63.自分にとって大切なこと
少し捻くれた話をしたいと思います。
僕は「明けない夜はない」「やまない雨はない」的な言葉があまり好きではありません。
好きではない理由のうちの1つが、「明けない夜」も「やまない雨」もきっと、存在すると思っているからです。
考えたくもないですが、例えば、妻がこの世界からいなくなってしまったら。それは僕にとって「明けない夜」や「やまない雨」のはじまりとなります。
他の誰にも、妻の代わりはできないからです。
その時々の感情の変化で、夜の闇の深さが変わったり、雨が小雨になったりはするかもしれませんが、きっとその程度です。
だから大切なのは、「明けない夜」の「明けなさ」や「やまない雨」の「やまなさ」に向き合い、楽しんだり、悲しんだりできるようにすることだと思います。
この前、ひょんな会話の流れで妻が言いました。
「私のお葬式で、Beatlesの"All You Need is Love”を流してほしいな」
と。
もしこのことが現実になったら、僕は「All You Need is Love」を聞くたびに涙を流すだろうし、
ファンファーレのような愉快なイントロに妻の笑顔を重ねて、笑ってしまうかもしれません。
夜が続こうが、雨が降り続けようが、その事実に向き合って、生き続けられる自分でありたいです。
好きではない理由のうちの、もう1つの理由が、「希望に向かって生きなければならない」と強要されているように感じてしまうからです。
僕は「明けない夜」「やまない雨」の中で、生きていることが「最悪」というわけではないと思うのです。
僕たち夫婦にはまだ子供がいませんが、もし将来的に子供を授かることがあれば、きっとこう思うはずです。
「この子が健康に生きてさえいれば、それでいい」
と。
誰もが初めはきっと、必要最低限だけを祈るものだと思います。
にもかかわらず、成長していくと、「スポーツで大成して欲しい」や「良い学校に行って欲しい」などといった欲が出てきてしまいます。
欲深く、勝手に期待しては、ときに裏切られたような気分になってしまうかもしれません。
明石家さんまさんの有名な言葉に「生きてるだけでまるもうけ」なんて言葉があります。
人は何一つして持たず、その身一つで生まれてきます。
本来、自分の命1つ、衣服1枚まとって、生きられるのなら、それだけで万々歳なのです。
先日、親戚のおばあさんから結婚祝いを頂く機会がありました。
直接会ったわけではなく、母を経由して、お祝いを頂きました。
その親戚のおばあさんに最後に会ったのは5年ほど前で、それ以前も数年に1度会うか会わないかの関係性でした。
かなりの高齢で、おそらく祖母の姉だと思うのですが、正確にどんな血の繋がりがあるのか、僕自身は認識できていません。
でもそのおばあさんは僕に対して強い思い入れがあるそうです。
というのも、僕が赤ちゃんだった頃、他の兄弟の世話が大変だったりして、一時的におばあさんが僕の子守りをしていた時期があったそうなのです。
何年かに一度会うたびに、おばあさんは「あなたのことは、わたしが育てたんよ~!」と自慢げに、そして、とても楽しそうに言いました。
お祝いのお礼の電話をした際も、電話越しからでも、僕からの電話をとても喜んでいることがわかりました。
僕が電話をした翌日、母にも連絡があったようで、「お礼の電話があって、声が聴けたのが嬉しくて嬉しくて、眠れなかった」と言っていたそうです。
そんな大げさなぁ~と笑ってしまったのですが、もしかしたらおばあさんは、思っていたのかもしれません。
26年前、まだ歩くことも喋ることも、自分一人では何一つとしてできない、赤ちゃんの僕を見ながら「この子が健康に生きてさえいれば、それでいい」と。
26年間そんな願いを知らないうちに守り続け、その上、結婚までしたとなれば、嬉しいこと、この上なかったのかもしれいません。
このエッセイは「自分にとって大切なこと」というテーマで書きはじめたのですが、とりとめのない経験を書き連ねながら
何となく答えが見えてきました。
「自分にとって大切なこと」それは「生き続けること」です。
決して多くはないと思いますが、僕が、ただ「生きている」というだけで喜んでくれる人がいます。
その人たちのためにも、僕はできるだけ長く、生き続けたいと思います。
でも少しだけ欲を言ってもいいのであれば、僕は、やっぱり妻とともに生き続けたいです。
今日、3月11日。
東日本大震災から10年が経ちました。
高校2年生だった僕は、もう社会人になりました。
大人になれば、災害が起きたとき、世界がピンチのときに、少しは役に立てるようになるのだろう、なんて思ってましたが、
10年経っても、結局僕は無力なままなのかもしれません。
それでも、僕は誰かのために、生き続けようと思います。
少しでも誰かの力になれますように。
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