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②ACYウェブセミナー「vol.2 作家活動を伝えるデザインとは?画家のホームページ制作」

2022年3月11日から計4回にわたり開催したアーツコミッション・ヨコハマ(ACY、横浜市芸術文化振興財団)主催のウェブセミナー「アートの現場にあわせたWEBページ作成とアーカイブ講座」の後日アーカイブ記事になります。

当記事では、22年3月23日に開いた第2回のウェブセミナーの記録に加えて打ち合わせ段階のやりとりも盛り込み、再構成しています。


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はじめに・庄司朝美さんについて

多摩美術大学出身の画家で、透明アクリル板に油彩をのせる独自の手法で数々の作品を制作されています。

2018年に介川がポートフォリオサイトの制作を担当いたしました。作品点数、展覧会の出展ともに多くなってきたタイミングで、庄司さんの制作スタイルに合わせ、少ない階層で実績を一覧できるようなサイト校正を提案いたしました。

22年2月からは海外研修で東欧ジョージアのトビリシに拠点を移し、活躍の幅を広げています。

22年3月23日に開いた第2回のウェブセミナーでは、Zoomを介してジョージアの庄司さんをゲストに招き、対談形式でさまざまな意見を交換しました。

アーティストがホームページを持つということ

ここでは、ホームページを実際に運用しているアーティストの体験を掘り下げながら、第1回の主題である「なぜアーティストはホームページが必要なのか」について考えていきました。

第1回では制作者から見た側面からセルフプロモーション作家としての信用・信頼度向上につながるという2点のメリットを紹介しました。

庄司さんにとっては、自分の活動を振り返って考え方を整理できることや作家としての性格・スタンスなど、表面的でない情報を読み取ってもらうことができると、作家活動をより高めるためのツールになっていることが伺えました。

費用とリターンについて

個人で情報発信する手段は金額に応じて無料〜数千円〜数十万円と大きく分けて3パターンあることを第1回で紹介しました。まとまった額で第三者に制作を依頼したケースに庄司さんは該当します。

介川:ある程度大きな額で、人によってはホームページに何十万円も払うのに躊躇するということもありそうです。費用対効果についてどう思いますか?

庄司:長く作家を続けるモチベーションが今あるならやるべきだと思います。経歴や作品をわかりやすく見せられるのもメリットですが、自分の活動を自分の目で振り返られる部分が私にとってはすごく重要でした。

庄司:資料を作ったりする時に自分の情報がまとまっているというのは便利ですし、その都度、自分のことを見返すことができるので自分のスタンスが徐々に整理されていったりと目に見えない部分が特にメリットだと感じました。

ホームページとSNSの住み分けについて

情報を発信するという機能では差がないように見える両者ですが、根本的に使い方、情報の受け取られ方、伝わり方が異っています。
情報が基本的に時系列順で並ぶSNSに対して、自分の思い通りに情報を編集できることでセルフプロモーションとしての側面が強い点がホームページの大きな特徴になります。

介川:ホームページとSNSの違いについて、どう考えていますか?

庄司:SNSは使い方が画一的だが、ホームページでは情報の見せ方が自由なのが大きな違いでしょうか。SNSは自分が見たい情報以外のものが溢れ過ぎているので、それに対してホームページは閲覧することに集中できると思います。ちゃんと考えながら閲覧できる身体性がホームページの魅力だと感じています。

介川:情報を拡散するのがSNS、情報をプレゼンするのがホームページということですね。

庄司:そうですね、SNSよりもじっくり読み込むことができ、直接作家とつながれる場なので、学芸員の方などとのフォーマルなやりとりはウェブサイトの問い合わせを通すことが多いです。SNS上のやりとりだと軽過ぎるような感覚があります。

介川:作品が一覧できるというので、アーカイブという観点でも重要な意味がありそうです。SNSだと基本時系列にしか辿ることができませんよね。

庄司:経歴や作品の表面的な情報だけでなくて、ページの見せ方や入れ込む情報を工夫することで作家のスタンスや考え方がわかってもらえるような濃いものになれば理想です。

介川:批評の材料として使えるような媒体にもなりうると思っています。作品、作家の追体験ができるようなメディアに発展させることができそうです。

ホームページ制作で考えていたこと

ここでは、経緯や制作過程で気を配った点、制作の進め方、今悩んでいることなどについて聞いていきました。

庄司さんのケースではサイトのイメージが決まっていたため、制作が比較的スムーズに進みました。本来であれば、情報を集めて整理する段階でどういったサイトにしていくか、どう情報を見せたら良いかなどを一緒に検討していくことが多いです。その過程で自身の活動に向き合うことができるのもホームページを作るメリットでもあります。

第3回のアートマネージャーの米津いつかさんのケースでは、アート業界でマネージャー業をする特有の悩みを解決できるようなWebサイトを作る過程を紹介しています。まだまだ制作の初期段階でのトークではありましたが、参加者の皆様と大きなモヤモヤを共有できたという点で非常に有意義な回でもありました。

ホームページを作るゴールを決めておく

「誰に」「何をしてもらう」というポイントをしっかりと押さえておかないと、ホームページで結局何をしたかったあやふやになりがちです。

その点、庄司さんのケースでは目的が明確でした。セルフプロモーションの観点では、「どう見せるか」に加えて「どう見られたいか」を考えるという、スムーズに構想が進められそうなヒントも教えていただきました。

介川:依頼をいただいた段階でサイトの構想はほぼ出来上がっていましたね。

庄司:特定の作品、ではなくキャリアの全体像を見てもらえるような作りにしたくて現在の形になっています。毎日制作をしているので、ライフワークの一部として作家活動しているというスタンスをどう見せるかに主眼を置きました。

庄司:特定の作品を強く見せる作りにしないのは、制作スタンスに反しているからです。特定の作品にフォーカスする作りは見栄えこそ良くなるものの、キュレーターや学芸員の方が見た時にバイアスがかかり誤解が生じてしまう例も少なくないようです。

介川:見た目を決めるデザイン案も庄司さんから直接いただきました。依頼主が明確なイメージを持っていないケースが大多数なので、普段はこうしましょうとこちらが提案していく形で進めていますが。

庄司:どう見せるかも大事ですが、どういう風に見られたいかというポイントを自分の場合は大事だと思っていました。自分の場合はマーク・マンダースなどのウェブサイトがイメージに近くて、ベースにしています。サイトの形は私の方で決めていたので、実装など技術的な部分を介川さんに助けてもらうことで制作がスムーズに進んだ記憶があります。

実際のホームページ制作について

介川:制作期間は大体3ヶ月くらいかかりましたっけ。

庄司:もっと早かったと思います。1ヶ月くらいだったかなと。

介川:もともと、どういう経緯で私に依頼していただいたんでしたっけ。

庄司:共通の作家の知り合いの吉國元さんのサイトを介川さんが作っていたのを知ったのがきっかけでした。その時、次の展覧会の準備をしていて、タイミング的にもホームページが欲しいなと思っていました。

介川:当時(5年以上前)は、SNSが今ほど主流ではありませんでした。

庄司:個人でホームページを持つのがまだ当たり前でしたから、いずれ作りたいと思っていました。

介川:この講義のメインテーマでもありますけど、今ホームページをもつ意味ってどういう部分でしょうか?

庄司:作家にとって情報を見せていくということはすごく大事なことです。私みたいにSNSのコミュニケーションや情報の速さに違和感がある人こそホームページを持つことが最良だと思います。

介川:SNSにはない技術的な利点もありますね。例えばSEO(検索エンジン最適化)対策をすることで、作家名や展覧会名で検索すると庄司さんのホームページが出てくるようになります。TokyoArtBeatや美術手帖ウェブなど大手のイベント情報サイトの内容とバッティングした際はその後に検索結果が来るようにするなど、テクニカルな工夫も仕込んであります。

庄司さんのホームページについて

介川:worksでは全作品が一覧できるようにしました。タグやジャンルで分けることもしませんでしたね。

庄司:作品を毎日作り続けるスタンスを伝えたくてこうしています。描き方の変化など一連の流れを見てほしい意図があります。

庄司:最初は良かったんですけどね。作品が生まれるところから、変化していく様を動画メディアで表現することなどが最近は増えてきたのでどうするか悩んでいます。

介川:先ほどあげた吉國元さんだとworksの中でコンセプトごとにジャンル分けしています。

庄司:見やすさもそうですが、管理のしやすさの面でもツリー構造を極力増やしたくないと思っています。

介川:現在ホームページに関して悩んでいるところはありますか?

庄司:studioの更新をどうするか悩んでいますね。日々の制作風景を紹介する場として置いてもらっていましたが、プライバシーの他にも大きな問題があって更新が滞っています。

介川:不特定多数の人が見れるものなので、躊躇する部分でもありますよね。

庄司:特に女性作家としては、作家自身がコンテンツとして消費されてしまう問題があると思います。タレント化してしまって作品をまじめに見てもらえなくなるというか。淡々と作品を載せる場合と作家自身のキャラクターを立たせるコンテンツにする場合とで、一長一短がありますよね。私の場合は作品を見て欲しいので。

作品の記録について

介川:作品の記録についてはいかがでしょうか。

庄司:展覧会でカメラマンに撮影してもらったものをクレジットをつけて使用しています。

介川:作品をどういう形で残せばいいかという点も個人的には関心が高いです。最初からホームページを作る想定でカメラマンの方に依頼していたんでしょうか?

庄司:最初からホームページで見せる形を想定していたわけではありませんが、展示の際、ギャラリーなどがカメラマンに依頼して毎回撮ってもらっていました。それが結果的にホームページの材料になりました。

介川:カメラマンに任せるのが最良ですが、自力でもできるものでしょうか?

庄司:初期は自分で撮ったものもあるのですが、きちんとセッティングをしないと色や質感などの再現が難しいので、自分でやるのは技術的に難しいです。展覧会での作業も増えるのでそれも自分でやらなくなった要因です。特に平面作品は光と影、額縁の陰のコントロールが難しいのでできればカメラマンの方に依頼した方がいいと思います。

会場からの質問:「大型のインスタレーションなどではどう記録するのが最適でしょうか。」

ACY:カメラマンに撮ってもらう方法だと、作家が見てほしい部分をわかってもらえないなんてこともありそうです。建築関係などで使われる3Dカメラで残す方法などもあるようですがどうでしょうか。

庄司:扱うメディアによってベストな記録方法は異なってきそうですね。

まとめ

実際にホームページを持っている庄司さんの生の声を聞くことで、どういった運用になるのかが少しでも想像できる助けになれば幸いです。

弊社では、アーティストからアート関係団体、アートプロジェクトなど、アート専門のウェブサイト制作のご相談も承っております。過去の事例を見てこれは!と思った方は、お気軽にご連絡ください。




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