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映画 レオン

映画『レオン』を、子供の頃に見た。

あの可愛らしく色気のあるマチルダにドギマギしながらも守り抜いたレオン。僕は彼を、なんだか子供っぽくて不器用で優しくて強くて楽しいおじさんだとおもった。

レオンは、マチルダと話すとき、あまりにませた発言に“ぽかん”とした顔をするときがある。僕はあの顔がけっこう好きだった。そして今日その顔をど田舎のCoCo壱番屋で見た。


職場の友人が昼にカレーを食べたいというので一緒について行った。彼が先に車を降りて店内に入り、僕は店先のガチャポンをひとしきり正しく確認してから店内に入る。

いらっしゃいませ、お一人様ですか?と聞かれたけれど、店の入口のすぐそばの二人席にもう彼は座っていたのでその席を指差して僕も向かいに座る。するともう彼は、なぜだか注文を勝手に始め、注文を終え、メニューを畳みさっさと元の場所に戻す。ちょっとぐらい待ってくれてもいいのに、メニュー見せてけれてもいいのに、と思った。

おすすめメニューのグランドマザーカレーを僕はちらりと見て、高っか、これ高すぎやろ!とつぶやく。けれどもどちらにせよもうメニューは決まっているのだ。CoCo壱番屋で頼むものはだいたい決まっているし、どんなお店に入っても1分以内に料理を決める決断力をあんこは持っているのだ!

チキンカツカレー、量は普通、辛さ普通で、あと、甘くなるソースください。

先に勝手に注文を始めていようとも、メニューを畳んで戻そうとも、あんこは全く意に返さない!なんの問題もないのである!

ご注文以上ですか?と言われて僕は大いに頷く。

そして。

水を一口飲んで、友人を見た。



知らないおじさんが、
口を開けて僕を見ている。


まるであのときのレオンみたいだ。



考える。

脳みそからは、次々に色々な説が出てくるものだ。


友人が十秒ぐらいで老けた説。

時空が歪んで別世界に来た説。

あんこ、席間違えた説。

脳の認知機能が突然のシステムアップデート説。

CoCo壱番屋は魔界入口説。

カレー屋とみせかけてカウンセリングルーム説。

高性能AIが人類を支配していて脳内に常に映像を流しているが、バグが起きた説。

実はあんこは火星人で、それを男は伝えに来た説。


様々な説が頭脳を飛び交った。

相変わらずレオンは僕を見つめている。

周りを見渡すと、友人が店の隅で、カマキリとカブトムシの戦いを見守るようなワクワクした目で、僕とレオンを見ていたいや早めに指摘しろ。


あんこが席間違えた説 確定


レオンに丁重に謝って席を移った。


いやあのさぁ、あんこ君、来んなぁ、って思っとったらさ、おじさんの真向かいに座ってさ、注文しよるからさ、うわあ、これおもしれえぞって思ってさ。

いやいやいや、早めに呼びましょうよ。

いや、あんこ君が座るときから見てたけどさ、おじさん一人で、来てたのに突然見知らぬひとが向かいに座って注文しだしたからさ、めちゃめちゃ焦ってたよ。

いや、そうでしょうね。勝手に一緒に注文して支払わせるタイプのカツアゲかと思ったでしょうね。チキンカツだけに。

あ、うん。




人って、日常の思い込みからひとつ逸脱すると、とっても場違いで、バツが悪くて、ドキドキする経験ができるのです。

いやぁ、異空間やったわ。




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