スマホ女子
比日是幸日。
母親が、スマホを買い換えた。
前のスマホも使い方を覚えきれずに、やれ、電話はどうやるのだ、写真はどう撮るの、LINEてどうやって送るの?と聞いてばかりいたのだが、そうかと思えばいきなり可愛いLINEスタンプの「イイネ!」が飛んできたり、そこまでできるようになった矢先。スマホがブラックアウトしたらしい。
新しいスマホに合わせて買ったであろう、マゼンタピンクの高級感溢れるマダムみたいな花柄のケースは、早速イタズラ盛りの猫のクロの標的になったらしく、3日でボロボロにされていた。
最近、そんな半分齧られたスマホをら片手に、何やら母親の様子が明るい。
明るくて我の強い母親の仲間で、やっぱり個性の強すぎるお仲間奥様達と、どうやらフェリーの旅に行く計画を立てているらしい。
初の海外ということもあって、念には念を入れて、お仲間奥様達と相談を重ねているそうだ。
夜も9時を過ぎているというのに、初期設定のままでマナーモードにできないまま、やたら大きい着信音がけたたましく何度も響く。
はいはい、と電話に出る母の声はいつもより、やたらぴかぴかしている。
まるで、好きな人のことで盛り上がる、女子だけで行く学生旅行の夜のような…
スマホという手のひらの上の、魔法のコンパクトみたいなツールが、彼女らを女子にするならば、
女子力をドブに捨ててきた、私のこの手のひらの上の液晶画面はなんなのか。
そんなことを考えていると、和室から母の声が聞こえてきた。
「あら、○○さんのお電話ではない?あら、あら、夜分遅くに申し訳ありません。」
どうやら登録した友人の電話番号か間違っていたらしい。
魔法のコンパクトも、正しい呪文は必須のようである。
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