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③ACYウェブセミナー「vol.3 アートマネージャーの仕事を表現するページ制作とは?」

2022年3月11日から計4回にわたり開催したアーツコミッション・ヨコハマ(ACY、横浜市芸術文化振興財団)主催のウェブセミナー「アートの現場にあわせたWEBページ作成とアーカイブ講座」の後日アーカイブ記事になります。
当記事では、22年3月25日に開いた第3回のウェブセミナーの記録に打ち合わせ段階のやりとりなどを加えて再構成しています。


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はじめに

アートといえば、展覧会や作品などを作り出す美術作家など表舞台の活動をイメージしますが、こうした活動に必要不可欠なのが現場が円滑に動くために手を回すコーディネート業、マネージャー業にあたる仕事になります。ただ、アートマネジメント業務を専門で行える人材が足りていないのが現状です。
ペンネでは、アートマネージャーが抱える課題感をホームページづくりを通して解決していくことで、微力ながらもアート業界の活性化につなげられないかと考えています。

ウェブセミナーの中では、米津さんが抱えている課題感を共有してもらうとともに、ペンネとして何ができそうか、現段階の考えを紹介させていただきました。現在この記事を書いている4月末時点も米津さんには忙しいスケジュールの合間に打ち合わせの時間を作っていただき、制作を進めております。

米津いつかさんについて

展覧会の制作やイベント運営、アートプロジェクトのマネージメント、ドキュメントの編集・制作などを通して、日本各地のさまざまなアートプロジェクトに関わっています。企画段階から会期終了後のドキュメント制作まで長期で携わるプロジェクトも多く、アート事業にコミットする際の守備範囲がとても広いのが特徴です。

米津さんのプロフィール

日本女子大学卒業。大学在学中より約5年間アーティストの日比野克彦氏の事務所でアシスタントを務める。2013年よりフリーランス。主に展覧会の制作やイベントの運営、アートプロジェクトのマネジメント、ドキュメントの編集・制作にたずさわる。
2003年の「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」の日比野克彦作品「明後日新聞社文化事業部」で新潟の山間部に足繁く通った以降、地域プロジェクトに多く関わるようになる。2010年より「くすかき―太宰府天満宮―」プロジェクトマネジメント(〜現在)。「ヨコハマトリエンナーレ2020」では、広報物の制作と記録撮影のコーディネートを担当した。2021年に「東京芸術祭2021」のアートプロジェクトとして行われた「ガチャガチャガチャ」では、遠山昇司ディレクションのもとコーディネーターを務めた。これまで編集担当したものに『超・幻聴妄想かるた』(特定非営利活動法人やっとこ、2018年)、『美術館と大学と市民がつくるソーシャルデザインプロジェクト』(青幻舎、2018年)『こどもと大人のためのミュージアム思考』(左右社、2022年)など。

第2回の庄司さん、第4回の象の鼻テラスでは過去に制作したサイトを紹介しましたが、第3回の米津さんの部では現在進行中のサイト制作を取り上げました。本格的に着手したのが2月末からだったので、ウェブセミナーの時点では「要件定義」の「調査・情報整理」の段階にあたります。
ひたすらヒアリングと資料の作成を繰り返す地道な作業が続いていますが、これが何よりも重要なプロセスだということは第1回でお伝えした通りです。

アートマネージャーの仕事ってなに?

セミナーでは、約半年近くという長期にわたって米津さんが関わった東京芸術祭2021の「ガチャガチャガチャ」を例にとってアートマネージャーの仕事内容と課題を掘り下げていきました。
やりとりの中で見えてきたことに、ひとつのアートプロジェクトでも接する局面が他の役職と比べて圧倒的に多い一方で、水面下で動くことがほとんどのため、フリーランスのスキルや見積もりに見合った根拠やをアピールしにくいという課題がありました。


以下、講座でのやりとりから一部抜粋、再構成したものです。

介川:仕事のいきさつからお聞きしたいのですが、「ガチャガチャガチャ」の場合、どういう経緯で声がかかったのでしょうか。

米津:普段は人づてだったり、これまでに関わりのある人から声がかかることがほとんどです。「ガチャガチャガチャ」の場合はチームのメンバーがすでに決まっていて、その中でコーディネーターが必要だということでお声がけいただきました。

介川:企画段階から会期終了まで長期間で関わっていらっしゃいますよね。報酬の見積もりはどう取られているんでしょうか。

米津:この見積もりをとる、という作業は特に難しいと感じている部分でもあります。そもそも見積もりを聞かれない場合もありますし、仕事の総量が把握できていない状態では、時間ベースで「だいたいこのくらいかな」と見積もっても予想より大変なことが発生する状況がほとんどですね。

介川:自分の仕事を説明できれば見積もりもしやすくなりそうですが、内側・外側で関わる人数に応じてマネージメントの仕事の領域は大きくなるだけなので、ひとことで仕事の領域を説明しづらくなりそうですね。

ACY:形態や手法は違えどプロジェクトを取りまとめている立場としてはすごく共感できる悩みです。自分の仕事は何なのか、家族にもうまく説明できないですから。

アートマネジメント業務の課題とは?

介川:アートマネジメント業務において最も重要で、米津さんとしても大切にしている業務とはなんでしょうか?

米津:コミュニケーションを丁寧に重ねることが大事だと思っています。でも、この部分は特に評価されにくい気がします。

介川:現場監督業だから、100点でできて当たり前といったことでしょうか

米津:経験でしか身につかない立ち回り、心づかい、気配りのようなものが常に必要で、重要なスキルである反面、それはできて当たり前で片付けられてしまっているというか。

介川:アートマネージャーといっても色々な人がいると思いますが、その中でも米津さんにしかできない、オーダーを上回る付加価値を伝えられるようにしたいですね。「ガチャガチャガチャ」では具体的にどういった作業があったのでしょうか。

米津:日々のMTG調整はもちろん、カプセルトイを設置する先との交渉や、カプセルトイマシンの業者とのやりとり、カプセルトイの制作関連のやりとり、チラシや印刷物の進行・校正・主催者など関係者への連絡、備品の購入手配、ウェブやSNS原稿の確認などしましたね。会期中は在庫管理や補充含めて運営方法も私が考えました。

企画段階から終了までの業務を表にまとめた資料

介川:こうして表にまとめると全体的にものすごい量の仕事量ですよね

米津:そうですね。私も当時のメールを遡ったり、やりとりの回数を数えたりしてみたのですが、コミュニケーションの量が特に多く、メール・Slackなどのやり取りは月間何百通にもなりました。外部の関係各所との連絡はもちろん、チーム間の橋渡し役にもなっているのでそれ相応の分量があります。こうして表にすると「連絡」という項目で片付いてしまうので、いまいち大変さが伝わりませんが。

介川:これほど縦にも横にもプロジェクトに広く関わっているのは米津さんくらいだと思うので、ホームページではその役割の重要さを実感できるような見せ方にしたいです。例えばアートマネージャーがいないとプロジェクトは全く回らなくなるので、その役割の人が居ない場合のリスクを伝えるなどのアプローチでアートマネージャーを現場にアサインすることの価値を伝えられそうです

ACY:こうして工数で見せてもらっても、依頼する立場としても仕事量が予測できないですね。介川さんがおっしゃるように、依頼側がアートマネージャーの業務範囲をわかっているのかどうかが重要な部分です。

米津:終わった後に「米津さんがいなければできなかった」と嬉しい言葉をいただくこともあります。初めての人と仕事をする時に、私に何ができるのかは分かりづらいですよね。過去に依頼してくれた人は私がどんなことができるのかをわかってくれていると思いますが。

介川:米津さんが入ることで円滑に進んでいるケースが多いと思うので、コンサルティングに近い形で能動的に関わっているところをアピールしたいですね。

米津:構想段階から現場が終わるまで、どこでも柔軟に関わっていけるのが強みでしょうか。

見えてきた課題とホームページでやりたいこと

ホームページを使う人、使う目的について知る限りでは前例がありませんが、やろうとしていることはとてもアナログなアプローチが主になると思っています。これまでの話から、アートマネージャーが抱えているモヤモヤとそれに対する現時点で考えられる対策をまとめてみます。

3つの課題

(1) 実際の業務量に対して報酬が少ない
(2) 新規のクライアントからの受注を増やしたい
(3) 自分の強みや大切にしていることやをアピールしたい

課題1: 業務の業務量に対して報酬が少ない

  • 原因:クライアントが想定する業務量と、実際の業務量の差が大きい

  • 対策:問い合わせに対して非公開資料を送付する。過去の仕事の経歴を伝え、おおよその報酬の規模感を把握してもらう

見積もりや仕事の具体的な内容などを説明できる資料を用意する。匿名ではない問い合わせに対して参考資料を鍵付きのPDFなどの形で渡し、見積もりの試算といった検討材料として利用することを考えています。
内容としては、これまでの経歴やプロジェクトに関わった期間や作業の工数などを端的にまとめたものを想定しています。

課題2:新規のクライアントからの受注を増やしたい

原因:この人がどんなスキルを持つ人であるか、クライアントが把握できる資料がないので、過去に仕事をしたことがある人からしか声がかかりづらい
対策:アートマネージャーとしての仕事内容を細かく定義し、私がどんなスキルがあるかを直感的に伝えることができるような形でページ上に展開する

例えば、米津さんのことを知らない人が予備知識として経歴や仕事への姿勢などを知り、共感してもらえるような情報を揃えておくことで相談・問い合わせにつなげます。アートプロジェクト制作を段階分けして関わってきた深さや長さを可視化し、見積もりの根拠になるように。どの部分に関わるとどれくらいの作業が発生して、どれほどのコストがかかるかを表現する必要があると考えます。

課題3:自分が強みや大切にしていることやをアピールしたい

原因:アートマネージャーとしての業務全般の説明はできているが、個人が持つさまざまな人脈やアーティストへのホスピタリティ(思いやり)の部分についてアピールができていない
対策:過去の事例紹介で、その仕事であったエピソードや想いを綴ったブログを紐付け、仕事への姿勢や思考を紹介する

アートマネジメントの信頼感を裏付ける、仕事の細やかさや豊富な経験のアピールは必要ではありますが、それだけでは個人の持ち味を伝えることができません。そこで、仕事の前提や経緯などをしっかりと説明するブログ的な領域を仕事ごとに設置し、エピソードや想いを綴ることで米津さんの仕事への向き合い方や対アーティストへの想いなどを投稿できるようにします。そうすることで、ビジネス的なスキルの情報とは別に個人的視点から見た仕事の全容を伝えることが可能になります。

まとめ

冒頭で紹介したように、ウェブの分野からアプローチしていくことでアートマネージメントに関わる方の悩みの軽減につなげていけないかと試行錯誤中です。今回の米津さんのケースを皮切りに、こうした仕掛けをどんどん広げていきたいと考えています。今後もnoteを通して情報発信を続けていきますので、同じような悩みを持つ方のお役に立てれば幸いです。

※米津いつかさんのホームページは現在進行形で制作中です。年内にはローンチしたいと考えておりますのでまた追って共有いたします。

弊社では、アーティストからアート関係団体、アートプロジェクトなど、アート専門のウェブサイト制作のご相談も承っております。過去の事例を見てこれは!と思った方は、お気軽にご連絡ください。


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