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Cross a Fear(コード進行編)

はじめに

前回の乾坤の血族に続いてCross a Fearです。
今回もコード進行編と個別トラック編に分かれているので、各トラックの音作りや具体的なフレーズに関しては個別トラック編をご覧ください。


凡例

本文中で使用する表記方法を最初にまとめておきます。

・コードのディグリー表記
ローマ数字は用いず、アラビア数字に「度」を付けて表記し、それ以降はカタカナ表記します(場合により、適宜度数の前に#と♭を使用)
例)「5度セブンス」「1度マイナー」「♭3度メジャー」等。

・スケールノートのディグリー表記
「長・短・増・減・完全」に、アラビア数字と「度」を付けて表記します。
例)「短3度」「増4度」「完全5度」等。

・コード内のコードトーン表記
「長・短・増・減・完全」を#と♭で表し、序数の省略表記を付けます。
例)「♭3rd」「1st」「#11th」等。


曲の概要

2面(裏)の曲です。

BPM 127.44、4/4拍子、キーはGマイナー。
構成は、イントロ4小節、Aメロ16小節、Bメロ3小節、Cメロ4小節、Dメロ10小節でイントロに戻ってループ、そして3周目のイントロでギターソロが入ってフェードアウト。短い曲ですが、展開の多い構成になっています。

メロディのスケールは基本的にGドリアなのですが、コード進行は存在する為に、キーは便宜上Gマイナーとしてあります。
コード進行が存在するコーダルな曲ですが、その上にモードスケールが乗る形となっており、コーダルとモーダルの中間と言った構造です。

以下に楽譜を用意しましたので、参照しながら読み進めてください。

Cross a Fear 楽譜

リハーサルマーク毎に、メロディや目立つフレーズを記載してあります。
<イントロ>はシーケンスフレーズ、<A>はボイス系シンセ、<B>はギター、<C>はソウトゥース系のシンセ、<D>はベル系のシンセで最後の1小節はシーケンスフレーズ、といった具合ですね。リハーサルマークが変わる度にメロを取る楽器が移り変わって行きます。
また、<B><C>の終わりに音が重なっているのは、メロを取る楽器が変わる際に、アウフタクトで前の小節から入ってくる為です。

概括としては、9thや11thのテンションを含むコードが多い印象で、こうした特徴が楽曲の雰囲気に影響しています。



コード進行編本編

<イントロ>
Gm7(9,11)を基にしたシーケンスフレーズで始まります。
和音そのものは鳴っていませんが、ベースとシーケンスフレーズの構成音でGm7(9,11)を感じさせている訳ですね。
シーケンスフレーズは、音階的なものと分散和音的なものに大別できますが、イントロのフレーズは後者の為、和声感が捉えやすくなっています。


<A>
Gm7(9,11)を4小節、F(9,11)を2小節、Gm7(9,11)を2小節という8小節のパターンを2回繰り返します。
ディグリーだけで考えると、マイナーキーの1度と♭7度を繰り返すという事なので特に珍しい進行ではありませんが、11thのテンションが含まれている為に独特の色味があります。


<B>
このパートはコードチェンジが多く見えますが、これはベースの動きに合わせてオンコード表記したり、偶成和音的なものにも律儀にコード付けしている為で、大きくは|A7 / C# D7 / C |Gm C / G|A7 A♭7|と、2拍単位でコードチェンジしていると捉えて下さい。

まず最初の小節は、オンコードを省いて簡略化するとA7→D7という流れになっており、つまりはGmへのダブルドミナントからドミナントという事になります。

2小節目にC / Gが出てきますが、これはよく使われる手法で、フレーズの隙間を埋めるように使われます。常に音を動かして聴き手を飽きさせないようにする為の工夫といった感じでしょうか。
ここでのポイントは、GマイナースケールのダイアトニックコードならCmとなるはずの分子のコードが、メジャーコードのCになっている点です。つまりこれは乾坤の血族のコード進行編でも解説した4度メジャーです。
仮にC / Gでは無くCm / Gにすると、よりマイナー(短調)寄りの感じになりますが、こうした用法では大概4度メジャーになっています。ある種、1つの「型(パターン)」と言えるコード進行ですね。

3小節目は1小節目と違い、A7からD7に向かわず半音下のA♭7に落ちており、Gmへ向かうドミナントを裏コードに変えています。同じコード進行の使用を避け、聴き味に変化を持たせている訳です。


<C>
Cadd9とGm7を1小節ずつ交互に繰り返す進行に入ります。
これは4度メジャーから1度マイナーの繰り返しという事になりますね。
前パート<B>の2小節目でGm→C / Gのコード進行が登場しましたが、そのコード進行が転倒してベースもルートへ動いている形になります。

1度マイナーから4度メジャーというコード進行は多く耳にしますが、4度メジャーから1度マイナーという逆のコード進行は少ないと思います。
そしてこの2コードを繰り返すコード進行は調性が曖昧であり、キーの設定に様々な解釈が考えられる為、以下より想定し得るキーの可能性を4通りに大別して順に列記して行きます(便宜的に譜面上はGマイナーのまま変更していません)


第1に、Gマイナーの1度マイナーと4度メジャーを繰り返しているという考え方です。
つまり転調していないという事ですが、この場合、概要で触れているようにこの曲の基本的なスケールはGドリアなので、問題なくGドリアが乗る形となります。そして実際のメロディも長6度の特性音を含んだGドリアです。

また派生的に、Gマイナーの平行長調であるB♭メジャーへの転調と解釈する事もでき、その場合は2度メジャーと6度マイナーの繰り返しで、スケールは増4度の特性音を含んだB♭リディアとなります。


第2に、コードの前後を逆にする事によってCメジャーに転調しているという考え方です。
つまり、Gマイナーにおいては4度メジャーであるCadd9の方が、トニック(1度のコード)へ変わっているとの解釈です。

Cメジャーへの転調であれば、1度メジャーと5度マイナーの繰り返しとなりますが、この場合の5度マイナーは、定番の用法である4度メジャーへと向かうセカンダリードミナントのツーファイブ化で現れるものとは異なった、非機能的でモーダルな用法であり、実際のメロディも短7度の特性音を含んでいる事から、スケールはCミクソリディアという事になります。
元々この曲の基本的なスケールはGドリアである為、コードの前後を入れ替える事によって主音を移動させ、GドリアからCミクソリディアへと、レラティブなモードチェンジをしているとも言えます。


第3に、両コードがダイアトニックコードである場合には、一つの共通した調性が存在しますが、今回のように片方が調性外のコードである場合、互いのコードが別々の調性を持って独立しているという考え方です。
つまり、コード毎に転調している状態であり、各々のコードが各々のキーのトニックという認識になる為、一つの共通したキーでは無く、CメジャーとGマイナーを交互に転調しながら繰り返しているという訳です。


第4に、両コードがダイアトニックコードとして成立するキーへ転調しているという考え方です。
つまり、Cadd9とGm7が共にダイアトニックコードとして成立する、Fメジャー若しくはDマイナーへの転調となり、当然ながらスケールもダイアトニックスケールとなります。


以上の4通りとなりますが、あくまでこれは聴感を無視した純粋な可能性の話です。

因みに、自身の聴感ではCメジャーへの転調と感じますが、その理由は、先に提示されたコードに基づいて、その調性母体を想起する為と思われます。
つまり、今回のような2コードの繰り返しで、互いのコードの調性母体が異なる場合、1度マイナーが先に提示されると、「調性内のコード(Gm7)から調性外のコード(Cadd9)へ行き、また調性内のコード(Gm7)に戻って繰り返す」と知覚する為に、転調したとは感じません。

逆に4度メジャーが先に提示されると、「調性外のコード(Cadd9)をトニックとしたキーへ転調し、その転調先のキーからみた調性外のコード(Gm7)へ行き、また転調先のコード(Cadd9)に戻って繰り返す」と知覚する為に、Cメジャーへ転調したと感じる訳です。

私と同様の方も居れば、全くそのようには聴こえない方も居るでしょう。そもそも上記の例のどれもがピンとこないという方も居るかも知れません。
大切なのは「自分がどのように聴こえるか」という事なので、あくまで一意見として捉え、最終的な判断はご自身の聴感に従ってください。


<D>
このパートから明確なGマイナーに戻ります。
まず、E♭M7→F69→Gsus4→Gという1〜2小節間の最後のGは、キーに基づけばトニックマイナー(Gm)となるはずですが、これは典型的な偽終止の一種で、本来はマイナーコードであるはずのコードがメジャーコードになっています。その為に明るい印象に聴こえますね。
そして次のCm9→Dm7(11)→E♭M7→Dm7 / F と、コードが順次進行する3〜4小節間も明るい印象がすると思いますが、これは1〜2小節間のトニックがメジャーコードになった偽終止の印象が残る為と考えられます。

その後の5〜6小節間は1〜2小節間と同様で、7〜8小節間も8小節目のDm7 / F がFadd9になっていますが、ルートはFで同じの為、和声感は異なるものの、ほぼ3〜4小節間と同様です。感覚的にあまり変化した印象は感じないと思います。
また、1・3・5小節目のテンションは、後ろで鳴っている高速のシーケンスフレーズを基に設定しましたが、その辺りに付いては個別トラック編で詳しく解説します。

そして9小節目ですが、ここで多少特殊なコードが登場します。
Gsus2と表記しましたが、これはGadd9(omit 3rd)等と表記される事もあるコードで、実音では下からG,A,Dとなり、つまりは3rdの音を抜いたadd9という訳です。
このコードは「The Police - Message In A Bottle」のように、和音の響きそのものを重視するような用法も見られますが、今回の場合はフレーズやコードの流れから考えて、通常のsusコードである4thから3rdへ下行する動きとは逆向きの、2ndの音が3rdの音に上行して解決する形のsusコードと言えるでしょう。

最後の10小節目も、G(11)と、あまり見ないタイプのテンションコードになっています。
これは、トライアドのメジャーコードにナチュラルの11thが付いているという事で、独特の響きを持っている為に上手く使えば効果的ですが、3rdの音と♭9音程となり、ぶつかって聴こえる為、通常は避けられるコードです。
今回の場合は、11thが細かい譜割り(音価が短い)のシーケンスフレーズに含まれている形なので、あまりぶつかった感じはしないと思います。

因みに前回解説した乾坤の血族でも、ループ直前の下降シーケンスフレーズで11thの音が使われております。コード表記はGadd9としてありますが、それはピアノで弾かれていたコードがGadd9だった為であり、シーケンスフレーズには11thの音が使われています。
乾坤の血族のケースも、シーケンスフレーズの譜割りが細かい為に、ぶつかった感じはしないと思います。むしろ独特の色味を持った美しい響きに聴こえるのではないでしょうか。


あとがき

何度も聴いているはずですが、いざしっかりコピーしてみると乾坤の血族同様、長年誤認していた箇所も多数ありました。やはり裏付けを取らないとダメですね。

「ミュージック フロム 悪魔城ドラキュラ 黒・赤」というCD-BOXが出ているようで喜ばしいのですが、個人的にはブンブンサテライツの初回盤みたく、ドラキュラXのトラック別ステムデータ入りのCDを発売して欲しいところです。KONAMIさん、どうにかなりませんでしょうか?お願いします!

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