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【旅】ちょっとだけベトナム(6)【最終回】

今回のベトナム旅行にあたり、事前に、
開高健さんの『輝ける闇』を再読した。
開高さんが書いた情景は、ハノイをかすっただけの旅では
感じることはできず、あるいは、もうどこにもないのかもしれない。

かつてぼくはタイ、マレーシア、ビルマを複雑に歩いた時期があった。
記録に残るような深さはないけれど、
しっかりと自分の脚で歩いた旅だった。

そのころを筋肉と神経が思い出し、ベトナムにも漂うアジアの温度に慣れてきたのは、ハノイのバイク来襲道路を何度か横断してからのことだった。

現地の町の人、路地の人の日常にまぎれて歩いていると、
初めて歩く路地なのに、ここを右に曲がるといいんやなとか、
ここのローカル食堂はうまそうやとか、直感的になってくる。

さあて、体がアジアに順応してきたぞというころ、
今回の旅は、ハイおしまい、なのであった。

日本に持って帰る土産はなにがいいだろう。

とりあえず、名物のバッチャン陶器は買った。
しかしこれも連れて行かれた工房兼ショップだったので、思いのほか高い。

女性店員がカタコトの日本語を駆使して、熱烈に売り込んでくるのだが、
ぼくの反応がいまいちだと、なにこのシブチン、
といった感じで機嫌を悪くされる。マイッタ。

でもね、この工房で1つ10ドルで売られていた湯呑みが、
ノイバイ国際空港の出国待ちエリアのショップで6ドルだった。
この4ドル差は、480円以上にずっしりとくる。

ぼくは、適当に値をつけられた小さなお猪口を2つ、高いと知りながら、
45万ドンで買った。2400円くらい。

ベトナム雑貨は日本人にも人気なので、日本で探せばたいてい見つかる。
値段は現地の日本人向けショップと、とんとん。
日本でも変わらない値段で買えるのだ。

しかし現地で買うことは、現地の売上・利益になる。
ベトナム人がほんのちょっとでも喜ぶなら、
断固買うもんかという考えが恥ずかしく思えてきた。

宿をチェックアウトする前に、片側3車線、
計6車線の幹線道路をえいやっと横断して、
ローカルスーパーで月餅を買った。中秋節の祝いのお菓子だ。

さて、ハノイに慣れてきたころに旅は時間切れ。
もっと見たいもの、食べたいもの、写したいもの、出会いたい人がいた。

ベトナムの大都会ハノイには人々の波動があった。新鮮があった。
またいつかこの国を歩いている自分がいるだろうか。

/了

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