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【短編小説】メロン三姉弟

 しゅわしゅわと小さな泡たちが足元から喉元までせり上がってくる。

「うぇっぷ、苦しいよぉ」

 俺は苦しげにもがく。
 生まれた瞬間から俺はこの泡たちに悩まされてきた。
 悩みは尽きない。次から次へと下から喉にやって来る。苦しいことこの上ない。そんなことを思って俺はちらりと隣の姉に視線を送った。

「いいよなぁ、お姉ちゃんは。ちゃんとした帽子があってさ」

 俺が言うと、姉がちょっと得意げに笑った。
 冷たい帽子と冷たい欠片とが触れ合っているところはシャリシャリと凍りつき、適度な食感と適度な味わいをもたらしてくれるそうだ。それをお客様たちは求めて姉を注文するのだそう。暑い日は特に姉はどっか行ってくる。

「私は自分のこの丸い帽子が好きだけど、お姉ちゃんの方が柔らかくて喉越しは最高だと思うの」

 そう言って、姉はもう一人の姉を羨ましそうに見た。
 一番背が高い姉は柔らかい眼差しで俺と帽子の姉を見やった。

「そう? 私は自分が確かにとても好きだわ。できればリボンを付けたかったけれど私についているのはこれ」

 姉は赤いサクランボを俺達に見せた。缶詰入りの、ぽってりとした赤い実。持ち手が付いたサクランボを頭に乗せた姉の帽子は、そふとくりいむ、と呼ばれる柔らかくて白くて、それでいて甘〜い背高帽だった。

「いいなぁ」
「いいなぁ」

 俺達は口々に羨望の言葉を口にした。
 丸い帽子の姉は、自分だって泡が絶え間なく喉まで来るのに、帽子のおかげかそんなに苦しくはないようだ。そふとくりぃむの姉も同じく。泡の悩みが柔らかいくりぃむに吸収されて、いつも朗らかで本当に羨ましい。

「でもね、私はあなたも素敵だと思うの」

 柔らかい声で姉が俺を見て言った。どこが? 本気で分からなかったので俺は少しぶっきらぼうに答えてやった。不要な気遣いなんてされても困るからだ。
 すると姉たちは口々に言った。

「あなたのいいところは、何と言ってもスピードね。お客様が注文されてからテーブルに到着するまで、ほんの数分で済むじゃない」

「そうそう、それにお値段も安いわ。余計なものはいらないというお客様だってたくさんいらっしゃいますし、最近はアレルギーの方も増えてきてますのよ。乳製品が召し上がれない方にとっては、あなたがぴったりではないですか」

「……ふぅん」

 俺は姉たちが。姉たちは姉たちで、乳アレルギーの人に避けられていることを多少は気にしていたようで、俺のことを羨ましいと思っていたのだと知った。

 メロンソーダの俺。
 メロンクリームソーダ(バニラアイス)の姉。
 メロンクリームソーダ(ソフトクリーム)の姉その二。

 隣の芝生……隣のメロンは青く見えるのか。
 「青」というよりは、色鮮やかな「緑」なんだけれども。


 赤も白も持たない、緑だけの俺は。
 何やら深く納得し、喉元の泡を空気中に昇華させた。

 少しだけ、気が楽になった。




(おしまい)


喫茶店の飲み物シリーズ(メロンクリームソーダ)(約1,200文字)
テーマ/誰もが他人を羨むものである

最初に書いたメロンクリームソーダの短編があまりにも長すぎてボツにし、ふとこのような三姉弟を思いつきました。勢いに任せて書いたので内容はどうなのでしょ。
昔、コメダ珈琲店で働いていたことがあります。ブーツグラスに入ったメロンソーダとメロンクリームソーダは可愛らしくて大好きでした。炭酸が飲めないので眺めるだけ。鮮やかな色合いは心をウキウキさせてくれますね。


最後までお読みいただき感謝申し上げます。


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