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お姫様か、カメか

幼稚園のときの発表会、「浦島太郎」で私はどうしてもカメになりたかった。カメ役をしたいというより、当時私はカメになりたかった。通っていた歯医者さんにはカメがいて、カメ飼ってます!というときの小さなカメではなく、でっかいカメたち。ごったがえしながらガラスケースの中で生きていた。

カメ役にはすんなりなれてしまった。なぜなら女の子たちはみんな竜宮城のお姫様になりたかったから。カメは男女問わずそこまで人気ではないらしい。先生に、「お姫様じゃなくていいの?」と聞かれた。カメって言ってんのにうるさいなーーなんて思った。

通っていた英会話教室で、ハロウィンのイベントがあった。父親が魔女のマントや帽子、オバケやかぼちゃのブローチを作ってくれた。いざ行ってみると、女の子たちは皆プリンセスになっていた。シンデレラや、白雪姫や、とにかく、プリンセスだった。たぶん私は言ってしまったのだと思う。不機嫌な父親が「嫌なら捨てろ」と言っていた記憶がある。

雑誌の付録にティアラがついていた。どうしても私はそれが欲しかった。ただ、ハロウィンのことを引きずっていると思われるのは癪だった。癪だったんなら欲しいと言わなければいいのに、私は買って欲しいと母にねだった。当然のように父親は不機嫌だった。それでもあのとき、母は買ってくれた。みんなが持ってるものは欲しくなるものなんでしょう、と言っていた。私はそれはそれで癪だった、ハロウィンは関係ない、関係ない…

お姫様じゃなくていいの?と聞いてもらえるときにはカメになりたく、魔女になるとお姫様になりたい。プリンセスになれなかったあのときから、なんとなく私は知っている。私はプリンセス、という感じではないのだ。高校で吹奏楽部に入りたての定期演奏会、同級生はディズニーメドレーで華やかな仮装で飴を配っていたのに、私は松田聖子のお面をかぶってマイクを持って左右に揺れる。松田聖子は誰がやってもいいけれど(お面かぶってるし)、とりあえず私はプリンセスではないらしい。

そして私は今、やっぱりカメになりたいのだ。

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