カマキリ女とスマートメガネ


弁護士の山本と久しぶりに会ったのは
高校の同窓会での事。
商社マンの田中と電気メーカーの山口と、ようやく就職が決まった関を弄りながら酒の肴にしながら盛り上がってると、ふと結婚することを打ち明けた山本。

今まで、モテそうな出で立ちの割りに、女の話を聞かなかった彼から聞いた話に、それまでさんざんに関を弄りながら飲んでいた一同が一斉に耳を傾け話を聞き始めた。

相手は5歳下の看護師。
派手めな女子が好きそうだったから、
意外だった。

前の彼女と8年付き合って別れたため、次は結婚しようと、はじめから決めていたらしい。
この話は、そんな長く付き合った彼女と別れ、
看護師と付き合う前に起こった奇妙な物語。

長く付き合った彼女と別れたのは
とてもたわいもない話。
いや、もしかするとそもそも結婚できるような相性ではなく、お互いにそれを見て見ぬ振りをしてズルズルときたのかも。別れ口はほんとさっぱりしたもんだった。
お互いに気づいてたからだ。

8年も付き合うと、休日の1人での過ごし方を忘れる。何をしてもよいのだが、何をして良いかわからず、けっきょく無駄に仕事をしてしまう。

そんな週末の昼下がりにオフィスでグダクダしていると、ケータイがけたたましく響き渡る。

『 木下陽子 』

よく知る弁護士事務所のやり手弁護士だ。彼女とは何度かパーティで会ったことはあるが、法廷で一緒になったことは無い。
嫌な予感がした。

「山本さん?」
「今お電話大丈夫?」

「あ、うん。」
「事務所にいるけど、そろそろ帰ろうかなと、思ってたところだよ。」
「どうした?久しぶりじゃん。」

「そうね。」
「ご無沙汰してたわね。最近忙しくて、パーティとかなかなか参加出来なくて。」

「俺もしばらく行ってないかな〜」
「って、そんな話で電話したわけじゃ無いだろ?どうせなんか調べゴトだろ?何が知りたいの?」

「話が早くて助かるわ。」
「簡潔に言うと、あなたを訴えたいという人に、弁護を私が依頼されたの。」
「たしか、今事務所よね?」
「そっちにこれから行っても良いかしら?」


(は??俺が訴えられた?)

「穏やかじゃ無いね。」
「依頼人の名前だけでも、とりあえずは聞いておきたいね。」

「竹之内玲よ。」

タケノウチレイ?
頭が真っ白になった。。


「…というわけで、竹之内さんがあなたに精神的苦痛を受けたため、慰謝料3000万を請求しているわ。一応確認するけど、誰か弁護人を代理でたてますか?」

「知ってると思うけど、俺も13年この仕事やってるから。」

「そうよね。」
「でも、こんな形であなたと対峙することになるとはね。」

「なんかの縁かな?」

「冗談でしょ?」
「内縁で訴えられるようなあなたに、私が好意を抱くと?」

「法廷で惚れるかもよ?」

「あなたらしいわね。」
「それでは、次は法廷で会いましょう。竹之内さんからはあなたの最低ぶりは色々と聞いてるし、多分あなたこの案件負けるわよ?」
「言ってなかったけど、私、玲の幼馴染なの。彼氏の最低ぶりを長年聞いてて、別れるようアドバイスしたのも私。もちろん訴えるようアドバイスしたのもね。」
「それでは、また。」

『木下陽子』
数々の難解な訴訟を勝訴してきた
敏腕弁護士。その見た目のエレガントさからは想像もつかないねっとりとした仕事ぶりで男性社会の法曹界で次々と男を破る姿が業界の一部の人間からカマキリ女と呼ばれ、敬遠されていた。
確かに、相手にしたくないタイプの弁護士だが、まさか自分の弁護で彼女と対峙するとは…
しかも玲の幼馴染?

メガネを外し、呆然と天を仰いだものの、
一旦頭を整理するために、事務所を出て熱いコーヒーを飲みに喫茶店に向かうことにした。


つづく





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