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宇宙船教室号

2024.04.07
ペぎんの日記#7
「宇宙船教室号」

学校で、なんかよく分からないけど、ひっきりなしに呼び出しや指示の放送が入ることがあるじゃないですか。
それがカッコよかったっていう話です。

その日は本当に眠くて、私はいわゆる陰キャ体勢をとって机に突っ伏していた。

制服の布地が耳を塞ぎ、周りの音が少しくぐもって聞こえる。

ピーンポーンパーンポーン
「2年4組、佐藤くん、至急職員室鈴木まで。」

常よりよく聞く呼び出し放送がかかる。

休み時間だから、周りのざわめく音も聞こえる。

ゴゴゴッ

誰かが机をずらした音がする。

ゴゴゴッ…?ふと思いついてしまった。この学校が大きな宇宙船だと想像してみたら楽しいのではないか。
机に突っ伏したまま、私は妄想世界に突入する。

「次、生物だって」
「えー田中先生じゃん」

我々の作業は田中ドクターとの遺伝子操作。

「ねねね、この写真すごくない?」
「えーめっちゃきれい!」

この前通過したケプラー1649cの画像データだろうか。たしかにあの星は地球によく似ていて美しかった。

ピーンポーンパーンポーン
「1年2組は次の生物、第2化学室に移動してください。」

一部の生徒が重たい書類を抱えて移動を始めた音が聞こえる。

キュイーン、ガガガッ
ブラックボードイレイサークリーナーが唸る。

カツカツカツカツ!
ドクター田中のパンプスの音が1−2ルームの前で止まる。

「次化学室ですからねー」
ドクター田中の声に男子陣が「うっす!」と返す。

キュイーン、ドスッ、ガガッ、ピーピーピー
「おいどこだアラーム鳴ってるの!」
ガタン!
「もう狭いんだから」
「さーせん!」

ピーンポーンパーンポーン

「えーまじ!?え、ナイスすぎる」
「ちょっとそこウルサイ!大事な連絡かもしんないでしょ」

ピーンポーンパーンポーン

「ほらぁ聞き逃した」
「隣の教室に何言ってたか聞いてきて」
「えーわたしー?」

ガラッ
「おーい高橋ぃ呼ばれてんぞ」
「え、俺?誰?」
「伊藤」
「終わったー…」
「いってらっしゃーい」

ピコンッ!
「ちょお前、はよ仕舞えwバレるって」
「あーあいいんだこんなの持ち込んで」

「やっべ資料なくした!」
「え嘘、それ今日まで?」

ピーンポーンパーンポーン
「至急お願いします。田中先生、至急職員室へ。繰り返します。田中先生、至急職員室へお戻りください。」
「続けて連絡します。パソコン部の鈴木、斎藤、至急山田まで。」
「続けて呼び出します。エイケンを受けた生徒、通知が届いています。職員室まで取りに来てください。」

普段聞いている言葉たちが、すごくかっこよく聞こえてくる。

放送に合わせて動く人の音が聞こえる。

職員室のマイクから流れる音声は、中央司令室から出される業務司令のようだ。

頭の中が、音で満ちていく。

心地よい。

大勢の人たちの中で自分も、みんなと同じ目的を達成するための歯車になれた気がする。

環境音、放送の音に、ピピッ、カタカタ、ヴーンといった電子が脳内再生で乗っかる。

私の外はますます活気づいて動く宇宙船の内部になった。

そのまま数分、机に突っ伏したまま想像を続ける。

ふと我に返る。

やっべ。

半分寝ていてボワボワしている頭と、重い教科書を抱え、私は教室を飛び出した。

3限目がはじまる。

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