風呂上がりの夜道で、金槌を振りかざした女性に助けを求められ、１１０番通報した話。（前編）

わたくしはね、年末にちょっとしたランニングの大会があるので、それに向けて近所を走ったり、山を走ったりしておるわけなんです。

ですけどもまあ、子供の頃から運動が好きだったという記憶もなく、ましてや部活なんかもしてこなかった人間でございますので、思いついたようにそんなに突然運動を始めたら、心よりも先に体が拒否反応を起こしてしまったようでございまして、挫いてもいない足首に捻挫の症状が出ている次第なんです。困ったもんですよまったく。

そしてね、捻挫は安静にしすぎていてもいけないってことで、日にちが経って痛みが落ち着いてきた頃合いを見図って、風呂上がりの散歩にでかけたわけでございますね。

足元はワラーチという草鞋のような履物。
ズボンはタイ国の漁師が使う伝統的な形のタイパンツ。
うえは薄手のシャツ。
夜なので首掛け式のライト。

そういういでたちで玄関に立ち、

「ちょっと１キロくらいあるいてくらあ。１０分くらいで帰ってきてくるさね」

女房にそう言って家を出たのがちょうど夜の１０時。
月こそ出てはいないものの、静かな秋の夜。
虫が鳴いて、ひんやりする風が湯上がりの頬を撫でてゆくわけです。
実に心地よい秋の夜の散歩ぢゃあないで




タスケテ！！！！！




突然女性の声が聞こえましたのであたくしはひたっと足をとめたんですね。
目を凝らすと、前方に人影が２つ。
おそらくその人影のどちらかが発したものなんでしょうな、その人影ふたつはあらい息をして肩を上下させております。
あなた、あたしがね、自宅から出て１分も経っておりませんよ。

「な、…どうかしました…か？」

もしかしたら、女性が通り魔にね襲われたんじゃねえかってね、ライトで二人を照らすとね、人影がコンクリートブロック持って、相手に投げつけておるわけです。
相手はそれを紙一重で避けると、足元でコンクリートブロックはがろこるんと真っ二つに割れるわけです。

あなた見たことありますか？
人が人にコンクリートブロックを投げつけてるところ。
あたしはね、もうこれはただごとじゃないと思って、すぐそばまで駆け寄りましたよ。

そしてね、男の髪の毛をつかんで、金槌を握りしめ、振り上げる女性が見えたんですね。
阿修羅のような必死の怒り心頭に発する顔でね、その女性がね、言うんです。



タスケテ！！！



さっきのブロックを投げたのも女性で、
金槌を握りしめてるのも女性です。


…ん？タスケテ？てっきり女性が襲われているのだと思ったけれど、これは…男が女性を襲うタイプの通り魔じゃ、ない？
ん？いや、待てよ、もしかしたら女性が反撃しているのかもしれない…？
いや？でももしかしたら、女性が通り魔なのかもしれない…！
でも、それにしても、女性がタスケテ！と叫んでいたし…

あたしはね、ちょっと理由がわからなくて、髪の毛を掴まれた男性をライトで照らすわけですね、するとね、男性が言うわけです。




タスケテ！！　
ケイサツ！！！！
ケイサツ！ヨンデ！




後編へつづく