるならではの⼯夫があります。

シャ:へー!なるほど!

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シャ:吉川工場の機材を見たことがあるのですが、中にそんな工夫がされていたとは知りませんでした。

堅田:それからシャープペン替芯の製造では、季節変動によって出来栄えのちがうことがあります。

シャ:それはどういうことですか?

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堅田:人も雨の季節の湿気を嫌うように、梅雨の時期など気候が芯づくりには大きな影響を与えるんです。そのあたりも気をつけて、製造を進めなくてはいけないのです。

シャ:製造過程でとにかく芯の硬度を下げないように!ということが研究のポイントなのですね。実際に強度がアップしたということはどのように証明するんでしょうか。

堅田:それが3つ目の「筆記メカニズムの追求」ですね。
 
当時、研究室ではこの「強度アップ」というテーマでデミング賞*に応募をしようとしていたのですが、研究発表するためには数値が必要だったのです。そこで、出来上がった芯の強度アップを証明するために、ぺんてる社員300人にシャープペン替芯を使用してもらう実験をしたんです。

※デミング賞…総合品質管理の進歩に功績のあった民間の団体および個人に授与されている経営学の賞
参考:日本科学技術連盟HP「デミング賞

シャ:さ、300人!?
     

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堅田:一人ひとり原稿用紙に書いてもらうのですが、人によって筆記のクセというものがありますよね。寝かせて書く人もいれば、筆圧が高い人もいます。ですから、筆圧計や角度を測定する装置を使って条件を調べていきます。
芯の条件としては「3回ノック」というのを基準にしました。
3回ノックすると1.5mmくらい芯が出ます。その状態で芯が何回折れたのか、というのを測定していったんです。99%くらいの人が「折れない」という結果になれば、強度が上がったとするという基準も設けました。

実はその時、実験を手伝ってくれていたのが、現ぺんてるの会長の和田優さんなんですよ(笑)

シャ:えーーーー!!!!!
   そんな意外な繋がりがあったんですね。

堅田:当時和田さんは大学生で、論文を書きながら吉川工場の芯の製造ラインに入ったり、膨大な実験結果を一緒にまとめてくれたりと、本当にお世話になりました。替芯研究室みんなの努力が報われ、1976年には晴れてデミング賞を受賞することができました。


悪戦苦闘の0.3mm替芯…。繊細な替芯の、複雑なレシピ。


シャ:堅田さんが今までで一番印象に残っている開発ってなんですか。

堅田:今までで⼀番難しかったという意味でいうと「0.3mm芯」の開発ですね。1968年 に0.3mm芯は発売されましたが、発売当時は強度が低く、すぐ折れてしまっていました。そのため、こちらも強度アップが求められたのですが、0.3mmはとにかく細いので、とても繊細で、苦戦しましたね。成形するときに圧⼒を加えると、正確な芯径にならないですよね。おまけに、ものすごい力で押し出すので、圧力がかかりすぎて成形の機械がネジごと吹っ飛んだり…と苦労の連続でした。

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シャ:細さを追求するとそれだけ高度な技術も必要になってきますものね。それはどのように解決したんですか?

堅田さん:芯の材料・配合を見直しました。
  
0.3mm芯の配合は他の芯とは違って独特な材料を入れて解決しているんです。

シャ:なるほど、0.3mm芯には複雑なレシピがあるんですね。

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堅田:はい。とにかく大変でしたが、同時に一番楽しい時期でもありましたね。


恵まれた研究環境があったから、数々のアイデアが形になった


シャ:「芯の強度アップ」のほかに、どんな研究を行っていたのでしょうか。
  

堅田:たくさんやりましたよ。
替芯の研究をしていたから、その後の研究に活きたということもたくさんあります。 例えば、シャープペン替芯と同じように炭化の理論を使って何かできないかという話になった時に、新規事業で活性炭となりました。会長(当時:堀江幸夫会長)に直接提案してみると「だったら知り合いに炭作り名人がいるから、弟子入りしなさい」と
言われまして(笑)。

10日ほど炭の修行をしに山梨県まで行きました。そこで得たことを研究室に戻って再現するため、工場の脇で活性炭を作ってましたよ。できた炭を会長に渡してみると、実際に試してくださって、その次の巡回の時に「あの炭は凄い」と褒めてくれました(笑)。実際に商品化はされませんでしたけどね。

シャ:「ぺんてる木炭」が存在していたかもしれないんですね!
シャープペン替芯開発から炭づくり…。当時は自由な研究環境だったんですね。

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堅田さん:研究開発という面では非常に恵まれていましたね。
当時の堀江会長が吉川工場に月1回巡回をする日があったのですが、研究室はいつも最後に回ってこられるのでじっくり話を聞いてくれるんです。「こういうことをやりたい」「それにはコレが必要だ」と伝え、それに応えてもらっていたのです。でも、それだけシャープペン替芯に対して、ぺんてるとしても力を入れていたというわけだと思います。


未来のシャープペン替芯と、これからの研究とは


シャ:堅田さんは、これからのシャーペン替芯はどうなっていくと思いますか?

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堅田:シャープペン替芯の品質はどんどん上がっていると思います。これからは、「字が上⼿に書ける芯」といったテーマのように、 シャープペンやシャープペン替芯などのツールと実際に⼈間が書いた⽂字との間で何らかの関連付けができれば、また新しい商品が⽣まれてくるんじゃないかと思って います。そういった新しい切り⼝の商品が⽣まれてくることを期待しています。

シャ:それにはやはり発想力と、実現するための技術力がないとダメですよね。

堅田:そうですね。後は、とにかくいろんなことをとやってみるというのが良いのかもしれません。研究者自らが面白がって取り組めるテーマを見つけるというのが一番良いです
よね。

   

そういえば、今回取材のお声がけをいただいて、昔の資料をあれこれ探していたらこんなものも自宅に眠っていましたよ。

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シャ:なんですかこれは?


堅田さん:入社当時に配られた社員のしおりです。社訓やら何やらが書かれているのですが、会社の規則だけじゃなく歴史上の偉人たちの名言、社長訓、それに日々の生活に関する言葉なんかも載っていたりします。例えば、こんなのとか……

「朝の気分はその日の仕事に大きく影響します。愉快な気持ちで出勤を心がけましょう」

シャ:面白いですね。仕事のためというよりはもはや、ライフスタイルや自分を育てるところから説いてくれるような言葉ですね。

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堅田:そうそう。今見ても面白いですよね。
当たり前のことだけど、働く上でとても大切なことが書いてあります。こういう風土というか、大切にしていくべき教えがしっかりと社員にまで行き渡っていたんでしょうね。ものづくりに真摯に向き合う姿勢や、さらには人間として真っ直ぐに生きていくことが、研究でも活きてくるのかも知れませんね。

シャ:今日はとても勉強になりました。ありがとうございます!



堅田:こちらこそ、ありがとうございました。

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あんなに小さなシャープペン替芯1本にも、研究者の工夫と知恵、そして技術力が詰まっていたんですね。

わたしたちが消費者として 何不自由なくシャープペン替芯を使い続けてこられたのは、
堅田さんのような研究者の存在があってこそ。

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インタビューを終えて、
改めてシャープペン替芯を眺めてみると、単なる消耗品ではなく、とても偉大な存在に思えてきます。

シャー研部員として、今回研究のプロにお話を伺えたことも非常に勉強になりました。
これからも、シャープペンとシャープペン替芯の魅力を、あらゆる形でみなさまにお届けしていきますね!

では、また!