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そういえば柏餅

例えば夏の暑い日だったら気にならないようなことも、こどもの日が終わってすぐの柏餅の話だとなんだか。5月の何でもない日だったらもう少し気にならないようなことも、母の日にあえての子どもの日で、これもどこか引っかかるような。まあ母の日も終わってるんだけれども、だから題名はそういえば柏餅、です。

何年生か思い出せないけれど、たぶん小学生の頃、柏餅を作ったことがある。簡単にできるお料理キットみたいな何か。柏餅は簡単にできあがって、柏の葉をまいて完成。あまりにあっけないできあがりで私が覚えているのは銀色のボウルだけ。電気を付けずになんとなく薄暗い部屋で作った。

父はとても怒った。自分で食べろと言った。私はもちは好きだけれど、柏の葉がくっついた柏餅は嫌いだった。葉っぱをむいてもべったりほわっと残る柏の味。最初から巻かなければ良かったのだけれど、その日はこどもの日だったから。これは柏餅だったから。柏は絶対に巻かなければならなかった。

泣きながら怒りながら、私はお父さんが嫌いだと思った。母親も、怒らずに食べてあげればいいでしょ、せっかくお父さんのためにって作ってくれたんだからと言っていた。けれど私は、泣いて怒りながらも、この場にいる誰よりもお父さんが正しいと分かっていた。この柏餅はお父さんのために作られたのではない。私は柏餅を作りたかっただけで、自分が嫌いな柏餅を作るにはお父さんに食べさせる必要があった。

作る料理はおいしくないけれど、自分が生み出してしまった食べ物は自分で責任を持つ、がモットーな大人になった。大量にできあがったおいしくないべちょべちょなパンが、ひとりで食べきるのに一番苦労した。それ以上の食べ物が作られないことを祈りながら、名前も顔も知らない他人の手によっておいしさが保障された食べ物を食べる。明日は何作ろ。

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