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【ひきこもり チャンネル2】「ミュージシャンをしながら、ひきこもりの人が自由に表現できるイベントを10年続けています」

「ひきこもり チャンネル2」とは

これから何をはじめるの?これから何をすればいい?
ダイヤル回せばチャンネル2。
行く先は未曾有の砂嵐なれど、
この世のエゴには目もくれず、
事(こと)を起こせば えびす顔。


手にしているのは「布団の中のアーティスト」マスコットキャラクターの布団ちゃん。お手製のオリジナルキャラクターだという。

哲生(てつお)

ミュージシャンで元ひきこもり。自称「惨敗王」。「布団の中のアーティスト」代表。
85年生まれの神奈川県横浜市出身。家庭と学校で同時期に問題が噴出し、14歳からひきこもり状態に。その頃からギターの練習に目覚め、25歳頃から神奈川県内で路上ライブを始める。ひきこもりのイベントに出演したのをきっかけに、ひきこもりの人が自由に表現する場「布団の中のアーティスト」をスタート。今年で10年目を迎える。2024年4月21日(日)には10周年記念イベントを開催。

中学生のとき、尊敬していた兄が統合失調症にかかってしまいました。

小さいときから何度も引っ越しを経験しました。横浜市生まれですが3歳で新潟県に引っ越し、1年で藤沢市に移り住んで、また戸塚に行って……。それでも、兄の影響で小学校1年生のときからずっと野球をやっていました。兄は足が速いし勉強もできるしルックスも良い。通学する兄を追いかけたくらい大好きでした。

そんな尊敬する兄が、当時14歳だった自分にとって得体の知れない病気にかかってしまったのは本当にショックでしたね。

それから、両親の仲も悪くなりました。母は探偵を雇って父の浮気現場を押さえ、その写真を僕に見せてくる。父も母の悪口ばかり僕に言ってくる。僕はふたりとも好きだったから、どっちにつくこともできませんでした。結局、両親は離婚して兄と母、それに愛犬と暮らすことになりました。
いまって、SNSを見ていると白黒はっきりつけたがる人がいるでしょう?でも、僕は母と父のどっちにも行けないもどかしさを抱えていたから、そういう風潮には共感できないですね。

僕自身もアトピー症状で顔中がやけどしたみたいになり、痒くて眠れないから朝も起きられない。同時多発的にいろいろなことが起こりすぎて、だんだん学校に行けなくなりました。

1998年にX JAPANのHIDEが亡くなって、テレビでは大勢の傷ついたファンが泣いている。僕は野球を辞めてギターを始めました。

当時はX JAPANをよく知らなかったですが、演奏している場面がテレビで散々流れましたよね。ただ、僕が驚いたのは演奏しているところよりも、それを見て感動して泣いているファンの姿だったんですよ。

僕は、深夜に布団に入りながら※1 ドリアン助川の「正義のラジオ!ジャンベルジャン!」という番組を聞いていたんですが、リストカットしている人の相談とか、苦しんでいる若者の相談がいっぱいくるわけです。だから、X JAPANを見て涙しているファンも「みんな傷ついているから泣いているんだな……」と漠然と思いました。自分もひきこもっているから、共感するところがあったのかもしれない。それで、14歳のときにギターを始めたわけです。

ギターを始めたといっても、音楽の知識は皆無。それでも、とにかく毎日ギターには触っていました。布団の中で寝ながら弾くこともある。
とにかく、ギターが人より弾けることしか取り柄がないと思っていたから、練習に没頭していました。

ギターの手本にしていたのは、X JAPANやエアロスミス、ニルヴァーナのビデオでした。そういう音楽が好きだから、必然的にロックバンドを組みたくなりますよね。
楽器屋の掲示板のメンバー募集を見ては、気になるところにどんどんアタックする。このときに知り合った人は今でも友達だったりしますが、ロックバンドを組むことはありませんでした。

高校はなんとか卒業したものの、大学は中退し就職もしなかったからどこにも所属していません。

漠然と考えていたのは「音楽で食っていけたらなあ」ということだけ。

アルバイトはたくさんやったけど、人と話すのが苦手だったから続かないところばかりでしたね。でも、アルバイト先でバカにされることで「いつか見返してやる!」っていう気になってきて、25歳であえて接客のある和菓子屋でアルバイトを始めました。

野球をやっていたから、ひきこもりでも自分の根っこは根性論なんですよ。

その頃から弾き語りにスタイルチェンジして、自分で歌うようになりました。川崎、大船、藤沢あたりをぶらついて、歌わせてくれそうなお店に飛び込む。随分向こう見ずだなと思われるかもしれませんが、案外こういう変わり者を面白がって出させてくれるお店もあるんですね。

路上ライブもやっていましたが、見てくれる人は全然いない。僕は夏でもコートを着ているし、自分の弱い部分をもっと打ち出そうと思って「元ひきこもり」って看板を立てていた。でも、誰も足を止めてくれませんでした。今思えば「そりゃそうだ」と思いますよ。

お店に飛び込み営業したり路上ライブしたりして、本当にひきこもりなの?って思われることもあります。でも、

歌手活動をするって、人と会わないといけないんですよ。

ライブをさせてもらえるように頭を下げるし、来てくれたお客さんにはお礼を言う。このあとお話しする「布団の中のアーティスト」も、打ち上げでは全員に声をかけるように心がけています。ひきこもりだったけれど歌手やイベントをずっと続けてこれたのは、そういうことを地道に頑張ってきたからだと自負しています。

その頃、両親が再婚しました。母が兄の看病に疲れて父に連絡を取ったのがきっかけでした。でも、自分としては手放しで喜べない。父とは15年ぶりの再会になるんですが、フリーターでミュージシャンとしてまったく売れていない29歳ですから「いまの自分では会いたくない」と思ったんです。

そのときに音楽で食っていくことを諦めて「惨敗宣言」を掲げました。そして「惨敗王」を自称しています。

「音楽は趣味以上食い扶持未満のもの。これからはひきこもり経験を誰かに伝える」という使命を持つことにしました。仕事も福祉関係に就いて、生活の安定を考えるようになります。

「惨敗宣言」で区切りをつけ、ひきこもりのイベントとして考えたアイデアが「布団の中のアーティスト」でした。

「布団の中のアーティスト」は、ひきこもりの人が自由に表現できる場を目指したイベントで「自宅で布団に潜り込んでいても作品を披露できる」というのがコンセプトです。会場に来られる人は演奏やダンス等を披露できるし、イラストを送ってもらって展示することもできます。

それから、

「作ってくれた詩をもとに作曲し、僕の演奏で発表する」という方法もずっと続けています。

会場に来られない人の表現にどうやってスポットライトを当てるのか考えたとき「詩を作品にする」という方法が頭に浮かびました。よく、Twitter(現X)に詩をアップしているひきこもりの人がいるのですが、それだとすぐに流れてしまう。でも、詩をメロディに乗せて作品にすれば、会場に来ている人にも配信を見ている人にもしっかり聴いてもらえると思ったんです。

これまで自分がやってきた作曲は、ギターのリフだけでのものばかりでした。リフを使うと、メロディがなくても曲になるんですよ。でも、

送ってくれた言葉は一字一句変えないから、どうにかメロディを作り出さないといけない。

だから、自分の引き出しだけでは曲を作れないんです。それで、新しい技もたくさん覚えて引き出しを増やしました。「詩から曲を作る」という経験で鍛えられたってことですね。

昔はメタルやハードロックばかり聴いてましたけど、作曲の幅が広がったいまはニューウェーブのギターサウンドがとっても気になる。※2 トーキング・ヘッズや※3 ザ・スミスのクリアでメロディアスなアルペジオが、すごく参考になるんですよ。

話を戻しますと、第1回の布団の中のアーティストは、関内にある「NPO法人 横浜コミュニティデザインラボ」というメディアが入っているスペースでやらせてもらいました。そこが手厚く宣伝してくれるし、「ひき☆スタ」というひきこもり当事者向けのサイトがニコ生で中継してくれるし……初めてのイベントにして最大のバブルでした。いつの間にか話が大きくなって、当日来てみると知らない人にばかり挨拶される。ステージでイベントを仕切っている人がいるけれど、それが誰だか分からない(笑)

第2回からはもう少し控えめにしたんですが、当時はすべてのことを一人でやっていましたから、現場でセッティングしているだけでもあたふたしちゃう。

そうやって困っていると、誰かが助けてくれるんですよね。

「布団の中のアーティスト」ステージ

見かねてサポートしてくれた人が、次から自然にスタッフになっている。協力してくれる人たちがたくさん現れて、現場を盛り上げてくれたり、受付をやってくれたり、配信に必要な機材を用意してくれたり……おかげでこうして10年間も「布団の中のアーティスト」を続けてこれました。

僕個人としては、いまでもライブハウスによく出演しています。良い意味でピリピリしていて「しっかりやらなきゃな」っていう気持ちになる。もし、全然練習しないで気合の入ってない演奏をしたら、ライブハウスのスタッフに批判される。それは当然だと思います。でも、布団の中のアーティストにはそういうライブハウスの空気は持ち込みたくないと常々思っています。

「批判されたらどうしよう」って思ったら、安心して表現できないじゃないですか。

ひきこもりの人たちには、安心して表現してほしいと思いますね。

それについて、よく覚えている出来事があります。
初期の布団の中のアーティストで、イベント中にお客さんが大声で電話しはじめたことがあったんですよ。でも、そのときの会場は発達障害をもつ人が集まるカフェだったから、もしかしたらそういう障害をもつ人だったかもしれません。普通のライブハウスだったらつまみ出されるところですけど、ほかのお客さんは「やれやれ、またかい」って感じでみんなが笑いはじめたんですよ。

こういう空気って、布団の中のアーティストでは大切にしていきたいとずっと思っています。

「布団の中のアーティスト」YouTubeチャンネルでは、実際のステージの様子などを公開中。


いまの哲生さんを形成しているのが筋力トレーニング。「俺にはとんでもないパワーがある」と自分に言い聞かせて限界を超えるのが楽しいそうだ。ちなみに、ダンベル以外にもアブローラーやベンチ、懸垂の器械もあって1Kの部屋を埋め尽くしている。

※1 ドリアン助川
バンド「叫ぶ詩人の会」ほか、ラジオ番組「正義のラジオ!ジャンベルジャン!」やテレビ番組「金髪先生」など、多方面で活躍。著書も多数残している。

※2 トーキング・ヘッズ
ニューヨークのパンク・シーンを代表するロックバンド。近年はライブ・フィルム「ストップ・メイキング・センス」がリバイバルするなど、再評価が高まる。

※3 ザ・スミス
マンチェスター出身のロックバンド。モリッシーの文学的な詩とジョニー・マーの繊細なギターサウンドが融合し、ニューウェーブのなかで異質ながら確固たる地位を築いた。


10周年記念イベントのお知らせ

2014年からスタートした「布団の中のアーティスト」が10年目の節目となる今年、4月21日(日)に10周年記念イベントを開催。
演目内容などは下記のブログ記事より。
http://blog.livedoor.jp/futon0405/archives/1081952760.html

日時:2024年4月21日(日)
   11:30 開場
   12:00 開演
   12:00~14:00 イベント
   14:00~15:45 打ち上げ
会場: 新堀ギター音楽院 藤沢教室(新堀学園ライブ館)
   JR 藤沢駅北口 徒歩3分 小田急 藤沢駅 徒歩5分
   https://school.niibori.com/school/fujisawa/

配信:ツイキャス http://twitcasting.tv/futon040500/

参加費:1,500円(打ち上げ込み)
ご予約、お問い合わせ:
tetsuo0405@gmail.com
09063461707(哲生携帯)


以下は有料の「ボーナス・トラック」。アルバムのExpanded Editionともいえるし、Deluxe Editionのボーナス・ディスクともいえる。つまりは、シングルのB面やデモバージョンであり、さらにややこしくしているのですが、つまりは収録しきれなかったインタビューの欠片であります。

  1. 読売ジャイアンツ、横浜ベイスターズ、ライパチ(約700字)

  2. 原付と音楽の衝動(約750字)

  3. 有名な元アイドルとの共演(約300字)

  4. 10年間歌い続けている「はじまりのうた」(約300字)

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