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【古可愛言葉vol.2】たとえば「おきゃん」とか

可愛さのニュアンスを含んだ、ちょっと古めの言葉が好きだ。たとえば「おきゃん」とか。

「おきゃん」は漢字で書くと「お侠」。任侠の「侠」だ。「侠気」と書いて「おとこぎ」と読ませるくらいだから、「きゃん(侠)」はもともと主に「男性の様」を表す言葉だったという。いつからか「お」をつけて女性に対しても使うようになり、その後「きゃん」はあまり使われなくなり「おきゃん」だけが残った。「きゃん」が使われなくなった理由は調べても分からなかったのだが、想像するに「おきゃん」が広く使われるようになって、女性の様を指す言葉として社会的に再定義されたので、逆に男性の「きゃん」が廃れたのではないだろうか。

「おきゃん」は三省堂の大辞林によれば

若い女性が活発で,やや軽はずみな・こと(さま)。そのような娘をもいう。

とのこと。類語として最もわかりやすい言葉は「おてんば(お転婆)」だろう。しかし「お転婆」がその字面の通り、転がったり飛び跳ねたりする元気なイメージなのに対して、「おきゃん」はもっと直線的なイメージだ。真っ直ぐ、一直線。その先に障害物があればぶつかって弾き飛ばしてしまうようなイメージ。単に元気というよりも精神的な強さとか思い詰めた感じのニュアンスを感じる。生まれつきの気質よりも獲得した意志というか、一途さ、みたいなものか。私が「おきゃん」を可愛いと感じるのは、その「一途さ」のニュアンスの部分だろう。

カバーする年齢層も「おてんば」が「おてんば娘」という使い方をされるように、主に十代、ぎりぎり二十歳くらいまでをカバーするのに対して、「おきゃん」はもうちょっと上の年齢をカバーするように思える。十代後半から二十代後半、三十歳くらいまで含められそうだ。旅館や料亭などの「おきゃん」な「若女将」のイメージ(最近話題の「若おかみ」は小学生らしいが)。

「おきゃん」なキャラって誰だろうと考えたら考察する間もなくすぐに思いついた。

『エヴァンゲリオン』のミサトさん。彼女は「おきゃん」である。平仮名よりも漢字で「お侠」と書く方が相応しい。一直線で途中に障害物があれば、ぶつかって弾き飛ばそうとする。まさにミサトさん(の立案する作戦)だ。TV版オンエア時の設定で二十九歳。年齢的にも私の考えるゾーンにはまる。
対して十四歳のアスカは「おてんば」だ。ストーリーが進むにつれて彼女のキャラは複雑化し「おきゃん」とも言える面も見えてくるけれど、表面的には典型的な「おてんば娘」キャラだ。

「おきゃん」なキャラとしてもうひとり思い浮かぶ人がいる。女優の坂口良子さんだ。1970年代に放送されたTVドラマ『前略おふくろ様』で演じた「かすみちゃん」は彼女自身が持つ「おきゃん」な雰囲気がそのまま重なるキャラだった。
鳶の頭領の娘で深川の料亭「分田上」の仲居として働く彼女は、「分田上」の板前サブ(演じるのはショーケンこと萩原健一さん)に一途に想いをよせる。その一途さは時に強引で、時にいじらしくて可愛い。不器用なサブはいつもその一途さにたじたじだ。「おきゃん」に含まれる「一途さ」が女優さん本人とこれほど重なった可愛らしいキャラはなかなかない。「坂口良子 おきゃん」で検索すると同じような感想を持つ人がいるのがわかる。

「おきゃん」はこれからも使われ続けるだろうか。一ヶ月以内の期間指定で「おきゃん」を検索してみると某YouTuber(とその投稿)以外はあまりヒットしない。「おきゃん(死語)」と書いている記事もある。正直、日常で聞いたり読んだり、話したり書いたりすることは皆無だ。ではそのニュアンスは別の言葉で表現されているのだろうか。

ちょっと考えて思い浮かんだのは「男前な女性」という言い方だ。なかなかいい表現だと思う。「イケメン女子」という言い方もあるけれど、こちらはビジュアル的にジェンダーレス(短髪でボーイッシュとか)方向にやや引っ張られる。「男前な女性」が男性の様を女性に重ねているのに対して「イケメン女子」は同じ濃度で混ぜ合わせている感じ。

ミサトさんは確かに「男前な女性」だ。でもミサトさんの一途さは可愛い(加持くんへの想いも、使徒への憎しみすら)。その可愛さを含めて「おきゃん」なら彼女のキャラを表現できる。やはり「おきゃん」も生き残ってほしい言葉だ。

『前略おふくろ様』のかすみちゃん(坂口良子)とサブ(萩原健一)。二人とも若い!

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