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9.妻のカッコいい女修行

【妻のカッコいい女修行】


"まだ明るい夕方から、ポンッと栓が弾け飛ぶ音がする。栓を抜いたお酒をお猪口に注げば小さく細かい泡が立つ。口に含むと心地よい酸味と甘みが感じられ、爽やかなマスカットのような香りが鼻から抜けた。
女性は長い髪をかきあげ、口角を少し上げて笑うと同時に、優しく眉を下げた。
その表情が何よりも雄弁に、口にした日本酒が呆れるほど美味しいことを語っている。
夜の海のように濃いブルーのジーンズに夏の雲のように真っ白なTシャツというシンプルな服装が、彼女の華奢な手首に見事に映えるブレスレットを際立たせている。きっと、先ほど乾杯をした彼からのプレゼントなのだろう"

    

さて、前置きが長くなりましたが、僕が「カッコいい女性」と聞いてまず思い浮かぶのは「東京カレンダー」に出てくるような女性です。


冒頭の謎の文章も東京カレンダーをイメージして書いてみました。

東京カレンダー感ありましたか?

妻は出会った頃から、よく「カッコいい女性」になりたいと言っています。

※僕から見ると、(おそらく他人から見ても)妻は小柄で童顔な可愛い女性です。


そんな妻は最近、2本のジーンズを買いました。

妻の好きなヒップホッパーがいつも、黒のTシャツにジーンズといった服装をしているのを見て、影響されたものだと思われます。

カッコいい女性になりたいと言いつつも、今までの妻は可愛い柄のワンピースを好んで着ていました。とても似合っていましたが、カッコいい女性を目指している人の服装ではありません。

そう考えると、ジーンズを履いて出かけるなんて、カッコいい女性への大きな一歩を踏み出したと言えるでしょう。

妻はお酒に酔うと、タバコが似合う女になりたいと言うことがあります。

タバコにジーンズ。

妻のカッコいい女性像は、少しオールドスタイルなのかもしれません。

※妻はタバコの匂いがとても嫌いです。

僕は、ジーンズを履いてルンルン気分な妻に尋ねます。


「妻さん。妻さんはベストジーニスト賞に選ばれるかな?」


「ん?選ばれるに決まってるでしょ。」


「妻さん。じゃあ僕はベストジーニスト賞に選ばれるかな?」


「ん?だから、選ばれるに決まってるでしょ。」


ジーンズを履いた妻は無敵です。

怖いもの知らず、身の程しらず、無鉄砲なロックンローラーです。

しばらく時間が経ち、ふとした沈黙が流れると、妻は問いました。


「…ねえ。さっきのベストジーニスト賞って何のこと?」


「…えっ。」


妻はテレビをあまり見ません。芸能ニュースやゴシップにも全く興味がありません。

毎年行われている、ジーンズが似合う芸能人に贈られるベストジーニスト賞なんて、知るはずもなかったのです。

 

「キムタクとかが殿堂入りしてる、芸能人に贈られる賞だよ。」

妻は言います。

「…そっか。」


そして、どこか悲しい目をして続けました。

 

「…じゃあ、無理かもしれないね。」

  

妻よ。ベストジーニスト賞は絶対に無理だ。

カッコいい女性を目指す妻の旅。

進捗あれば、引き続きお伝えしようと思います。

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