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シフォンケーキはいかがですか?(夏休みなんて、大嫌い!)


夏休みが近づくと”もうすぐ夏休み!”とか”夏休みだ!プールに行こう!”とか”今年の夏は海水浴!”とかなんかもう待ち遠しくてしょうがない子供たちの声が聞こえてくるのが普通であるが、子供の頃の私はいつも「夏休みなんかなければいい!」と思っていた。なぜかと言うと、酪農家の子供にとって夏休みは乾草を作りのピークでその作業に駆り出される時期であるからだ。つまり、ちっとも’休み’ではないのである。逆に親たちにとっては「やっと夏休み。人手が増えるぞ!」と言うわけで、夏休みウエルカムであった。今でこそトラクターが大きな乾草ロールを作る作業から倉庫に運ぶ作業まで全部やってくれるけど、昔は機械で乾草を長方形に束ねて、それをトラックに積んで牛舎まで運び、トラックから力の強い父が牛舎の二階に一つずつ長いフォークで放り投げて、母と私たち兄妹が倉庫内に放り込まれた乾草を積み上げていくと言う、まさに肉体労働の繰り返しであった。しかも、牛舎の二階は風通しもわるく気温が高い上、乾草からでる粉塵で10分も作業をしていれば鼻の中が真っ黒になる。この作業が朝から晩まで毎日、夏休みの間中続くのである。テレビかなんかで「今年の夏は田舎のおばあちゃんのうちに行って、川で冷やしたおいしいスイカを食べました。」なんて言っている子供を見ながら、冗談でもいいから、そんなことを言ってみたいと思ったものである。朝の搾乳が終わって朝食、休む間もなく畑で乾草積みの仕事が始まり、夕方の搾乳の時間である5時ごろまで作業を繰り返す。終わる頃にはもう膝が笑うくらいヘトヘトに疲れているのだが、そこから夕方の搾乳が始まるのでその手伝いをして、夕食に家に戻るのは夜8時、時には9時近くになる日もあった。晩ご飯を食べながら、うとうとしてしまうこともあった。夕食後はお風呂に入って寝るだけ。テレビを見る余力も残っていない。こんな毎日が夏休み中毎日繰り返されるのであるから、「わーい!やっと夏休み〜!」なんて気分には一度もなったことはない。

そんな子供時代の経験から私は大人になったら普通に週末があって休暇が取れる仕事に就こうと心に決めていた。そして現在、私はアメリカの高校で日本語の教師をしているので夏休みは二ヶ月以上ある。(日本では考えられないですよね。)これはまさにあの頃の私が夢に見た状況である。しかし悲しいことに私はいまだに夏休みが嫌いである。長すぎるのである。そして’暇すぎる’のである。そんなわけで結局私は夏休みにできるだけ大学で教える仕事を入れることにしている。毎日忙しい方が充実感があり、幸せを感じるのだ。全く皮肉なものだと思うけど、私の体にはもう’夏休み=忙しい’という情報がプログラミングされていて、「わーい、休みだ休みだあ〜!自由な時間だあ〜!」と大喜びできないようになってしまっているんだと勝手に納得している。

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