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Cross a Fear(個別トラック編)

はじめに

コード進行編に続き、個別トラック編です。
こちらでは音作りや音楽的な考察についてパート毎に解説して行きますが、前回の乾坤の血族同様、音源はStudio Oneに付属しているPresence XTにて作成しております。


トラックの概要

大きくパート分けした場合、以下のようになります。
ギター 以外はオールシンセといった感じですね。

・リード(シンセボイス、シンセリード、シンセベル)
・ギター(リードギター、サイドギター)
・コード(プラック、シンセストリングス、シンセブラス)
・シーケンス(1、2)
・その他(コーラス、オーケストラヒット)
・ベース
・ドラム

上から順に解説して行きますが、リードのパートはメロディの音楽的な分析を含んでいますので、コード進行編でも使用した以下の楽譜を参考にして頂けると幸いです。

Cross a Fear 楽譜

また、部分的にですがピアノロールのスクリーンショットを添付しているパートもありますので、そちらも参考にしてください。




リード(シンセボイス、シンセリード、シンセベル)

<A>
音色は所謂シンセボイスといった感じで、似たような音色を選び、オクターブで重ねてあります。また、薄ら5度上の音が聴こえるので実音で足しました。昔のPCM音源には必ず入っているような音色で懐かしさを覚えます。

音色を近づける為にEQをあれこれ弄った結果、全体的なEQのカーブがコムフィルター状になった為、元の音色にはコムフィルターが使われている可能性があります。
因みに、乾坤の血族の時は特に触れませんでしたが、原音に近づける為、基本的にどの音色もEQをかなり弄っています。

メロディにナチュラルのE音が使われているのが特徴です。これはGのナチュラルマイナーであれば短6度であるはずのE♭の音が長6度になっており、ドリアの特性音である為、メロディのスケールはドリアという事になります。この曲のメロディには最初から最後までE♭の音は使われていません。

ここで、多少ドリアについて説明しておきますが、まずドリアの特性音が分かりやすく使われている例として、モーニング娘。の「サマーナイトタウン」(0:41〜0:44秒)を挙げておきましょう。Aメロの「なーんかへんなかんーじー♪」の最後の伸ばしている部分の音がそうです。外れているようで合っているような、よく耳慣れた音階上には無い、独特の雰囲気を感じると思います。

他にも、ドリアが使われている曲は沢山ありますが、一例としてPerfumeの「レーザービーム」(0:55〜1:02秒)を挙げておきます(但し、こちらの曲は一時転調とも考えられます)

ドリアはナチュラルマイナースケールより若干明るく、世間的にも非常に使用頻度の高い人気スケールですが、何故ナチュラルマイナーより明るいのかと言えば、短6度の音程が長6度になっている、つまりはナチュラルマイナーより1つ短音程が減っている為と考えられます。

意外と音楽は単純なもので、短音程の多いスケールほど暗く、長音程の多いスケールほど明るく感じる傾向があり、簡単にまとめると、マイナー系のスケールなら、ドリア→エオリア→フリジア→ロクリアの順で暗くなって行き、メジャー系のスケールなら、ミクソリディア→イオニア→リディアの順で明るくなって行くという訳です(当然、個人の感覚差はあります)


<B>
ここからリードがギターに変わりますが、ギターの音作りについては後のギターパートで解説します。また聴こえ辛いですが、<A>のシンセボイスも後ろにユニゾンで入っています。

D♭の音が出てきますが、これはナチュラルマイナースケール上には無い、減5度の調性外音であり、平行調長調(B♭メジャー)ではブルーノートに当たる音です。
ダークな雰囲気を出す為によく使われる音ですが、例えば「燃えよドラゴンのテーマ曲」(0:57秒〜)等で使われています。この曲では全般的に使われていますが、特にこのキメの部分は、コード進行は違いこそすれ、Cross a Fearとキーも同じでフレーズの譜割りも似ている為に分かりやすいかと思います。

他には「The Art of Noise - Dragnet (Official Video)」で0:05秒から「バーバラッバッバー♪」と吹いているブラスのフレーズ、また一部で有名な「死ね死ね団のテーマ」では、イントロのギターフレーズで使われています。


<C>
前パートの最後から、アウフタクトでソウトゥース系のシンセリードが入って来ますが、音色的にはプレーンな音色で特筆すべき点はありません。ローパスで高音を削り、ポルタメントと付点8分のディレイを掛けた程度です。

分散和音的な動きと音階的な動きが巧みに組み合わされた、独特のフレーズで、にナチュラルのE音が使われている事から、スケールはGドリアとなりますが、転調していると考えた場合にはスケールも変わります。

コード進行編にて、転調とそれに伴うスケールを解説し、コード進行から、私自身はCメジャーへの転調と捉えているとしましたが、実際にはコード進行だけでなく、前の小節終わりから「ドーレミファソー♪」と、いかにもCメジャースケールっぽく入ってくるシンセのメロディも、Cメジャーへの転調を感じさせる要因になっていると思われます。
そしてその後のGm7と、上に乗っているフレーズの音使いから、スケールはCミクソリディアと判断しました。

つまり、当然ながらメロディやフレーズも調性感に影響を与える訳です。キーの判定は主音がどこにあるかで判断するほかになく、最終的には各々個人の聴感によって決まる為、コード進行とメロディをよく聴いて、ご自身の耳で判断してください。


<D>
ここからソウトゥース系のリードが裏メロ的に後ろへ潜り、ベル系の音色が入ってきます。よく聴くような音色の割に意外と似た感じに作れず苦労しました。
グロッケンをオクターブで重ね、その上下をシンセベルで挟み込むようにしてあるので、計4オクターブ使って重ねてあります。そこへコーラスを深めに掛け、付点8分のディレイを右にパン振り切りで掛けたところ、そこそこ似たような感じになりました。

特に1〜2小節間など、メロディはマイナースケールの主音から始まって主音で終わるような、かなりマイナー寄りの動きをしていますが、コード進行が偽終止で同主調長調のトニックへ解決する為に、トータル的な和声感としては中間色といった聴き味がすると思います。
メロディに対するコード進行の当て方で、調性感を上手くコントロールしていますね。


ギター(リード、サイド)

<A>
ギター(サイド)のコード弾きがメインのパートです。
ディストーションギターで、5度積みの所謂パワーコードで演奏されています。また、ピアノロールは作りませんでしたが、所々にブリッジミュートの音でちょっとした味付けのフレーズが足されていますね。


以下、ピアノロールです(最小グリッドは16分、一部ベンドでピッチを変えておりベンド幅は12でデータは下欄に表示)

ギター(サイド1)

<B>
このパートはギター(リード)のソロがメインになっています。
ディストーションギターの音色で、付点4分のディレイが掛かっています。
3小節目の白玉の終わりに上行のグリッサンドが入っており、1周目とループした2周目はニュアンスを変えてあったりして、生演奏ならではといった感じです。

<C>
ここからまた<A>同様、パワーコードでのコード弾きになります。
要所要所にピッチベンドでニュアンスが付けられています。ループ直前のピッチダウンするところは、ピックスクラッチぽくもありますが、下行系のグリッサンドかアームダウンではないかと思われます。


以下、ピアノロールです(最小グリッドは16分、一部ベンドでピッチを変えておりベンド幅は12でデータは下欄に表示)

ギター(サイド2)


<イントロ>(エンディング)

ギター(リード)のソロです。<B>と同様にディストーションギターに付点4分のディレイが掛かっています。

アーミングで短3度音程のトリルを下げたり戻したりするフレーズから始まります。
最後のスクウィール的な音は、ハーモニクスの音をレイヤーしたところまあまあ似た感じになりましたが、実際どういう風に弾いているのかはギターにあまり詳しくない為に分かりません。詳しい方が居らっしゃれば教えて頂けると幸いです。


以下、ピアノロールです(最小グリッドは16分、一部ベンドでピッチを変えておりベンド幅は12でデータは下欄に表示)

メインギター
ギター(リード)


コード(プラック、シンセパッド、シンセブラス)

<A>
9小節目からプラック系の音色で和音(2声)のフレーズが入ってきます。
音色的には、ソウトゥース系のシンセをフィルターで似たような音にしてコーラスを掛け、ADSRをクラビネット的な感じに調節したところ、大体似た感じになりました。フレーズもクラビ的ですね。薄ら1オクターブ上を重ねてあります。

以下、ピアノロールです。(最小グリッドは16分)

プラック
コード(プラック)

<B>
<A>から引き続き、同じ音色で和音(2声)のフレーズが入っています。

2小節目で、C / Gという分数コードの根拠となる動きをしていますが、最後のギターソロでも、合いの手的に同じような動きをしたフレーズが入っています。

<C>
ここからシンセパッドと、シンセブラスの音が入ってきます。

まずはシンセパッドですが、音色的にはシンセストリングス系のパッドといったプレーンなもので、特筆すべき点はないです。
白玉の和音が高いポジションで厚めに入っており、これが楽曲の高揚感を高めるのに一役買っています。

以下、ピアノロールです(最小グリッドは16分)

シンセストリングス
コード(シンセパッド)

そしてシンセブラスですが、こちらも音色的にはプレーンなもので特筆すべき点はありません。
他の音に埋もれてあまり聴こえず、正直このパートの採譜にはあまり自信が無いのですが、3声で割と内声が動いているように聴こえます。

以下、ピアノロールです(最小グリッドは16分)

コード(シンセブラス)


シーケンス(1、2)

<イントロ>
ソウトゥース系シンセのADSRを調節し、コーラスを深めに掛けたところ似た感じの音色になりました。

分散和音的なシーケンスフレーズで、ベースと共に和声感を担っていますが、9thや11thのテンションを含むように構築されているのが特徴的です。
シーケンスフレーズなので、テンションと言っても和音で入っているのではなく、アプローチノート的な動きで上手く含ませている形ですが、瞬間的であっても人間の耳には知覚される為、コード表記にテンションノートとして反映しました。

通常のコード表記では、こうした音はテンションとは捉えない場合もありますが、例えば同時発音数が3つしかないファミコン音源であっても、過去の優れたコンポーザー達は分散和音を上手く使ったりメロディノートの選び方を工夫したりして豊かな和声感を持った曲を生み出しています。
こうした事実により、和声感に充分な影響があると考えられる音はコードトーンとしてカウントする事にしました。


<A>
<イントロ>
に引き続き、同じシーケンスフレーズが鳴っています。

ここで、F(9,11)のコード上では3rdのコードトーン(A音)は入っていませんが、メロディで弾いている為にコード表記はF(9,11)としました。

以下、ピアノロールです(最小グリッドは16分)

シーケンス1
シーケンス(1)


<D>
パンが左右に動く32分音符のシーケンスが入ってきます。

音色的には、ソウトゥース系のシンセにローパスを掛けて高域を削り、軽くレゾナンスを上げ、ADSRでアタックを若干遅め、ディケイは短め、サスティンを0にしました。そしてそのエンベロープ値をカットオフにも適用して調整し、深めにコーラスを掛けたところ似た感じとなりました。

空間を埋め尽くすような、細かい音符での分散和音フレーズで、楽譜に表記した最後の小節以外は同じフレーズの繰り返しですが、単純な直線的動きではなく、コードチェンジの箇所も音が半音で繋がるようになっていたりと、よく練られています。

また、同じフレーズの繰り返しですが、1小節目及び5小節目とは異なり、3小節目はコード進行が変わる為、コードにおける和声的な意味も変わっています。コード進行編で触れた通り、コードのテンションノートはシーケンスフレーズを元に付けているので、この辺りを詳しく解説します。

まず、1小節目と5小節目の1〜2拍目(E♭M7)にかけては、フレーズも完全にE♭M7の分散和音となっている為に、コード表記もそのままE♭M7ですが、F69となっている3〜4拍目にかけては、3拍目がDm7、4拍目がFadd9の分散和音となる為に、シーケンスフレーズだけを抽出すれば、1拍ずつ和音が異なっている事になります。
しかし、ベースは動いておらずコードチェンジしている訳ではない為、3〜4拍目はシーケンスフレーズ2拍分の構成音を足し合わせてコード表記をF69としました。

そして、3小節目はコード進行が変わり、1〜2拍目はCm7上にE♭M7の分散和音が乗る形となる為にCm9とし、3〜4拍目にかけてはDm7上に2拍分の構成音を足し合わせたDm7(11)としました。

最後の小節は冒頭の楽譜にある通り、ノコギリ波状に6音で3回の上行を繰り返すシーケンスへと変わります。和声的にはGsus4の分散和音ですが、シンセリードが3rdの音(B音)を弾いているので、コード表記はG(11)としました。
上行を繰り返す度に、時間も音価も短縮されて行くこのシーケンスフレーズは、テープの早回しを楽音的に再現しているような構造で、高揚感や加速感を生み出しています。パンがより早く左右に振られているのも、それに一役買っていますね。また音色的には、ここだけコーラスを薄くしてあります。

フレーズの構造を具体的に解説すると、上行にかかる時間(長さ)が、付点4分音符分の長さ→4分音符分の長さ→付点8分音符分の長さ、と規則的に短縮されるのに伴い、音符の音価も、16分音符→16分3連符→(32分音符+32分3連符)となっています。つまり上行時間と音価の変化が連動している訳ですね。

3回目の上行部のみ、トータルで付点8分音符分の時間(長さ)を、8分音符分の長さは32分音符、そして付点分(16分音符分)の長さは32分3連符というように、途中で音価が変化している為、他の上行部より1音多い7音のシーケンスとなっています。
これは、3連符に合わせて1つ音符を足した結果ですが、その為にここだけ最高音(G音)の1つ前にFの音が入っています。途中で音価を変えずに32分音符のまま上行すれば、他と同じ6音でキッチリ収まる為、音価を変える必要は無かったようにも思いますが、順次進行で滑らかに最高音へ到達させる目的で、前打音的にF音を足したのかも知れません。

以下、ピアノロールです(最小グリッドは32分、最後の小節は冒頭の楽譜を参照の事)

シーケンス(2)


その他(コーラス、オーケストラヒット)

<イントロ>
4小節目の4拍目<A>に入る直前、昔懐かしいオーケストラヒットの音が1発だけ入っています。薄らと聴こえる感じなので、意外とこの音は聴き漏らしている方が多いかも知れません。


<B>
3小節目にメロディのユニゾンとハモリの2声でコーラスが入っています。

音色は、Choir Ahhといった名称で大概のPCM系音源に入っているようなものなので、特筆すべき点はありません。
ハモリの音程は6度下です。


<D>
最後のループ直前にも、オーケストラヒットの音が入っています。これは派手に鳴っているので誰にでも聴こえますね。


ベース

音色的には特筆すべき点はなく、スラップベース系の音色を選び、ペチペチする辺りをEQで削ったところ、似た感じになリました。
音楽的にも無駄音が無く、よく設計された隙のないラインだと思います。

以下、ピアノロールです(最小グリッドは16分、一部ベンドでピッチを変えておりベンド幅は2でデータは下欄に表示)

ベース


ドラム

この曲のドラムセットは割と要素が多く、特徴的なのは軽めの音がするサブスネアと、シモンズ風のエレタム、そしてザップノイズ(シンセの音を急激にピッチダウンさせる事で作られる、チュンチュンした感じの音。通称High Q)です。

サブスネアは似た音が無かったので、色々な音を基にEQやらピッチやら散々いじってみましたが、あまり似せる事はできませんでした。
エレタムも似たものが無かった為にシンセで作ろうとしましたが、この音源ではあまり上手くいかなかった為、結局普通のタムにピッチベンドを掛けるという強引な手法を用いています。要するにタムが鳴る度MIDIデータでピッチベンドしている訳ですが、こっちの方が面倒だった気もします。

High Qはまあまあ似ている音が入っていたので、それを元に多少調整して使いましたが、原曲はもっとディケイが短く、より急激にピッチダウンさせている感じです(余談ですが、「High Q」という通称はどこから来たのかというと、この音は恐らくフィルターのレゾナンスによる自己発振で作られている為、「Q値が高い」といった意味だと思われます)

フィルインで音の質感が異なって聴こえる箇所(<A>1カッコの3〜4小節目)があり、リバーブで煽りを入れているのかも知れませんが、ドラッグを入れた別のスネアが同時に鳴っているようにも聴こえたので、ピッチを高めにしたドラッグの音をレイヤーしたところ、多少似た感じになりました。

また特徴として、80年代のゲートリバーブほど露骨ではありませんが、割と強くキックにリバーブが掛かっています。
これがドラムの派手さを増しているポイントかと思われます。

ドラムパターン自体は、音の要素数が多い割にスッキリとした印象で、空間を埋め過ぎないメリハリの効いたパターンだと思います。


あとがき

コピーデータのミックス作業をしている際に、ドラキュラXのサントラを聴いた当初、独特のギラついた聴き味というか、テラテラした照りのような質感を覚えた事を思い出しました。

当時はその正体が分からずにいましたが、今改めて聴くに倍音の乗りが良いからだと思われます。普通に聴いていると気付きませんが、コピー作業でじっくり聴くと、それなりに大きなレベルで倍音(特に3次倍音)が聴こえる音色があったりします。
こうした倍音はコンプによるものなのか、テープによるサチュレーションなのか、はたまたエンハンサー的な機材の効果なのか、単純に実音でレイヤーしてあるのか、一体何によってもたらされているのかは不明ですが、とにかく倍音が良い感じに乗っていますね。

今回は、前回の乾坤の血族では諦めていた、最終的な出音に関しても限界まで似せようとしましたが、如何せん原曲が持っている良い感じのドンシャリ感や、締まった感じを再現できませんでした。
その他にも、音がペラペラで立体感が無いとか、様々な問題がありますが、そもそも使っている音源が違う上に、スタジオ録音を宅録で再現しようとする事自体無理があるだろうという言い訳で自分を納得させています。

次回はCemeteryです。


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