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乾坤の血族(コード進行編)

はじめに

もう彼此20年以上前、楽曲の分析と耳の訓練の為に悪魔城ドラキュラXの殆どの曲をコピーしましたが、近年そのデータを改めて聴き直したところ採譜ミスだらけだったので、これはイカンと一から採譜し直す事にしました。

完コピを目指した為に予想以上の時間と労力を費やしましたが、得られた知見も数多くあり、自身の備忘録も兼ねて音源と共に分析結果を解説しようと思います。
ただ先に申し述べておきますが、読み手に基本的な音楽の知識がある前提で書いているので、普通にドラキュラXの楽曲が好きなリスナーの方にはサッパリな内容だと思います。

「作曲をしていてドラキュラXの曲が好きな方」という、少数民族に向けた非常にニッチな内容になっているので、その点をご理解の上ご覧ください。
ただ、この曲を元に一般的な作曲の話にも敷衍して書いているので、作曲をなさる方には多少なりとも参考になる点があるかも知れません。

また、長くなってしまったので、コード進行編と個別トラック編に分けて解説することにしました。コード進行編では、主にコード進行を中心とした、楽曲の全体的な解説、そして個別トラック編では、音色の作り方等、トラック毎の具体的な解説をして行きます。

しかしながら、多分に個人の独自研究を含んだ内容であり、文中で述べている論の根拠は殆どが自身の経験則に基づいたものである旨、重々ご承知頂けると幸いです(だから文句言わないでね!約束だよ!)


凡例

本文中で使用する表記方法を最初にまとめておきます。

・コードのディグリー表記
ローマ数字は用いず、アラビア数字に「度」を付けて表記し、それ以降はカタカナ表記します(場合により、適宜度数の前に#と♭を使用)
例)「5度セブンス」「1度マイナー」「♭3度メジャー」等。

・スケールノートのディグリー表記
「長・短・増・減・完全」に、アラビア数字と「度」を付けて表記します。
例)「短3度」「増4度」「完全5度」等。

・コード内のコードトーン表記
「長・短・増・減・完全」を#と♭で表し、序数の省略表記を付けます。
例)「♭3rd」「1st」「#11th」等。


曲の概要

ファーストステージの曲で、オープニングアニメで流れるOvertureのアレンジになっています。

BPM 140.45、4/4拍子、キーはCマイナー(途中Gマイナーに転調)
構成は、イントロ4小節、Aメロ〜Bメロを8小節ずつ2回繰り返した後、Cメロ8小節、Dメロ10小節でAメロの頭に戻って以下ループですね。

以下にコード譜を用意しましたので、参照しながら読み進めてください。

乾坤の血族 楽譜

メロディライン及びイントロ終わりとループ時に使用される下降シーケンスとキメのユニゾンフレーズは記譜してあります。
一般的なコード分析(コード譜にケーデンスラインを引くような)ではなく、「そこで使われているコードやコード進行に、実際どのような音楽的効果があるのか」という事をメインに解説して行こうと思います。

概括としては、コードネームを全体的に眺めて頂くと分かる通り、結構テンションが入っていますね。基本的にはナチュラルなテンションですが、コードトーン同士が半音や全音でぶつかるような近接したボイシングが多い為、テンション感が強目になっています。

ピアノ、若しくはギター等のコード楽器が鳴っている箇所はそれらを元に、それ以外の箇所はメロディも含めたトータル的な和声感(曖昧な表現ですが)を元にコード付けしました。
また譜面が煩雑になる為、同一コード内で別のテンションに動いているような場合はコード付けしていませんが、そういった箇所については個別トラック編で触れようと思います。


コード進行編本編

<イントロ>
まずイントロですが、オーソドックスにトニックのコードであるCm9から始まります。ここで、♭3rdの音(E♭)と9thの音(D)が半音(短2度)でぶつかるようなボイシングになっているのがポイントです。
このボイシングでなければ、このイントロの雰囲気にはなりません。例えばぶつからないように9thを最上声に持ってくるボイシングでは、響きとしては美しいのですが、また別の雰囲気になってしまいます。
同じコードでも、ボイシングによってまるで異なる印象となるのが音楽の奥深いところですね。


<A>
|Cm|Cm / B♭|Cm / A♭|と、ベースが順次下って行くコード進行です。
これは所謂クリシェと呼ばれる手法の一種ですが、オルガンが上声でCmを保持しながらベースが下降する事で、和声感が変化して行く構造になっています。

基本的にナチュラルマイナーのダイアトニックコードだけで出来ているシンプルな構造ですが、1カッコの最後はG7であるのに対し、2カッコはGm7になっています。
これは、単純に同じ響きになるのを嫌った為とも考えられますが、理屈を付けるとすれば、1カッコは繰り返してトニック(Cm)に戻るので、よりトニックに傾斜感の強いセブンスコードを使用し、2カッコは、次のコードである<B>のFm7にクリシェのまま自然に下降して行く形になるので、シンプルにダイアトニックコードを使って順次進行したと考えられます。


<B>
クリシェが終わり、順次進行や4度進行を組み合わせたコード進行に移り変わります。
サブドミナント(Fm7)から始まっている事で、<A>よりも展開して行く感じが出ていますね。また、2箇所E♭M7(平行長調のトニック)が出てくるので、多少メジャーキー寄りの明るめな雰囲気になっています。

更に1箇所、同主長調からの借用、若しくはメロディックマイナー由来のコードであるFが使われており、これも<B>の雰囲気をメジャー寄りにする事に一役買っています。本来のナチュラルマイナーならFm7であるところがF、つまりメジャーコードになっている訳ですね。
何度も同じコードを使うマンネリ感も避けられる為、このようにマイナーキーで4度メジャー(F)を使うのは効果的な手法と言えます。

また今回のような使用は、コードの響きに変化を与えるのが目的と考えられますが、このコードは構成音に長6度のスケールノート(A)を含み、これはメロディックマイナーの音でもありますが、ドリアの特性音でもある為、メロディにも長6度を用いて強調すれば、機能和声の中にドリアのエッセンスを感じさせるハイブリットな雰囲気を出す事ができます。例えば、他の悪魔城ドラキュラの曲ならVampire Killerが好例でしょう。

Vampire KillerはキーがDmである為、コードもトニックのDmから始まっていますが、最初のメロディ「レレッドッシー♪」のシ(B)は、ナチュラルマイナーなら短6度であるはずのスケールノートが長6度になっているので、Bの音に行った時に内声が変化する形でコードが4度メジャー(G)になっています。つまり、DmからG / Dというコード進行になっているのですが、このように所謂マイナーキー(ナチュラルマイナー)の曲とは違った雰囲気を出せる訳ですね。

またこの4度がメジャーコードになる感覚は、ブルースの4度に由来するものと捉える事もでき、特にトライアドではなくセブンスコードを使用している場合は、よりブルージーな趣きを感じると思います。このようにマイナーキーの4度メジャーは、多面的な性格を持つコードと言えます。

E♭M7の横に(A♭M7 / E♭)とカッコ書きされていますが、これは<B>の2周目、和音で駆け上がってきたピアノにディレイがかかる箇所です。
この箇所の1周目はE♭M7なのですが、2周目はこのディレイがかかったピアノがA♭M7(ベースはE♭)なので、カッコ書きで(A♭M7 / E♭)としています。

ここは普通に考えて1周目と同じE♭M7にすると思うので、何度も聴いて確かめましたが、やはりA♭M7を弾いているようです。
A♭M7からA♭M7 / E♭という進行では、コードの構成音が変わらない為に通常はあまりコードチェンジした感じがしないのですが、実際のこの箇所は聴感的にコードチェンジしているように感じるのではないでしょうか。

これは、駆け上がってくる最後の和音、つまりA♭M7の直前の和音がGm7であり、つまりはGm7 / A♭からA♭M7 / E♭に解決する形になっている為と考えられます。A♭M7に解決する前に一瞬構成音の違う和音(今回はGm7)へ動いた事で、通常はあまりチェンジ感の得られないコード進行にチェンジ感が与えられている訳ですね。

またこの箇所は、ボイシング的にE♭の音が最上声で、且つ、1週目でE♭M7に解決する感覚が刷り込まれている事もチェンジ感が得られる一因になっていると思われます。更にコードのポジションが高い事で和声感が希薄になっている所為もあり、上声でA♭M7が鳴っていても、感覚的な和声感としてはE♭M7に解決した様に聴こえるのではないでしょうか。


<C>
C7(♭9)やB♭9といった、セカンダリードミナントが出てくる正統派なコード進行となっています。ポイントとしては、C7(♭9)のところでメロディがテンションノートであるD♭の音を弾くのが良いですね。
この音はCmスケール上ではスケールアウトした短2度の音ですが、ごく自然な感じで聴こえると思います。

では、何故この音が自然に聴こえるのかという理由を解説しますと、まず、C7(♭9)がFmに解決するセカンダリードミナントである為に、C7(♭9)が弾かれた瞬間、続くコードはFmであると予想されます。ここでの「予想される」という語句は、音楽的な知識とは関係なく、純粋な感覚として無意識に知覚されるという意味で捉えてください。機能和声に長年慣れ親しんできた現代人の慣習とも言えるでしょう。
そしてFmが予想されるという事は、同時にそのコード上のスケールにはFマイナースケールが想起されるという事でもあります。こちらも無意識レベルで知覚されるという意味です。

つまり、Cマイナースケール上であっても、FマイナースケールのドミナントコードであるC7が弾かれた瞬間、まだコードがC7に留まっている時点でもFマイナースケールが想起される為に、Cmスケール上に無いD♭の音も、Fmスケールにおいては短6度のスケール音である為、自然に感じるという訳ですね。むしろここでナチュラルのD音を弾く方が違和感を感じるくらいです。
簡単に言えば「瞬間的に転調しているから」という事なのですが、Fmコードに解決してから転調感を認識するのではなく、C7の時点で既に認識している点が面白いですね。それだけセブンスコードは他のコード(主として完全4度上)への傾斜感が強いという事です。

因みに何故この場合にFメジャースケールが想起されないかというと、それまでのCマイナースケールの調性感が影響する為だと思われます。CマイナースケールのルートがFの音になるコードはFmですね。
逆にCメジャースケールでルートがFの音になるコードはFなので、CメジャースケールでC7が出てくれば、Fメジャースケールを想起するでしょう。
「そんな単純に決めつけていいのか?」と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、一般論として人間の感覚はそんなものだと思います。直前の調性感に感覚が引っ張られるんですね。

長々と解説してきましたが、D♭のメロディノートがC7上で自然に感じる理由を要約すると、「C7の時点でFマイナースケールに転調しているように感じるから」となります。
勿論この箇所はあくまでもセカンダリードミナントであり、本質的な意味で転調している訳ではありませんが、このようにドミナントコード(セブンスコード)は他のコード(完全4度上)へと向かう強い傾斜感を持っているが故に、セカンダリードミナントとして使用した場合に転調感を与える、つまり瞬間的に元々のスケール感を変える効果があると言えます。

また、このドミナントコード(セブンスコード)が持つ強い傾斜感は他にも特徴があり、解決すべきコード(完全4度上、若しくは短2度下)に解決しなくてもそれなりに解決感があったりします。これはザックリ言うと、セブンスコードからなら大概のコードへ行けると言う事です。よくツーファイブの連続によってどんどん転調しているような曲がありますが、ツーファイブだとより自然な感じになりますね。

実際にこの曲でも、B♭9の後はE♭M7に解決しそうなところをGm7へと行っています。もちろんGm7はCmスケールのダイアトニックコードであり、構成音もE♭M7と似た代理コードなので、あまり違和感が無いのは当然なのですが、仮に調性外のコードへ行ったりしてもメロディの辻褄を上手く合わせる等して工夫すれば問題なかったりします。
ただし、よっぽど脈絡の無いコードに突然行けば、それは当然かなりの唐突感と転調感を伴うので、ものには限度というものがありますが。

つまりセブンスコードは、前述した解決すべきコードはあるのですが、全然違うコードへ着地したとしても、それはそれで不思議と納得感が得られるんですね。所謂ドミナントモーションに厳格にこだわらなくてもいい訳です。
これを何故かと考えると、人間の生理的な感覚なのかも知れませんが、強い傾斜感は、強い不安定感とも言えます。ずっと転びそうになっている感覚と言えば分かりやすいでしょうか。

例えば新幹線に乗っていて、電車の揺れでフラフラしながら自分の予約した席が分からずに車内をウロついている人を見かけたら「取り敢えず空いてるとこに適当に座ればいいのに」と思ってしまうのではないでしょうか?見ているこっちまで落ち着かない感じというか、予約した席でなくとも取り敢えず着席してくれた方が見ていて安心な訳です。

そして、このセブンスコードが持つ強い傾斜感を利用したコード進行が、<C>の最後でも使われています。G7 / Fから<D>の頭、E♭M7へ向かう箇所ですね。ここは通常ならCmへ落ち着くべきところです。


<D>
そして最後のパートですが、ここからGマイナースケールに転調します。
これは関係調(属調)への転調であり、ピボット転調と呼ばれる手法が用いられています。
ピボット転調を簡単に解説しますと、元のキーと転調先のキーに共通するコードを介して転調する手法で、つまりは共通コードをのりしろにしてキー同士を接着するようなイメージですね。両コードのラグランジュポイントとでも言えるでしょうか。
突然別のキーにガチャンと転調するような、転調感を知覚しやすい転調とは違い、聴いている内にいつの間にか転調しているような手法です。

具体的にこの曲の場合は、CとGの各マイナースケールにそれぞれに共通するE♭M7(Cマイナースケールでは短3度、Gマイナースケールでは短6度をルートとするダイアトニックコード)を結節点に転調している訳ですが、最初のE♭M7ではメロディも両スケールの共通音を弾いているので、あまり転調感がありません。
しかし、次のFからD7そしてGmへと至るコードの流れと、Gマイナースケールに変化したメロディの動きで転調した事が分かります。

そして最後の小節で、AメロのCマイナースケールに調を戻す訳ですが、まずD-7 / GからGadd9へとピカルディの3度的に動き、一瞬Gメジャースケールに転調したような明るさが出ます。9thが付加されている辺りも色味があって美しいですね。そして3〜4拍目にかけてのキメのフレーズから<A>のCmへと連結しています。

譜面では最後のフレーズ上にF→Gとコード表記してありますが、実際にはベースとギターによる単音のユニゾンフレーズなので、便宜的に付けたコードです。フレーズの背景にある和声感という感じで理解してください。特に違和感は感じないと思います。
そしてF→G→Cmのコード進行は、コードの機能的にCメロディックマイナースケール上のSD→D→Tm(F→G→Cm)という流れになる為、自然な形でCマイナースケールに戻せる訳ですね。


あとがき

乾坤の血族は、当初シンプルな曲に聴こえていたので、Xの曲群では割とコピーが楽な方だと思っていたのですが、最終的に最も時間が掛かりました。

コード進行は正統派で分かりやすいですが意外とトラック数が多く、掛け値無しにパッと聴いた感じの10倍くらい情報量が詰まっております。
また、テンポが早い割りに細かい装飾音が多くて聴き落としやすく、基本的にテンポ半分でコピーしましたが、それまでずっと16分音符だけで出来ているフレーズだと思っていた箇所が、よく聴くと32分音符の装飾音符が細かく入っていたりしてビックリしました。20年以上勘違いしていた訳です。

一旦筆を置いて後日聴き直すと、必ず採譜漏れやコピーミスが見つかり、一体いつになったら終わるのかと不安にさえなりました。とにかく想像以上に緻密なアレンジが施されています。
ただ、時間がかかった割りに自分的な出来としてはソコソコといったところなのが悔しいです。9割方は採譜出来ていると思いますが、完全に他のパートに埋もれてほぼ聴こえないような音もあり、正直合っているのか間違っているのか、何度聴いても判断できない箇所がありました。

いずれメロダイン等が進化を遂げ、曲の全トラックを完璧に分離したりできるようになったら、もう一度コピーし直してみようと思っています。
ていうか、コナミさんがレコーディング時のパラデータなり、本チャンのMIDIデータなり販売してくれないかなあ。まあ無理とは分かっていますが、こうなったらどうしても完璧な答えが知りたいんですよねえ…。


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