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水の音

かれこれ1ヶ月ほど水の音と暮らしている。ちゃぽん、と言えば、私は立ち上がり蛇口をきつく閉める。狂うほどにひねってもしばらくすればまたちゃぽんと呼ぶ。ときどきは叩いてもみる。

現実は見たくないので私がいない昼間にボウルを置いてみるなどということはしない。1週間まではさほど気にしていなかった。2週間過ぎた頃から耐えられなくなってきたが、現実は見たくないのである。とはいえ休日は常にちゃぽんだから、ちゃぽんは次第に恐怖に変わってくる。もう家にいないようにしようか、家にいない間もちゃぽん、ちゃぽんちゃぽん、それを思うと耐えられない。スポンジを置こうかと思った。ここまできてまだ現実は見たくない。

3週間が過ぎるとさすがに恐怖が勝ってきた。人に話すと怒られた。そういうことは早めの対処が大切なのだ。それくらい分かっている。でも電話は嫌だ。たぶん電話ではなくただ現実が嫌なのだけど、おそらく分かってもらえないから、電話を理由にした。電話も分かってはもらえない。電話も嫌だ。

修理は来週の休日だそうで、4週間が過ぎざるを得なくなった。現実を見たとたん、一刻も早く修理をするつもりでいたのだから1週間は長すぎる。あと7日間、朝も昼も夜も、ちゃぽんとともにあるのは耐えがたい。ちゃぽんを聞くのもちゃぽんを聞かないのも、耐えがたい。3週間放置しておきながら、こんなことを言う。

そうと決まってからというものの、ちゃぽんは減ったようにも思う。それは困る。呼びつけて何事もないだなんて耐えられない。歯が痛いと大騒ぎして行った歯医者で何事もなかった記憶がよみがえる。あれはだめだ。ちゃぽんよこい、今すぐこい、ちゃぽんちゃぽん!

3日たって4日たって、順調にちゃぽんが増えているような気がする。ちゃぽんを求めるあまり蛇口を緩くしてはいないだろうかと不安になる。ちゃぽんは本当だったのだ、修理すべくして修理するのである!ひたすらに言い聞かせている。

しかしやはり、ここ数日のちゃぽんは多すぎる。帰ってきて夕方から寝るまでにこれだけちゃぽんなのだ。寝ている間は知らないし、朝家を出ても、ちゃぽんちゃぽんちゃぽんちゃぽんちゃぽんちゃぽんちゃぽんちゃぽんちゃぽんちゃぽんちゃぽん……

耐えられない。

そして、夏目漱石『変な音』をおすすめします。

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