見出し画像

私の自己紹介④~コミュニティー・スペースでのマガジンづくりプロジェクトに見る「いま」時点~

昨年度、現在勤務している法人のコミュニティー・スペースにて、こどもたちと地域の方々とが協働してローカルマガジンを制作し販売するというプロジェクトを行いました。この経験が私自身が目指していきたいビジョンに繋がっているため、今回のブログで紹介させていただきたいと思います。

新たなアイディアが生まれ続けたスタッフミーティング

プロジェクトを行うにあたり昨年1月ごろから準備を進めました。お世話になっている方からの紹介で出会うことができた方々や実践をもとに、どうやってこの地域で、このコミュニティー・スペースでプロジェクトを実現させていくかを考える日々。その過程では様々な紆余曲折がありましたが、やがて地域のデザイナーさんやフォトスタジオの代表の方、地域活動をされている方など(コアスタッフと呼んでいます)と繋がることができ、プロジェクトチームが発足しました。

まだこどもたちの活動が始まっていない時期に開催されたコアスタッフ同士のミーティング。ある程度私の思いや大まかな活動計画を共有させていただきましたが、そこに囚われず新たなアイディアが生まれ協働が展開していくような対話を大切にしました。このミーティングの中で、フォトスタジオ代表の方から「うちのスタジオに、動画の撮影や編集をしているスタッフがいるから繋げようか?」というありがたいアイディアが。これがきっかけとなり、クリエイターさんとのコラボレーションによる「プロジェクトのPR動画を制作する」という活動が展開していきました。

↑8月末に行なわれたクリエイターさんとこどもたちとのCM制作の一場面。クリエイターさんのアイディアで「CM動画の最後の場面をこどもたちに考えてもらう」という活動が展開。「マガジンのタイトルの横断幕をつくる」「最後は円陣を組んで『頑張るぞ〜!お〜!』で終わる」というこどもたちのアイディアが反映されたPR動画が出来上がりました。

さらに、プロジェクトの名称やロゴ、マガジンの付録として缶バッジを作るというアイディアなどもスタッフミーティングの中で誕生。まだ実現されていないものを創造するプロセスで生まれる対話・協働の大切さを感じることができました。

「マガジンづくり」を越えてこどもたちが生み出した活動

こうしたクリエイティブな雰囲気は、こどもたちの活動の中にも見られました。2019年7月から12月の毎週木曜日の17時〜18時(長期休み期間は1日活動日程もあった)に行われたプロジェクト。参加したこどもたち(小学2年生〜中学1年生14名)が生み出したものは、「マガジン」だけではありませんでした。

○マガジン点訳プロジェクト
プロジェクトが始まって間もない頃、こどもたちと「どんな人にマガジンを届けたいか」ということを話し合いました。「同じ年代のこどもたちに届けたい!」「こどもだけじゃなく家族向けが良いんじゃない?」などの意見が出る中、「マガジンを点訳して、目が見えない人たちに届けたい」と語ったのは、当時小学4年生だった男の子。夏休み期間を使った講座(コアスタッフから記事の書き方や写真の撮り方等のレクチャを受けました)や取材を終えた9月になっても、彼は温かく真っ直ぐな思いを絶やすことはありませんでした。そこで、点字を教えていただける方と繋がるべくお世話になっている社会福祉協議会の方に相談。長年点訳のお仕事に携わり、小中学校で行われる福祉の授業でも講師経験がある地域の方と出会うことができました。

こうして展開したマガジン点訳プロジェクト。当初はマンツーマンでのレクチャーが主でしたが、少しずつ周りのこどもたちも点字に興味を示し、緩やかに点訳にコミットしていきました。専用のシートに手打ちで点字を打つ大変を痛感しながらも、「オレが決めたことだから最後までやるんだ!」とひたむきに点訳を続けた4年生の男の子。時間の関係で部分訳という形になりましたが、完成した点訳版のマガジンを近隣の特別支援学校へと届けることができ、「目が見えない人たちに読んでもらう」という思いを実現させることができました。

↑点訳されたマガジンの表紙。彼の努力と地域の方々とのコラボレーションの証です。

○販売のための方法を考える〜飾りづくりとCM動画制作〜
2019年12月にマガジンが完成した後は、直接販売とホームページからの注文による郵送販売という2経路で販売を行いました。直接販売ではこどもたちが街頭に立ってチラシ配りや客寄せを行い、時に「450円!?そんな値段じゃ買わないわよ!」と道ゆく人に厳しいご意見をいただいて悩みながらも、たくさんの方にご購入いただくことができました。

直接販売はコミュニティー・スペースを会場にして実施。「どうやったらたくさんの方に買っていただけるか」ということをこどもたちと話し合う中で、最年長である当時中学1年生の女の子が「風船と毛糸を使ったランプシェードなんてどうかな?私、作り方知ってるから教えようか?」と提案してくれました。こうして、彼女を中心に飾り付けチームが発足。ランプシェードや暖簾など、コミュニティー・スペースを彩る装飾品が出来上がりました。

一方でホームページでの郵送販売は、販売開始当初からしばらく申し込みがゼロという状況が続きました。そこでこどもたちに「どうしよう…郵送販売が未だにゼロなんだけど、何か良い方法あるかなぁ?」と相談。すると、当時小学4年生だった女の子が、まるで「何言ってるの!そんなの簡単じゃん!」と言わんばかりの表情で「『買ってください!』っていう動画を作ってYouTubeにアップしたら良いんだよ!」というアイディアを出してくれました。彼女の発言を聴くや否や、私が何も言わずともこどもたちが自主的に集まり、役割分担やセリフ、撮影方法を考えiPadを使ったCM撮影が展開していきました。

そんなCM撮影の様子を傍で眺めていた3年生の女の子。何かを閃いた表情で紙に何かを書き始め、「セリフを考えたんだけど…」と言って渡してくれました。この子のアイディアも含めながら、5年生の女の子がホワイトボードに〝カンペ〟を書いていきます。

こどもたちの協働によって出来上がったセリフは、まるでYouTuberのように身振り手振りを工夫した主役のこどもたち(CM作成を提案した4年生の女の子と、2人の3年生の女の子たちの3名)によって読み上げられました。CM作成の提案から制作・完成まで、わずか30分あまり。こどもたちがもつ力に驚き、そして感動しました。

CM動画づくりの動きは男の子たちにも広がっていきます。当時小学5年生と6年生だった男の子たちはiMovieというアプリを使い、取材で撮影した写真を使ってCM動画を制作。私はアプリの使い方をほとんど教えませんでした(私自身も疎いため)が、自分たちで研究しながら「100回再生を目指す!」という目標を掲げ、競い合うようにして次々とCM動画を生み出していきました。

このように、「マガジンを作る」という枠組みを越えて、こどもたちは豊かに活動を展開させていき、その中で様々な成長が見られました。

「台形型のライフサイクル」「銀行型教育」への挑戦としての活動レポートづくり

ここで「成長」と述べましたが、未知や不確かさに満ちており、固定的・普遍的な指標や基準があるわけでもないプロジェクトの中で生まれる「成長」とはどのようなものなのでしょうか。

あくまで今回のプロジェクトを経た時点での私なりの捉え方は、次のようなものです。

・未知や不確かさに満ちたプロジェクトにおいては、こどもの姿を指標や基準に当て嵌めるような発達観・学習観は相応しくない。

・その中で生まれる「成長」とは、基準や尺度に照らし合わせて何等かの営みができるようになる/ならないことではなく、多様な要素が複雑に絡み合う「いま、ここ」から「次、そこ」へと移行させるという、よりミクロでローカルレベルな営みである

「いま、ここ」から「次、そこ」へ移行するような成長はこども1人ひとりによって異なり、さらには文脈や捉える人によっても変わってきます。したがって、固定的・普遍的な尺度を指向する「台形型のライフサイクル」「銀行型教育」的な観点から捉えれば不明瞭で取るに足らないものと見做されがちです(https://note.com/pegasus19/n/n3007274acc6a参照)。「遊んでいるだけではないか」「何もしていないのではないか」「こんなことをして意味があるのか」「こどもたちはスキルが少ないから、教え込む必要があるのではないか」「文章力、計算力、○○力を身につけさせなければいけない」…そんな批判や指摘を明に暗に感じる場面も少なからずありました。

しかし一方では、「台形型のライフサイクル」や「銀行型教育」の観点からは捉えきれないような、不確かさに満ちたプロセスの中で生まれる展開や生まれていくもの、そしてそれを生み出すミクロでローカルレベルでの人間の力―「いま、ここ」から「次、そこ」へと自身を移行させると同時に未知のものを生み出し展開させ続ける―があるということも事実。したがって、それらを捉え、発信するという視点も必要なのではないかと考えています。

このような考えのもと、私は毎回の活動ごとにレポートを作成し、こどもたちや保護者に配付しました。さらにはFacebookにもPDFファイルにしてアップ。これは単なる活動記録・報告という意味合いを越えて、私なりの「台形型のライフサイクル」「銀行型教育」への挑戦でもありました。

十把一絡げではないこどもたちの営みを捉えることは容易ではありません。文章だけでなく、成長や動きが見られた場面の写真やこどもたちが制作した作品なども載せると、A4用紙約6枚分という長いレポートになってしまうことも日常茶飯事(伝え方に関しては、もう少しアプローチを広げていきたいと反省しています)。しかしレポートを通して保護者の方にもプロジェクトの動きについて知っていただくことができ、それがきっかけで新たな展開も生まれていきました。

具体的には、「点訳プロジェクト」について知っていただいたことで「うちの息子がこのようなことを考えていたなんて…!」と保護者の方が喜んでくださったり、「私の職場に目が見えない方がいらっしゃるから、点訳版のマガジンができたら届けましょうか?」と提案していただけたりする場面がありました。先に書いた特別支援学校とのコラボレーションも、Facebookでのレポート発信がきっかけです。

もちろん社会レベルの急激な価値転換を一朝一夕に行うことは非常に困難です。しかし、プロジェクトの軌跡を綴り発信することにより、未知のものを協働で生み出す中で生まれる協働的・共創造的な学びや育ちに着目する視点が生まれていったり、プロジェクトへの理解者・参与者・協力者の輪が広がっていったりするという希望を感じることができました。今後ブログにまとめようと思いますが、このような活動レポートを作成しようとしたきっかけや、そこに込める思いは、レッジョ・エミリアにおける「ドキュメンテーション」の理念が大きく影響しています。

まとめ

このように様々な展開が生まれたプロジェクトですが、今年度は新型コロナウィルスの影響で開催できない状況に見舞われています。加えて、いかに未知や不確かさが大切にされた場やプロジェクト的な活動の市民権を得るか、どのようにサステナビリティと共存するかということが私の中で大きな課題であり、もっとしっかり実践と研究を重ねていく必要性を感じています(ネガティブな意味ではなく、ポジティブな意味で)。

今回のプロジェクトはまだまだ1回きりなので「成果」と言って良いのかわかりませんが、それでもこの1年間の中で生まれたものや見えてきた世界、そして抱いた「これから」のビジョンは私の中で大きな活力・原動力となっています。次回のブログでは、そんな「これから」について綴っていきたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?