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東日本大震災から10年。災害時のこころのケアについて、ピースマインドの公認心理師が解説します。

こんにちは。
ピースマインド・広報PR室の末木です。

東日本大震災から10年という節目をむかえ、ここしばらくテレビやネットニュースで当時の映像や記事を目にする機会が増えました。今年2月には東日本大震災の余震もあり、辛い記憶がよみがえってしまったり、落ち着かない気持ちになられた方もいらっしゃるかもしれません。

ピースマインドは、2011年の東日本大震災後、被災地で過ごす方々や支援する方々のメンタルヘルスケアの一助になることを願い、英治出版と協同してピースマインドのクライシスケアチーム監修・執筆の「災害時のこころのケア」という冊子を無料で配付し、2019年の台風19号の災害にともない各種情報を更新しました。

今回は、地震や豪雨のような予測不可能な災害に備え、「災害時のこころのケア」から、災害が起きた際のこころの動きやセルフケアについて、ピースマインドのはたらくをよくする®メディア「はたよく」の監修メンバーでもある、精神保健福祉士・公認心理師の鈴木麻美さんへのインタビューを交えてご紹介します。

鈴木 麻美 プロフィール
ピースマインド株式会社 コンサルティング部 EAPスーパーバイザー・コンサルタント・精神保健福祉士・公認心理師・社団法人日本産業カウンセラー協会 産業カウンセラー
大学卒業後、2004年よりピースマインド株式会社にて、コンサルタントとして、社員のセルフケア、人事・管理職向けのマネジメントコンサルテーション、職場惨事(死亡事故、自殺他)後の心のケア、など、産業現場のメンタルヘルスに関わる業務に携わる。個人カウンセリングだけでなく、グループセッション、研修、ストレスチェック組織分析説明会などを実施。ストレス・マネジメント、不調社員、職場不適応社員対応、休職・復職対応、職場惨事対応などを専門とする。


メンタルヘルスケアの一助になることを願って

ピースマインド・クライシスケアチームメンバーは、次の様な想いで「災害時のこころのケア」を監修・執筆しました。

いま、私たちにできることがあるのか、あるとすれば何なのかを考えました。 これから復興に向けた道のりがはじまります。長い時間が必要となるでしょう。経済活動を含めた日常生活を立て直すためには、ひとりひとりの体力や気持ちをどう保つかが大切になってきます。私たちは心の健康を守り育てる専門家として、これからの生活に役立つ情報提供ができればと思い、この冊子にまとめました。 この「災害時のこころのケア」が、ひとりでも多くの大人、子ども、そして高齢者や外国人の方々の手元に届きますように。そして、 これからの復興を支える方たちの未来の一助となることを強く願っています。

「災害時のこころのケア」の監修者の一人で、コロナ禍のメンタルヘルスマネジメントに関するセミナー等にも数多く登壇しているピースマインドのワーキングベターラボ所長で臨床心理士の渋谷英雄さんの声掛けで、鈴木さんは、2011年3月下旬に被災地に歯ブラシなどの日用品を届け、数日滞在して被災地の片づけを手伝うボランティアを経験しました。

末木
ボランティアに参加したのはどんな動機からだったのですか?

鈴木
私は東京で東日本大震災を体験しました。地震が起きた当日は東京でも大きな揺れを感じ、物が落ちてきて壊れたり、しばらくの間は交通網が大きく乱れたり、計画停電などもありました。それでも、被災地の状況をテレビの報道などで見ていても、何が起きているのか実感が湧かなかったんです。今の状況を自分の目で見てリアルに捉え、自分にできることは何か考えたいと思って渋谷さんに同行しました。
被災地についた時は、これまで目の当たりにしたことない光景で、現地に着いてもまだ現実味がなかったのですが、時間が経つにつれて、だんだん気持ちが高揚していきました。電信柱がたくさん折れていることが気になって、「電信柱が折れている!」と報告した時、「麻美さん、落ち着いて。」と渋谷さんが声をかけてくれて、そこで初めて自分が過覚醒状態であることに気づき、気持ちを鎮める事ができました。
震災直後で、被災地の皆さまは日々の生活を整えていく段階で、こころのケアに入る前の段階でしたので、この土地で暮らしている方々が少しでも安心して過ごすために、いま必要なことは何だろう?と考え、その場でできることとして、瓦礫や泥の掃除のお手伝いをさせていただきました。

note1_クライシス発生時の心理的プロセスと求められる支援

災害発生時の心理的プロセスと求められる支援(*1)


「災害時のこころのケア」では、災害時のこころの動きを次のように説明しています。

災害後には、いつもの自分とは違う言動や行動、心身不調などの変化が起こりやすくなります。また、動揺するなどの気持ちの起伏は、誰にでも起こり得ることです。こころの強い・弱いということとは関係なく、人間であれば当たり前のことです。 大切なことは、できるだけ自分に優しくし、そして遠慮をせずに周りからのサポートを受けることです。決してひとりですべてを背負おうとせず、 安心できる人と思いや気持ちを共にして下さい。


アニバーサリー反応

末木
東日本大震災から10年経ちましたが、今でも当時を思い出される方は少なくないかもしれません。

鈴木
地震などの災害や病気や事故等で大切な方を亡くした後など、大きな出来事・つらい出来事が起きた日や亡くなった方との大事な思い出のある日から、1週間・1ヶ月・1年などの節目に、感情が大きく揺れることを心理学用語で「アニバーサリー反応(記念日反応)」 と言います。いつ反応が起きるかは人によって様々で、比較的早くあらわれる場合もあれば、数年たってからの場合もあります。寝つきが悪い・食欲不振・頭痛・腹痛など身体面、気分の落ち込み・イライラする・恐怖心や無感覚、罪悪感が湧くなど心理面、激しく怒る・落ち着かない・はしゃぎ過ぎてしまうなどの行動面などに、いつもとは違った変化があったら注意が必要です。
大きな出来事があった後に、そういった反応が起きてしまうことは、とても自然なことです。大事なのは、起きているストレス反応を自分自身で受け止めてどうやって落ち着かせていくかということです。


note2_ストレス反応

ストレス反応の出かた


「災害時のこころのケア」では、災害時のこころの動きと疲れをやわらげるヒントを次のようにお伝えしています。

人間には、元来こころとからだを元気に保つ力が備わっています。 これは、はるか昔の私たちの祖先から受け継いだ力です。危機的状況におかれた時、この力が自然と発揮され、自分を守るような行動や反応を起こします。 ここでは、災害後に起こりやすいこころの反応についてお話しし、 今私たちのこころに何が起きているのか知るとともに、疲れをやわらげるヒントをお伝えします。 
①今の不安には期限があります 
思いがけない出来事によって、日常が奪われ、突然先が見えなくなると、得体のしれない不安に襲われます。つらい体験や悲しい気 持ちが何度も押し寄せて、何も感じられなくなることもあるでしょう。けれど、不安は自分の身を守るための大切な反応で、いざという時に危険を回避できるように注意を促す信号でもあるのです。 この不安はいつまでも続くことはありません。人間には心身を調整する力があります。 しかしながら、今回の経験はこれまでに誰も体験したことのないショックな出来事です。時間をかけて、他の人と助け合いながら、 取り組んでいきましょう。
②小さな約束が不安をやわらげます
見通しがたたない状況に、不安が不安を呼び、胸いっぱいに広がって苦しくなることもあるでしょう。不安が必要以上に大きくなると、こころとからだを疲れさせます。心配なことやつらい部分に目が向きがちになりますが、疲れた、と感じたらそれらと少し距離を取るようにしましょう。どんな小さなことでも、未来に明るい兆しがあれば、生きる力が湧いてきます。周囲の人と「今度、温泉に行こうね」 「いつか、ご飯をご馳走させてね」など、将来に向けた小さな約束をしてみましょう。
③「 休めない病」に用心しましょう
災害後、私たちは「みんなが大変な時だから、私も頑張らなくてはならない」と自分に言い聞かせます。「もっと大変な人がいるん だから」「生きているだけでも感謝しなくてはいけない」など、無意識に自分を追い詰めがちです。そして、必要以上に高い目標を掲げ、その目標に向けて頑張らねば、という気持ちを強くしていきます。時にはふだん通り過ごすことさえもはばかられるでしょう。 これは「休めない病」のはじまりです。自分を守ることを優先する必要があります。疲れを感じた時は頑張りすぎず、まずはからだを休めましょう。休みかたや休むタイミングは人それぞれ違います。 こころの回復にかかる時間も異なります。自分の中から聞こえる「疲れた」というメッセージに素直に耳を傾け、自分をいたわりましょう。


いつもと違った変化を感じたら・・・

末木
ストレス反応にはどのような対処法がありますか?

鈴木
寝る時間や起きる時間を一定に保つ等、できるだけ日常のリズムを刻んでいくように心がけると良いと思います。
「こんな時だから、楽しみを控えなきゃいけないんじゃないか?」という気持ちを持つ方もいらっしゃると思いますが、楽しみを無理に抑え込むことも、逆に無理をして楽しもうとする必要もありません。自分の気持ちを言葉で表現することで、思考が整理できてスッキリすることもあります。今感じていることを家族や友人など安心できる相手に話してみたり、文章でまとめてみる方法もおすすめです。ただし、決して無理にはせず、気持ちが向いた時に行うことがポイントです。ご自身の素直な気持ちに耳を傾けてみてください。

末木
なるほど。無理をせずに、ご自身のペースで気持ちに向き合うことが大事なのですね。

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ストレス対処法の例

鈴木
震災の記憶は、時間が経っても無くなるものではありません。被害にあわれた方に対して、相手を励ましたい一心でも、「いつまでも悲しんでいないで、前向きに楽しいこと考えていこう!」と声をかけることは避けてください。誰もがそれぞれのスピードで日常を進めていることに留意し、ご本人の気持ちに寄り添う事が大事です。また、回復にむけて、ご本人が大切にしている方法は否定せずに尊重してあげてください。
災害で大事な人を亡くされた方は、「自分だけが助かってしまった」、「もっとこうすればよかった」など、罪悪感や無力感を強く持っていらっしゃるケースも少なくありません。そういった方には、「あなたのせいではない」というメッセージを伝え、丁寧に話しを聞いて受け止め、共感的に返してあげてください。
こころの整理が難しい場合は、呼吸法や筋弛緩法など、からだを動かす事から始めてみることもおすすめです。一時的でも、眠れないような体調面の反応が見られたら、相談窓口等の情報を伝えてください。

末木
ありがとうございました。

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「災害時のこころのケア」には、どなたでも無料で利用できる様々なお悩みに関する相談窓口を紹介しています。現在もピースマインドのコーポレートサイトから無料でダウンロードできます。ご自身や周囲の方々のセルフケアの一助になれば幸いです。

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ダウンロードはこちらから(小冊子・無償PDF版)

「災害時のこころのケア」もくじ
・私たちのこころ
・自分のためにできること
・女性が自分のためにできること
・子どものためにできること
・高齢者、障害者のためにできること
・上司や管理者が部下のためにできること
・外国の方のためにできること
・支援者が自分のためにできること( リーダーがメンバーのためにできること)
・大切な人を亡くされた方へ
・さまざまなお悩みに関する相談窓口

*1 「災害時地域精神保健医療活動のガイドライン」を参考にピースマインド作成

参考情報

◆はたらくをよくする®メディア「はたよく」鈴木麻美 監修記事


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