鬼に金棒を。乳首に絆創膏を。
風呂上がりにお嫁に「置き鍼とって」と声をかけた。
置き鍼とは貼る鍼のことである。お嫁が渡してくれた鍼を、僕は首筋にある「安眠」というツボに貼る。
すると、お嫁が一人でに勝手に話し始めた。まるで、無人の携帯ショップで、突然、語り始めるペッパーくんみたいに。
私な、絆創膏の思い出言ったっけ?
あ、うん、いや、知らないけど、まあ、今はいいや。
え?言ってなかったっけ?そうやったっけ?
うん。多分聞いたことないわ。うん。でも、まあ、今はいいわ。
絆創膏の話やねんけどな、私な、19歳のときにな、CD屋でバイトしとってんけどな、なんか毎日おもんないねん。なんかネタないかなぁ、思ってな、一緒にバイトしてたおばちゃんとか大学生とかな、4人で話し合ってん。
でな、私が思いついてん。誰にも気づかれへんドッキリしようや、言うてな。なにしたと思う?
4人全員な、乳首に絆創膏貼ろうや、言うてな、4人がシフト揃った時に、それぞれが乳首に絆創膏貼ってきてん。
でな、店長もお客さんも知らんやん、この店の女全員が乳首に絆創膏貼ってるなんて知らんやん。でもな、私達4人だけは知ってんねん。お互いの乳首にな、絆創膏が貼ってあるってこと、4人だけ知ってんねん。
せやからな、通路すれ違うときとかな、何もないのに笑えてくんねん。すれ違うだけで、あ、この子、乳首に絆創膏貼ってるわ、何してくれてんねん仕事中に。実質乳首に絆創膏貼ってお金稼いでるようなもんやん、何してくれてんねん、ってぶわーって渦巻いてくんねん頭の中が。そしたらな、レジ打ちも陳列も全部の仕事がおもしろなって来てやな、絆創膏女子たちが、めちゃめちゃ楽しそうに仕事すんねん。
したらな、店長がな、「今日みんな楽しそうやな、どないしたん?」って聞いて来るから、私がな、「店長それセクハラですよ」言うたけどな、店長意味わからんわな。絆創膏女子は笑ってたけど。
あ、これ、めちゃめちゃおもしろいやんけっ!って思ってな、またしようかな、って思っててんけどな、ひとつだけ欠点があってん。絆創膏の欠点があってん。
バイト終わってな、家に帰るやん。でな、一人でそっと絆創膏剥がすねん。そしたらな、なんかな、いいようのないとてつもなく大きな寂しさが襲ってくるのよ。めちゃめちゃ侘しい気持ちになるのよ。せやからそれっきりやねん。楽しさに侘しさが勝たれへんやってん。これが絆創膏の思い出やねん。
あ、うん、じゃあ俺ねるわ。
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