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トナカイの角と、赤い帽子だけで

2024.04.08
ペギンの日記#8
「トナカイの角と、赤い帽子だけで」

昨年のクリスマスのときの話だ。

なぜ今クリスマスの話なのだと思うかもしれないが、仕方がないことである。今書きたいからだ。それにもし今年のクリスマスまでこの記事を書くモチベを保てたとして、12/25にこの記事を公開するだろうか。いや絶対しないだろう。だって今年のクリスマスは、きっと去年より楽しくなるはずだから。…楽しくなるはずだからっ!!


2023年12月25日。
私の高校は冬休みに入っており、絶賛冬期講習中であった。

早々に年末休暇で親の地元に帰省していったクラスメイトに「抜け駆けしやがって!」と悪態を吐きつつ、私たちは眠い眼をこすりながら授業を受けていた。

雪の降る寒い外を歩いてきたあとに温かい教室に入ると、先生だろうと生徒だろうと猛烈な眠気に襲われる。
冬休み出勤・80分授業・眠気の3コンボで、皆の士気は低い。

やっと1限目が終わり、20分の休み時間。
教室で友だちと駄弁っていると、男子がゴミ袋を抱えて教室に飛び込んできた。

見てみると、中には大量の被り物が入っている。
カチューシャタイプのトナカイの角と、サンタ帽が1:1くらいの割合で入っている。ざっと50個はありそうだ。

「え、すご!」
「どっから引っ張り出して来たんだよこんなもんw」
「汚くなーい?笑」

いろんな声が飛び交う。

どうやら教室のゴミ袋をお掃除部屋(掃除用具や新しいゴミ袋が保管してあったり、いっぱいになったゴミ袋を置いておいたりする部屋)に持っていってくれていたクラスメイトが、捨てられているトナカイの角とサンタ帽を見つけたようだ。

後にこれらは生徒会が学期末の大掃除で捨てたものだと分かる。

ゴミ袋の中のかぶり物はどれも状態が良く、もう頭につけている男子もいた。

「えーどうしようねこれ」
「もったいないよね」

そんな言葉が漏れると、待ってましたと言わんばかりに頭にトナカイの角をつけた男子が言った。
「2限目これつけて授業受けね?」

討論がはじまる。
次の時間誰だっけ?大丈夫田中先生だよ。えーでもさすがに授業はまずくね?でも冬期講習だよ?

クラスの出した結論は、

「みんな好きなの取ってってねー」

ゴミ袋に群がっていた者たちが、みな手を突っ込み、サンタ帽やトナカイの
角を取っていく。掘り出してみるとトナカイの角には2パターンあり、角が小さいタイプと大きいタイプがあった。

ゴミ袋周辺に一通りかぶり物が行き渡ると、調子に乗った男子たちは教室の隅で本を読んでいた女子にまで、被れ被れとゴミ袋を持っていった。最初は戸惑っていた読書少女も、ついには手を伸ばし、角が小さいタイプのトナカイの角をかぶった。

「うおぉ!」
数人の男子からどよめきが起きる。
可愛い。

いつもの雰囲気とは一線を画す可愛らしさである。

読書少女は本の上に手を置いたまま、顔を赤くしてキョロキョロとしている。

不安そうにする読書少女に、ゴミ袋を渡しに行った男子が、口元を隠しながらしどろもどろに言う。
「いやあの、めっちゃ似合ってて、その、かわいいとおも」

バッシーン!

言い終わらないうちに、読書少女のお友だちに教科書で頭を叩かれる。

「ふぇえ!?」
男子から情けない声が出た。

「ちーちゃんをいじめないの〜」
「なっつ、これ大丈夫?」
「似合ってるよ〜!」
「えーほんと!よかったー」
「クリスマスに手出すのは反則だからねー」

冗談半分で、読書少女の連れが、ゴミ袋男子を睨みつける。
男子は「さーせんした…」と縮こまっている。
読書少女はその状況を理解しているのかしていないのか、キョロキョロと不安そうに連れを見る。

その状況が本当に面白くて、爆笑が起きる。

男子は他の男子に小突かれて
「違うってw、いやお前らも同じこと思っただろ!おい!w逃げんな!」
などと叫んでいる。

その後も、やれクリスマスのBGMが足りないだの、サンタはこんな帽子で寒くないのかだの、ガヤガヤとした空気は収まらないまま2限目を迎えた。

田中先生は言った。
「あんたたち本当にそれで集中できるのね?笑」

私たちの回答は決まっていた。
「できます!」

田中先生が「よし分かった!」と言って始めた授業は、いつもの授業よりちょっとだけ、頭に残った気がした。

男子諸君、素敵なクリスマスプレゼントをありがとう。

(登場する名前は全て偽名です。)


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