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映画「ヒトラーの忘れもの」: 戦後のドイツ少年兵 (2016年)

監督: マーチン・サントフリート デンマーク・ドイツ

2020.10月末でAmazonプライム無料が終了とのことなので、以前観た作品を紹介する。
(他のストリーミング・サービスにもあり)
概略程度のネタバレあり。

(写真はすべてデンマークの海岸)

原題は「Land of mine
「わたしの 国」
地雷 の埋められた場所」
2つの意味をかけている。
日本語にできないタイトル。

1945年5月、第二次大戦がやっと終結し5年にわたるドイツ占領から解放されたデンマーク。

ドイツ兵に対する憎しみは強い。

ドイツ軍の少年兵たちがデンマーク軍から命令された任務は地雷の撤去。
ドイツ軍は連合軍の上陸を阻止するため、デンマークの海岸中に無数の地雷を埋めた。
それを一つ一つ、手で処理し撤去していく。

少年兵たちはまずは模型で信管を抜く練習をする。
次は本物での訓練。
失敗すれば爆死か重傷。

この少年兵たちを「かわいそう」と思うのは簡単だ。
この映画では戦闘シーンは出てこないし、ドイツ軍がデンマークで何をしたかも語られない。
少年兵たちはドイツ軍であり、少年だから何もしなかったわけではないだろう。
好んで志願した者もいたろうし、徴兵されて嫌々ながらに戦った者もいたろう。
しかし、占領された側、被害を受けた側からすればみんなまとめてドイツ兵だ。
誰かを殺されたり傷つけられたり、自分が傷ついたりした人たちがどれほど憎もうと、それを責められるだろうか。
このような捕虜の扱いを肯定しているわけではない。
敵兵であってもこれは間違っている。
でも誰がこの地雷を撤去すればいいのだろう。

映画や本で描かれる戦争では、ひどいめに遭わされている方に気持ちが寄っていくものだけど、一歩引いて、そこに至った経緯や背景、どういう状況なのかをよく考えながら観ることも必要だ。
日本が受けた被害や一部の美談を取り上げたものに触れて、戦争はいけないとかいい人もいたなどと感動しているだけではなく、日本が与えた被害に苦しむ人たちが観たらどんな気持ちがするか、その作品を日本人と同じように感じるかどうか考えないといけないと思う。

そして、子どもを戦場に送らなければならないような状況で、戦争を続けること自体が狂気だ。

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作品はフィクションだが、敗戦後200万のドイツ兵がデンマークの地雷撤去にあたり、その多くが少年兵であったことは史実。

少年兵12名がある海岸に送られてくる。
中学生から高校生くらいだろうか。
ほんの子どもだ。
そこには4万5千個の地雷が埋まっている。
砂に埋められたもの、浅瀬に刺されたもの、いくつもの種類がある。
すべて撤去するまで彼らは帰れない。
1人が1時間に6個除去すれば3ヶ月。

食糧も満足にない。
それは彼らだけではない。
戦争が終わったからと言ってすぐに豊かな食糧があった場所などほとんどないのだから。

映画はともかく、実際にこんな子どもたちを使う側もどんな気持ちだっただろう。
やはり憎いものなのだろうか。
戦時や戦後の兵士たちの捕虜や女性、子どもの扱いを思うと、人間はどんなこともするものなのだと思う。

地雷探知機もない時代。
地雷は一番効果があるように地中20〜30㎝に埋まっている。
砂浜に腹這いになり、自分の進む体の幅を棒で刺しながら地雷がないか確認して進んでいく。
見つけたら手で砂を掘り、地雷から信管を抜く。
地図に書き入れ、数を記録する。
こうして走り回っても安全な砂浜に戻っていく、のだが・・・。
彼らは帰国できるだろうか。

この作品の悲しさと救いは、地雷撤去をするのが少年兵たちだということにある。
大人の兵士たちだったらこうは描けない。
ホッとできる場面もある
指揮官はデンマークの軍曹1人。
彼の逡巡や少年兵との関係が、甘ったるくなることなくうまく表現されている。

つらいけれど繊細な良作だった。

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常々思うこと。
国民国家ができる前から様々な理由で人間は戦争をしてきた。
でも、生まれた場所や国籍で人を区別するようになってから、そんなことだけが理由で、同じところで暮らしながら差別したり、為政者が始める戦争に巻き込まれたり、個人同士が勝手に敵にされたり味方にされたりするようになった。
国籍なんて人を判断するなんの材料にもならないのに。
20世紀からの戦争や紛争は、国民国家と敵国の全滅を厭わない戦争の仕方によって膨大な数の人間を殺してきた。
国はその地域に住む人が社会を形成し相互に支え合うためにあるものだ。
人が命をかけるものじゃない。
人の命のために国ができることをする。
「自分たちが国のために何ができるか」
ケネディのこの言葉がわたしは大嫌いだ。

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