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クマとして生きる宣言文『クマの恋』1
あらすじ
「クマを着始めたとき、母は目を丸くした」ー「ぼく」は、クマの着ぐるみを着る高校生だ。
ある日、電車内でトラブルを目撃する。「トーサツ!」と叫んだのは、青い髪の女の子ヒトミだった。二人はともに時間を過ごすようになっていく。
ところが、ある男が「ヒトミのことを教えろ」と「ぼく」を脅した。それをしなければ「ぼく」の素性と秘密がSNSでさらされてしまう。。
アイデンティティ、ジェンダー、セクシュアリティ、恋と希望の物語。
序章 物事には起点がある
物事には起点があって、それはあとになって初めてあの日のあのことだったとわかるのだ。
わたしが言ってるのは、あのムーブメントのことで、それがどうやって始まったかは、あとになったら違う物語として語られてしまうかもしれないから、ここに記述しようと思う。
この話は、クマから始まる。
1章
1 クマとして生きる宣言文
ぼくは、クマとして生きる。
漢字の熊ではない。カナダの奥地でマイナス20度のなか生肉をぶるんぶるんと振りながら食べているやつとは全くの別物だ。もちろん、向こうはぼくを仲間と認識しないだろうから、ぼくはぶざまに振り回されてあっという間に肉そのものになるだろう。
高校2年生の1学期、ぼくは、クマを着て学校に行くことに決めた。学校だけじゃない。すべての場所でクマだ。
ポリエステル100%の、本物の熊とはまた違う、かわいらしさで野性味を押し隠した、人間からみた理想的なクマ。
自然界には決してそのままでは存在しえない、都合のよい、かわいらしさを加味した想像上の生き物だ。
人間を食べたりしないし、友達にだってなれる。
ぼくは、それを皮膚にすることにした。
君とぼくの接する場所は、リアルではなくファンタジーなのだ。
クマの着ぐるみがぼくを覆うとき、ぼくは、クマとして生きる。
(続く)
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