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アジフライ

うだつの上がらない人間でも平等に腹は空く。

男は昼休みになるとそそくさと会社から七、八分ほどの古びた定食屋に向かう。

男が決まって頼むのはアジフライ定食だ。特段味が良い訳ではないのがまた丁度良い。

「アジフライ定食、ひとつ。」

いつもと変わらぬ注文が音割れたテレビの音と厨房の喧騒を横切る。

定食が男の元へと降り立つと、千切りにされたキャベツの布団に寝るアジフライへと自然に箸が動く。

噛むたびにくしゃりと衣の火花が散るその刹那は午前の居心地の悪さを忘れさえさせた。

ひと段落して隣の香の物を貪り始めると午後からの憂鬱が思い出され、漠然と焦燥に駆られる。テレビから聴こえる政治家の不祥事に半ば責任を押し付けながら、もう半分をぐっと汁物で飲み殺しアジフライと白飯へ箸を伸ばす。

最後に、満たされた腹を温くなった茶で締めて釣り銭のないよう小銭を出すと、男はそそくさと仕事場に戻って行った。

また明日も来られるようにと小さな願いを抱きながら。

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