スペイン巡礼で見えるもの〜その2
「歩く」ということについて、深く考える時間を最近持つようになりました。
多くの人々がこのサンティアゴ巡礼路を歩いていますが、大半は普通の方々。年齢層もさまざま。個人的には女性の方が多いような気もします。年齢的にはシニア世代の方々が中心ではないでしょうか。
ふだん散歩する方にしてみても、せいぜい1時間未満でしょうし7〜8時間歩き続けるという機会は山歩きでもしない限りないはず。山歩きといっても山小屋泊まりで4〜5日というのもまあ登山マニアの方くらいしかしないと思います。
サンティアゴ巡礼路(フランス人の道)は800キロ程度の距離を歩きます。フランスのサンジャンピエドポーからスペインのサンティアゴデコンポステーラまで道は続いています。
仮に1日20キロ平均で歩いたとしても40日。休みなく歩き続けるのは無理なので1週間に1日オフの日を入れたとしても休養日は5日は必要です。となると1ヶ月半。
健脚の方なら1日30キロを歩くことは可能です。平坦な道なら多少時間をかけて40キロも無理ではないと思います。
初日からピレネー山脈(1400メートルの峠)を越えます。メセタ(台地)に出るまでは毎日大小の丘を越え谷を渡らなければなりません。
メセタが終わるとまたアップダウン。
加えて、ただ普通に歩くのではなく、重い荷物(バックパック)を背負って歩くというのもまた普通の散歩とは違うところ。
昨年、ビワ1(琵琶湖一周)ウォークをやりましたが、テントやらキャンプ用品をすべて入れたバックパックは15キロ程度の重さ。バギーに30〜40キロを積んで押して走った方がやはり楽でした。思い荷物を背負って歩くと足にマメができます。
足腰に負担もかかります。歩き方が悪いと関節や筋肉にダメージも出ます。
歩くというのは普通に歩ける人なら誰にでもできることなのでしょうが、荷物を背負って長時間、長期間に渡って歩くというのがサンティアゴ巡礼路。四国のお遍路も同じ。
持参する荷物も考えないと、余分なものを持っていってしまうとそれ自体が足枷にもなりかねません。
シニアの方は、次のアルベルゲ(巡礼宿)へ荷物を搬送するサービスを利用されたりもしますが、若い方はやはり自分で背負って歩かれます。
肩のベルトが擦れて水脹れになったり、荷物の重さで膝を痛めたりされる方も少なくはありません。
一度に歩き切れず、分割してサンティアゴ巡礼路を歩くという方もおられました。
歩くということがどれだけ奥の深い行為であるか、日々歩く中で自分と向き合い、内なる自分自身と会話する時間を持つ。これもまた大切なことなのでしょう。
また、同じ歩く巡礼者たちとの交流も欠かせません。
同じ痛みを経験しているでしょうし、同じ歓びもまたシェアできるのかもしれません。
「ブェンカミーノ(良き巡礼の旅を)!」の合言葉を交わす度に、一期一会の出逢いの大切さもまた知る訳です。
一歩一歩の歩みがやがて途方も無い距離につながっていく。
私はアドヴェンチャー・ランナーゆえに、走ることが主体となるのですが、同じ人力での移動という観点から見るならば、大した差はありません。
大陸を移動して横断するのも、サンティアゴ巡礼路を歩く延長線上にあるということです。
お遍路やサンティアゴ巡礼路をなぜリピーターとして歩くのでしょうか?
一度だけでは物足りない。一度目で気づかなかったことやわからなかったことが二度目三度目でわかる・気づくから…?
もう二度とやりたく無いと思ったことも、もう一度やってみると案外楽しかったり面白かったりするもの。ウルトラマラソンを経験したランナーにはよくわかるはずです。
一度経験した痛みや苦しみはやがて快感に変わります。快感なのか何なのか実際はよくわかりませんが…(笑)。
残り300キロを切って思ったのは、あまり早く終わらせてしまってはもったいない。サンティアゴ巡礼路ロスになりかねない。いや、きっと終わってしまったらあまりの呆気なさにとてつも無い喪失感を感じてしまうだろうと今は思います。
次回、もし私がサンティアゴ巡礼路に来るとしたら、間違いなくバギーではなく、バックパックを背負って歩きたいと思います。五大陸4万キロを終えてからの話になるでしょうが…。
アドヴェンチャー・ランナー高繁勝彦のメルマガ「!(第635号)」から転載
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