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【妖可視〜あやかし〜】研究レポート③ 妖怪は人のこころの写し身なのか?

こんにちは。ペンシルの研究開発部門
ヒューマナライズマーケティング研究室特殊研究機関『is』です✍️

【妖可視〜あやかし〜】研究レポート① 妖怪は人間の心に影響を及ぼすのか?

【妖可視〜あやかし〜】研究レポート② 人の心は妖怪に影響を与えるのか?

でご紹介した『妖可視〜あやかし〜』プロジェクトの研究第三弾。
そのレポートをお届けします。

要約

印象に残る出来事を詳細に思い出してもらうことにより、一時的に感情を大きく揺れ動かし、その状態で名前だけ提示した妖怪(事前に妖怪に対する感情を別の実験参加者に評価してもらった)の中から気になる妖怪を選んでもらった。思い出してもらった出来事に対する感情と、事前の妖怪に対する感情の関係性を分析した結果、詳細な感情は一致しなかった。だが、名前だけの提示であってもポジティブ感情(に見える感情)・ネガティブ感情(に見える感情)という大きな枠では関係性が見いだせたため、妖怪が人の心の写し身である可能性が示唆された。

⇒今回は「三.妖怪は人の心の写し身なのか」

[調査]  - どうやったの?

【対象】
人数  :39名
年齢範囲:20〜57歳

【方法概要】
A
・A-①:事前調査で認知度が低かった妖怪について「名前・説明」を提示し、どの程度「喜び / 悲しみ / 怒り / 興味 / 恐れ / 安らぎ / 不安 / 興奮」という感情を抱くか、それぞれ「1:当てはまらない〜6:とても当てはまる」評価してもらった(以下、「妖怪スコア」と記述)。

B
・B-①:Aとは別の実験参加者に印象に残っている出来事をできるだけ詳細に思い出してもらった。
・B-②:その出来事について、どの程度「喜び / 悲しみ / 怒り / 興味 / 恐れ / 安らぎ / 不安 / 興奮」という感情を抱いたか、それぞれ「1:当てはまらない〜6:とても当てはまる」評価してもらった(以下、「出来事スコア」と記述)。
・B-③:A-①で評価してもらった妖怪をBの実験参加者に名前のみ(※)で提示し、最も気になる妖怪を選んでもらった。

(※)妖怪が人の心の写し身の場合、妖怪の説明がなくとも名前(存在)だけでも関係性が見いだせるのではないかという仮説のもと、この手法を採用した。

[結果]  - どうなったの?

事前調査による妖怪スコアを下記に示す。

【分析結果】
①出来事スコアと妖怪のスコアの相関分析を行った。

  • 「出来事_喜び」 と「妖怪_興奮」 の間にごく弱い正の相関が認められた。

  • 「出来事_悲しみ」と「妖怪_喜び」 の間に弱い負の相関が認められた。

  • 「出来事_悲しみ」と「妖怪_興味」 の間に弱い負の相関が認められた。

  • 「出来事_悲しみ」と「妖怪_恐れ」 の間に弱い正の相関が認められた。

  • 「出来事_悲しみ」と「妖怪_安らぎ」の間に弱い負の相関が認められた。

  • 「出来事_悲しみ」と「妖怪_不安」 の間に弱い正の相関が認められた。

  • 「出来事_怒り」 と「妖怪_興味」 の間にごく弱い負の相関が認められた。

  • 「出来事_怒り」 と「妖怪_恐れ」 の間に弱い正の相関が認められた。

  • 「出来事_不安」 と「妖怪_喜び」 の間にごく弱い負の相関が認められた。

  • 「出来事_不安」 と「妖怪_興味」 の間にごく弱い負の相関が認められた。

  • 「出来事_不安」 と「妖怪_恐れ」 の間にやや強い正の相関が認められた。

  • 「出来事_不安」 と「妖怪_安らぎ」の間にごく弱い負の相関が認められた。

  • 「出来事_興奮」 と「妖怪_興奮」 の間にやや強い負の相関が認められた。

②特徴的な出来事スコアと妖怪のスコアの関係性分析

  • 出来事スコアの中で最も得点が高った感情と、妖怪のスコアの中で最も得点が高かった感情の一致度は25.6%だった。

  • 出来事スコアと妖怪スコアをポジティブ感情(喜び/興味/安らぎ/興奮)・ネガティブ感情(悲しみ/怒り/恐れ/不安)に分けて相関分析を行った結果、「出来事_ネガティブと妖怪_ポジティブ」の間にのみ弱い負の相関(r = -.327)が認められた。

③出来事スコアのクラスター分析を行った。

クラスター分析の結果以下の4つの群に分ける事ができた。

  • ポジティブ群:ポジティブ感情を抱く出来事を想起

  • ネガティブ群:ネガティブ感情を抱く出来事を想起

  • アンビバレンス群:ポジティブ・ネガティブ両方の感情が混在する出来事を想起

  • フラット群:印象には残っているが感情の揺れ動きがあまりなかった出来事を想起

しかし、どの群においても妖怪スコアに大きな差は認められなかった。

[まとめ]  - まとめると?

  • 想起した出来事に抱く感情と選ぶ妖怪の印象は一致しない。

  • その反面、弱いながらも相関関係が認められる感情の組み合わせは存在する。

  • その組み合わせはポジティブ感情同士・ネガティブ感情同士なら正の相関関係、ポジティブ感情とネガティブ感情なら負の相関関係となっている。

  • しかし、ポジティブ・ネガティブと感情を大きく2分した場合、その傾向は薄まる。

  • 想起した出来事の種類によって選ぶ妖怪の傾向に差はない。

[考察]  - それでそれで?

妖怪の説明をせず名前だけであっても、ごく弱い関係性ではあるが、個々のネガティブ感情同士・ポジティブ感情同士では正の相関が、相反する感情同士では負の相関が認められたことから、何かしらの形で「妖怪が人の心の写し身」である可能性が示唆された。しかし、この傾向は感情をポジティブ感情・ネガティブ感情に2分した場合、薄れてしまったことから、感情にはポジティブ・ネガティブではない別の共通点があると考えられる。それが人の心と妖怪の関係性を解き明かす上で大きな鍵となるかもしれない。

また、クラスター分析の結果による妖怪スコアの差は認められなかったが、スコアだけで見ると、アンビバレンス群では「安らぎ」が、ネガティブ群は「喜び」と「安らぎ」の妖怪スコアが低い(統計的な差が出ているわけではないので推測の域は出ない)。
これは1回目の「妖怪には感情の調整効果がある可能性」と矛盾する。
このことから、人はその時の感情に呼応して似た印象の妖怪に惹きつけられるが、それは実際に呼応する妖怪に出会うことで自分の感情を調整しようとしているのではないかという仮説に繋がった。
(もちろん、そもそも人間にはその時のメンタルの状態に似たものを選びやすいバイアスやネガティブなものに対して7倍も反応しやすい性質が備わっているため、これらが関係している可能性は否定できない。)

[課題]  - とはいえ…

今回の実験では、印象に残っている出来事を詳細に思い出してもらうことで擬似的に感情を大きく揺れ動かそうと試みた。アンケート結果を見るに多少の効果はあったように見受けられるが、クラスター分析の結果、フラット群が存在することから、感情を動かすという目的において、この手法では限界がある。また出来事の想起と実際に体験している状況とでは、感情の種類などが異なる可能性がある。そのため、実際に大きく感情が揺れ動かされた場合に選ぶ妖怪が異なる可能性がある。

また、集中して過去の出来事のみを想起してもらうことは困難なため、妖怪を選ぶ際に別の感情が介入していた可能性も否定はできない。これらの点は今後、研究を進めていく上でクリアにしなけらばならない点である。


[今後]これからどうするの?

現在「不思議な体験」を経験したことのある人にアンケート・インタビューを実施し、その体験が起きた状況、抱いた感情、当時の年齢や精神状態、疲労具合など様々な観点から共通点の抽出を試みている。
これらの共通点を分析することで、今回の実験では明らかにすることができなかった「妖怪は人の心の写し身なのか?」の結論に近づくことができると考えている。

また、共通点を環境要因として統制し、同様の状況を作り上げることで「不思議な体験」は追体験できるのか?というテーマで実験を実施する予定だ。もし、できた場合「妖怪を見ることはできるか?」という謎の解明に一歩近づくだろう。


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