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【連載】アフリカの野生アニマル物語 (19)きれい好きなハゲワシ

ケニア・マサイマラ草原の早朝、
1頭の雄ライオンがシマウマを仕留めていた。

しましまの足を骨ごと食らう。
傍らに原形を失った赤いシマウマが無造作に横たわっている。
ライオンは足一本をくわえたまま立ち去った。

そのときだった。「シューッ」と蒸気が漏れるような音が頭上で鳴った。
見上げると、黒い影が3つ、急降下で舞い現れた。

ハゲワシたちはどうやってライオンの食卓を嗅ぎ付けたのだろう。

ハゲワシが集結した現場はすさまじい。
横たわる獲物がシマウマであれヌーであれ、
相手が既に動かぬことをいいことに寄ってたかる。
押し合いへし合いしているので死体が見えないこともある。
後方でおとなしく順番を待っているやつもいる。

サバンナには6種類のハゲワシがいて、死肉をあさる順番とルールがある。

まず、大型のシロガシラとミミヒダが現場に急行すると
同時に死体の皮膚を食い破って硬い肉を食う。

次に、中型のマダラとコシジロが死体の内部まで
首を突っ込み軟らかい肉をむさぼる。

最後に、小型のズキンとエジプトが食べ散らかしを片付ける。
こうした食べ分けで、ハゲワシは、ハイエナなど
地上の死体あさり屋とともに死体を見事に処理する。

だからサバンナには腐肉のいやな臭いが漂わず、
死体にわく虫から発生する病気の蔓延も防がれる。

ハゲワシたちが掃除屋とか葬儀屋などといわれるのは、このためだ。

なぜハゲなのか、気になる。
彼らは食べ残しや死体に首を突っ込んで肉をむさぼり食うので、
常に頭部が腐肉や血で汚れる。
頭に毛があれば菌や臭いもこびりつき不潔だ。

そこでハゲワシは考えた。
「頭髪で悩む男性は多いけれど、わしらは毛をなくそうではないか」

雨が降れば汚れを簡単に洗い流せるし、
強い陽射しにさらせば、日光の殺菌効果を得られる。

死肉をあさる食行動も不気味な容姿も見ていて美しいものではないが、
彼らはサバンナの衛生を保ち、ハゲも清潔を心掛けてのこと。

ハゲワシは、きれい好きなのだ。


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