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【妖可視〜あやかし〜】研究レポート① 妖怪は人間の心に影響を及ぼすのか?

こんにちは。
ペンシルの研究開発機関、ヒューマナライズマーケティング研究室です✍️

夏といえば妖怪ですよね。
みなさんも「妖怪」ときくと、頭にうかぶ妖怪がひとつやふたつ、あると思います。しかし、そんな身近な妖怪について深く考えたことはあまりないのではないでしょうか?

ペンシルは、マーケティングの前提として、理論の理解や実行、アイデア創出はもちろんのこと、人そのものを理解する必要があるという考えから、人間心理・態度変容の研究を行っています。その一環として、人の心と妖怪の関係性を明らかにする「妖可視(あやかし)プロジェクト」をはじめました。

今回は、その「妖可視プロジェクト」が本格始動し、研究の第一弾が完了したので、そのレポートをお届けします。


要約
妖怪が人間の心に影響を及ぼすかを明らかにすべく、227名を「妖怪をみせる群(名前×姿×説明×認知度 [低/中/高] の組み合わせ全21パターン)」と「みせない群」に分け、楽しい・怖い・悲しい・幸福・好奇心・寂しい・不安という軸で文章の印象評価をしてもらった。

その結果、妖怪を事前にみた場合は「不安を感じている人の心を中立程度に戻す」「怖さを感じず安全などの心を中立程度に戻す」といった、人の心の調整の効果がある可能性が示唆された

[背景]  - なんでそんなことしたの?

妖怪は古くから存在し、科学が発達した現代でも存在し続けている。妖怪の発生には、人間の恐怖や不安などの「心理」が密接に関わっており、人間と妖怪の関係性を明らかにすることで、妖怪をとおして、データではみえない人間の心を把握しやすくなるのではないかという仮説を立てた。

その第一歩として、妖怪はそもそも人間の心に影響を与えているのかを明らかにしようと考えた。

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⇒今回は「一.妖怪は人の心に影響を与えるのか」

[調査]  - どうやったの?

【対象】
人数  :227名
年齢範囲:18〜70歳

【方法概要】
●3種類の文書の印象評価を求めた 文章評価項目(SD法:1〜5)
 ・退屈    〜 楽しい
 ・安全    〜 怖い
 ・嬉しい   〜 悲しい
 ・不幸    〜 幸福
 ・嫌悪    〜 好奇心
 ・満ち足りた 〜 寂しい
 ・安心    〜 不安

●その際、文章を読む前に「妖怪をみせる群」と「みせない群(以下、コントロール群)」に分けた
●「妖怪をみせる群」を、さらに、姿・名前・説明・認知度(低/中/高)の組み合わせで全21群に分けた

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[結果]  - どうなったの?

以下に要約統計量を示す。

◯妖怪への印象評価の平均値(標準偏差)情報としての妖怪

◯文章1への印象評価の平均値(標準偏差)テキスト1

◯文章2への印象評価の平均値(標準偏差)テキスト2

◯文章3への印象評価の平均値(標準偏差)
テキスト3

各文章ごとに、コントロール群と各群の各評価項目に差があるかを明らかにすべく有意差検定を行った。

【分析の結果】

〜妖怪が安心…だと?〜

文章1の「安心〜不安」において、分散分析を実施したところ、有意だったため(F(21,205) = 1.79 , p<0.05)多重比較を行った。以下の組み合わせに有意な差が認められた。下記のt検定の結果が有意であった。

・コントロール群 - 認知度高_名前_説明(t(205) =4.78 , p< 0.01)

・コントロール群 - 認知度中_説明(t(205) =4.03  , p< 0.05)
・コントロール群 - 認知度中_姿_説明(t(205) = 3.94 , p< 0.05)

・コントロール群 - 認知度低_名前(t(205) = 4.05 , p< 0.05)

これら全てにおいて、コントロール群に比べ、各群が文書への印象評価が「安心」に寄っていた(有意に差があった)ことがわかった。

ざっくりいうと
これらの郡はコントロール群より明らかに印象評価が「安心」に寄っているよ、その差はたまたまじゃなくて再現できそうだよ

といった感じです。

〜妖怪はやっぱり怖い?〜

文章2の「安全〜怖い」において、分散分析をおこなったところ有意だったため(F(21,205) = 4.30 , p<0.05)、多重比較をおこなった。下記の組み合わせに有意な差が認められた。

・コントロール群 - 認知度高_名前(t(205) = -4.46 , p< 0.01)
・コントロール群 - 認知度高_名前_説明(t(205) =-4.24 , p< 0.01)

・コントロール群 - 認知度中_名前_説明(t(205) =-4.46  , p< 0.01)
・コントロール群 - 認知度中_名前_姿_説明(t(205) = -3.82 , p< 0.01)

・コントロール群 - 認知度低_名前(t(205) = -4.57 , p< 0.01)
・コントロール群 - 認知度低_姿(t(205) = -3.93 , p< 0.01)
・コントロール群 - 認知度低_名前_姿_説明(t(205) = -4.22 , p< 0.01)

これら全てにおいて、コントロール群に比べ、各群が文書への印象評価が「怖い」に寄っていた(有意に差があった)ことがわかった。

ざっくりいうと
これらの群はコントロール群より明らかに印象評価が「怖い」に寄っているよ、その差はたまたまじゃなくて再現できそうだよ

といった感じです。

[考察]  - それでそれで?

今回の実験では、実際に本物の妖怪をみせたわけではなく、妖怪の名前・姿・説明という「情報」を提示するにとどまっている。情報としての妖怪は「不安」「怖い」という印象評価に影響を及ぼす可能性が示唆された。

しかし、両印象とも平均値でみると、

『不安』:「不安→中立〜ちょっと不安かもくらい」
=不安を抱いている人に安心感を与えたり、中立の人を安心させるまでの効果はなさそう

『怖い』:「安全→中立〜ちょっと怖いかもくらい」
=安全だと思っている人に怖いという感情を想起させたり、中立の人を怖がらせるまでの効果はなさそう

というように、印象を極端に変えるまでの効果はないように見受けられる。しかし、この現象は、「印象や感情を中立程度に調整する効果がある」と解釈することができるのではないだろうか。

これらの考察が正しければ、文章3において、どの印象評価にも有意差が認められなかった理由が、「コントロール群の印象評価(文章自体の印象)が全て中立に寄っているから」ということで説明がつきそうだ。

例えば、ジュネーブ大学が行った研究によると、悪夢をみると現実の恐怖に強くなることが示唆されている。悪夢をみると、ネガティブな情報を与えられても(実験では写真)も扁桃体や帯状回の活性が少なく、悪夢をみた数に比例して、内側前頭前野が活性化(扁桃体の恐怖への反応が鈍る)されるそうだ。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/hbm.24843

一般的に妖怪は「怖いもの」「よくわからなくて不安なもの」としてとらえられるため、これと似た現象が起こっている可能性はありそうだ。

ただし、効果があった情報としての妖怪の「恐い」や「不安」などのネガティブな印象評価の得点が高いわけではないので、今回の実験に関してはここまでのことはいえなさそうである。

効果があった情報としての妖怪の得点に共通点を見出すこともできていないため、なにが原因でこういった現象が起こっているのかまでは明らかにできていない。

「怖い」の印象評価に限ってだが、認知度に焦点を当てると効果が出ているのは、認知度高においては「名前」、認知度中においては「名前と説明の組み合わせ」という共通性が読みとれる。

しかし、これらの共通性は偶然の可能性もあり、原因説明の役割は果たさなさそうだ…
やはり妖怪は面白く不思議、奇々怪々であるということなのだろうか。
(そもそも実験設計が甘かった可能性は考え続けなければならない)

しかし、情報としての妖怪は人間の認知判断になにかしらの影響を及ぼしそうだということはわかった。そのため、今後も人間の心理と妖怪の関係性の研究については続けていこうと考えている。

もし、今回影響を与えた原因が明らかになれば、今後のマーケティングにも活用できるかもしれない。

[課題]  - とはいえ…

ここまで「妖怪は人の心に影響を与えるのだ!」というスタンスで色々と述べてはきたが、やはり問題点も多い。今回、象徴として「妖怪」をテーマに研究は行ったが、「妖怪」である必然性まではわからない。

他のキャラクターチックなものでもよかったのかもしれないし、なにかもっと怖い印象を与えれる情報であればなんでもよかったのかもしれない。

とはいえ、今回の目的は「情報としての妖怪は人の心に影響を与える?」かがわかればよかったため、目的は果たせていると考えている。他のなんでもよかったかもしれないし、再現性があるかも再試をしてみないことないはわからないが(これはどんな研究にもいえるが…)、今回の実験において、情報としての妖怪が影響を与えたのは事実だ。

そのため、我々は妖怪に着目して最終目的地である「新しい妖怪をみつける」ところまで突き進むつもりだ。

妖怪の必然性については、今後必要となったら(いや、なりそうだけれど)実験を行う。気になる人がいれば、代わりに実験してみてほしい。そんな同志の結果待っている。

[今後]これからどうするの?

今回の研究は「妖怪が人間の心に影響を及ぼすのか」という、妖怪→人間という軸で行った。

次回は「妖怪は人間の心を反映するのか」という、人間→妖怪という軸の研究を行い、妖怪と人間の心理の関係性の真理にさらに迫っていく。

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