【2023年11月17日まで全文無料】ペリオスチンを阻害すると、かゆみは改善するか?|2023年10月1日
■ ブログで公開した内容の深掘りです。
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アトピー性皮膚炎のかゆみを改善させる物質はあるのか?
■ アトピー性皮膚炎は、かゆみにより大きく生活の質をさげる疾患です。
■ 2019年に、小児における難治性のかゆみに関するレビューを専門誌に書いたことがあります。
■ しかし、『これがすごくよく効く』というような方法が、十分提示できなかった覚えがあります。
▷堀向 健太. 【"わけのわからない痒み"管理マニュアル】小児における難治性そう痒の原因と対策. Derma. 2019:47-51.
■ アトピー性皮膚炎のかゆみのターゲットは、さまざまなに検討されてきました。
▷Yang H, Chen W, Zhu R, Wang J, Meng J. Critical Players and Therapeutic Targets in Chronic Itch. Int J Mol Sci 2022; 23.
■ そのうちのひとつがペリオスチンで、いままではどちらかというとアトピー性皮膚炎の慢性化に焦点があつまっていた物質です。
▷Izuhara K, Nunomura S, Nanri Y, Ogawa M, Ono J, Mitamura Y, et al. Periostin in inflammation and allergy. Cell Mol Life Sci 2017; 74:4293-303.
▷Mitamura Y, Nunomura S, Nanri Y, Ogawa M, Yoshihara T, Masuoka M, et al. The IL-13/periostin/IL-24 pathway causes epidermal barrier dysfunction in allergic skin inflammation. Allergy 2018; 73:1881-91.
■ それが、アトピー性皮膚炎のモデルマウス(科学研究や医学研究において重要な役割を果たす実験用のマウス)が開発され、ペリオスチンが痒みを悪化させることがわかり、それを阻害する物質が見つかってきました。
■ その元になった研究を共有します。
※この研究を主導されている出原先生が、10月5日にYouTubeライブをされるそうです。
※提示した研究やクラウドファンディングに関し、私はこの研究に参加しておらず、私自身に利益相反はありません。
※クラファン終了(2023年11月17日)まで、この記事は全文無料にさせていただきます。
この論文でわかったことをざっくりまとめると?
最近確立されたアトピー性皮膚炎のモデルマウス、FADSマウスに対する検討を詳細におこなったところ、
✅ ペリオスチンがNF-κBを介して2型炎症を起こすことでアトピー性皮膚炎のかゆみを促進することが示唆された。
✅ ペリオスチンを阻害することで、FADSマウスのかゆみが改善することが示唆された。
論文から引用。グラフィカルアブストラクト。
以下は、論文の解説と管理人の感想です。
■ アトピー性皮膚炎(AD)は、繰り返しのかゆみを伴う慢性の再発性皮膚疾患である。
■ アレルギー性皮膚炎においては、2型炎症が支配的であるが、非2型炎症がどのように2型炎症と共存するのか、また、2型炎症がどのようにかゆみを引き起こすのかは、完全には解明されていない。
■ 最近確立されたADのモデルマウスであるFADSマウスは、2型炎症の下流分子であるペリオスチンの遺伝子破壊または薬理学的阻害により、ケラチノサイトのNF-κB活性化が抑制される。
■ これにより、湿疹、表皮過形成、好中球浸潤が抑制されるが、2型炎症の亢進は抑制されないかった。
■ さらに、ペリオスチンを阻害すると後角ニューロンの自発発火が阻害され、かゆみによるひっかき行動が減少した。
■ 以上から、ペリオスチンは、NF-κBを介して炎症と2型炎症を関連付けると考えられたことから、アレルギー性皮膚炎におけるかゆみが促進されることが示唆され、ペリオスチンはADの有望な治療標的であることが示唆された。
最近登場したアトピー性皮膚炎の新薬は、日本発の製品が少なくない。しかし日本における公的な科学研究費が減少していく背景もあり、今後はどのようになっていくのかは不透明です。
■ 最近、アトピー性皮膚炎に対する治療選択肢は大きく増えてきました。
■ そして、アトピー性皮膚炎のかゆみを特にターゲットにし、実用化されたのがネモリズマブ(商品名ミチーガ)で、これは日本で開発されました。
■ 急速にアトピー性皮膚炎の治療が改善されるなか、あらためてみると、『日本で開発された薬剤』がすくなくないことがわかります。
デルゴシニチブ(商品名コレクチム)軟膏。
ジファミラスト(商品名モイゼルト)軟膏。
タクロリムス(商品名プロトピック)軟膏。
そして抗IL-31抗体ネモリズマブ(商品名ミチーガ)。
■ そして、この『アトピー性皮膚炎のかゆみを改善させる』というインテグリンを阻害する薬剤が、開発が端緒についたところといえます。
■ なお、2023年10月5日に研究を主導されている出原先生らが、クラファンサイトでYouTubeライブをされるそうです。
■ 先日、三重病院からの食物アレルギーの経皮免疫療法における研究に対し、クラファンがおこなわれました。
■ そして、アトピー性皮膚炎治療に関するこの研究に関しても、クラファンが行われています。
■ 個人的には、このような重要な、多くの患者さんに届けるべき研究には国からの公的な研究費でまかなわれるべきと考えています。
■ しかし、研究の素地は十分にあるものの、医学・科学研究に関する日本の環境は悪化の一途です。
■ 毎年度1%ずつ研究費が削減される方針が採られ、国立大学法人等の施設整備費補助金についても毎年度当初予算が減少しています。
■ わたしも今年、英語原著論文3本、公式学会の和文レビュー2本が採択されましたが…英文校正や投稿料などはすべて自費でまかなっています。
■ こんな状況下では『研究力が下がっていく』のは当たりまえでしょうし、日本発の薬剤も作ることは難しくなっていくかもしれません。
■ 2018年に、中国の学術論文数はアメリカを抜いて世界で初めて論文数で首位になりました。2019年には、国際論文総数の約18.6%を占めています。
■ 一方で、日本の科学論文数は、世界で5位を維持しているものの、注目度の高い論文の数に関しては、日本は世界13位に後退しました。
■ そもそも、中国の科学研究開発費は、2020年には2兆4,393億元(約41兆4,681億円)に達し、世界2位の規模となっています。科学技術力に差が出てきて当然でしょう。
■ 国からの研究費が減っていく中、本当は注目されるべき研究がクラウドファンディングの助けが必要な状況におちいっていっているのは悔しいことですが、人口が減っていく日本で、次の世代になにかを残していくこともまた、重要な視点と思います。
元文献
ペリオスチンは、2型炎症経路の下流で、炎症とかゆみの異なるモジュールを活性化する。
Nunomura S, Uta D, Kitajima I, Nanri Y, Matsuda K, Ejiri N, et al. Periostin activates distinct modules of inflammation and itching downstream of the type 2 inflammation pathway. Cell Rep 2023; 42:111933.
noteでは、ブログでは書いていない「まとめ記事」が中心でしたが、最近は出典に基づかない気晴らしの文も書き散らかしています(^^; この記事よかった! ちょっとサポートしてやろう! という反応があると小躍りします😊