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LEONE #9 〜どうかレオネとお呼びください〜 序章 第4話 1/2
序章:Running On Empty
第4話 セクサロイド セロン
鏡に映っている少女は愛らしかった。
肩まで伸ばした黒いロングヘアーにセロン・レオネと同じく、紫色の大きな目をしていた。肌は大理石のように白く艶々しており、鼻と唇ははっきりした形にも関わらず、愛らしさが際立っていた。
しかし体は細くて、胸も体も成人女性のものとは違って、成長期の真っ最中の少女のものだった。
その外見はセロンの体とずいぶん似ていた。濃い茶髪の髪の毛が真っ黒に変わったことと、まだ幼く見えるところを除けば、セロンに妹がいたらこんな感じではなかったのかと思える姿だった。
もちろん、今のセロンにとってそんなことはどうでもいい話だった。
セロン・レオネはゆっくり自分の両手を上げた。
無言で開いた手のひらを眺め、そのあと自分の胸をまさぐった。
折れそうに細い首を触ってみて、ほぼ半分になってしまった肩を撫でた。鏡の中の少女も彼と同じくその行為を真似していた。
最後に何回か手を握ったり開いたりしたあと、セロンはボソッとつぶやいた。
「これはサイボーグだな」
「よく気付きましたね、ボス」
スピーカーの向こうのルチアーノが皮肉な笑いを込め、言った。
「他はもちろん、本人すら気づかないはずだと大言壮語した割には……その博士が俺に嘘をついたのか、それともボスが敏感なのかはわからない。まあ、ボスは昔からサイボーグやアンドロイドが苦手だったから敏感なせいだと思うけど」
セロンはルチアーノの声にこもった皮肉を無視した。セロンはさっきより落ち着いていた、しかし相変わらず少し怯える声で聞いた。
「だったら、俺の脳だけ取って移したっていうのか。それが可能なのか?」
「ボス。今その可愛い声で俺に医学に関して聞いてるんですか? 麻酔がまだ切れてないようですね?」
ルチアーノがクスクス笑う声がした。セロンは最大限表情を作らないよう努力しながら、我慢強くルチアーノの次の話を待っていた。
やがてルチアーノは、ため息とともに話をつづけた。
「あぁ、わかりました。いいでしょう。俺も正確にはわかりません。ともかくその博士の話だと、電脳化かとか何とかっていうサイボーグ技術の中でも最新の実験段階の技術だと言ってたけど、とにかくボスの脳を何かの人工知能の脳みそに変えたらしい。詳しいことは後ほど、万が一でその博士と会えたら聞いてください。もちろんヤツはすでに手術で得たデータだけもってこの船から立ち去ったけど」
「わかったルチアーノ。親切な説明ありがとう」
セロンは冷たく答えた。
その間、彼は手術室内のどこかにあるスピーカーを探した。鏡を見た瞬間受けた衝撃と恐怖はすでにある程度落ち着いた後だった。
姿形はどうであれ自分は少なくとも暗殺されなかった。今重要なのは何としてでもあのまぬけから最大限情報を入手してからこの状況を無事に乗り越えることだった。
ここさえ脱出できれば、『アニキラシオン』の誰にでも命令をして……。
その瞬間とても不吉な事一つが、彼の脳裏をよぎった。
「ルチアーノ」
セロンは、平穏な顔を必死で装った。
「何でしょう、ボス?」
「俺たち互いに面と向かって正直に話をしないか」
「いくらでも」
一瞬、セロンはびくっとした。ルチアーノの言葉が終わったと同時に、壁の大型スクリーンが点いたせいだった。スクリーンの中のルチアーノは余裕極まりのない姿勢で足を組んで、セロンの上半身を舐めるように見ていた。
セロンは無意識に下半身にかけていた布を引き上げた。気のせいか、少し鳥肌が立つような気もした。ルチアーノは舌鼓を打ちながら、背もたれにもたれかかった。
「いいでしょう、ボス。とりあえず今の心境でも話してみますか?」
「俺の心境……か。OK、ルチアーノ。俺は今、すごく驚いている」
「起きたら小娘になっていたからですか?」
悪意のある質問に、セロンはニヤリと笑ってズバッと答えた。
「いや、貴様みたいな石頭にこういうことができたという事実にな」
ルチアーノの表情が瞬時に歪んだ。彼の後ろでどこかの死に損ないがクスクス笑っている声も聞こえてきた。久しぶりに見るルチアーノの険悪な顔に、セロンは唇が渇いていくのを感じた。
忠実なNo.2の時もどこか不気味だったルチアーノ。
しかも自分の首に刃を向けた、いや、一度刺すことに成功した今、セロンはルチアーノに恐怖を感じていた。
それでもセロンはやらなきゃいけなかった。彼はギリギリのところまでルチアーノを怒らせて、出来る限り多くの情報を引っ張り出すつもりだった。幸い画面の中のルチアーノも怒りを抑えながら口角を上げるために頑張っていた。
「……ははっ。よく言うぜ、ボス。その石頭に一発食らわされたのはどこのどいつでしょう」
「そう、だから俺は今すぐにでも自分の首を絞めたいんだ。とにかくルチアーノ、今君が犯しているこの荒唐無稽なことは、俺に対するクーデターだとみなして問題ないな?」
「はい。何の問題もございません」
「なら俺はあえて今自分の手で首を絞めなくても、君に首を絞められることになるのか?」
セロンは思いっきり悪意のこもった感情を、ルチアーノに向けながら頭を回転させた。
おそらくルチアーノは間違いなく肯定するはず。そしたらそれに食いついて、もう一度ぎりぎりの所までヤツを愚弄しながらその次は……。
しかし少しの躊躇もなく、ルチアーノは首を振った。
「いや、それは違う」
今度はセロンの表情が歪んだ。
セロン・レオネはゆっくり、一文字、一文字区切りながら、用心深くルチアーノに繰り返した。
「ち、が、う、だ、と?」
「そう、違う。あのですね、ボス。ボスを殺すつもりなら手術中に殺せばいいのに、なんでわざわざ高いサイボーグにボスをぶち込むんですか? 手術中に医療事故だったといって、医者まで一緒に殺して口を封じれば済むことなのに」
その通りだった。セロンは本来の目的も忘れて、間抜けな顔でうなずいた。
「そう、それはそうだ。すごい、すごいぞルチアーノ! 賢くなったもんだ。今のはしてやられたよ」
「全部ボスから教わったことです。誇りに思ってもらってかまいませんよ」
ルチアーノが軽く鼻で笑った。しかしセロンは頭を横に振った。
「いや、待て。ルチアーノ。誇る前にまずこれだけは聞いておく。ならば何のために俺をこんなサイボーグにぶち込んだんだ?」
「それだが、ボス。さっき俺が言ったことで二つほど訂正しなきゃいけないことがある」
「……訂正?」
セロンは疑わしそうにルチアーノを睨んだ。それに比べてルチアーノはもうすっかり余裕を取り戻し不敵な笑みを浮かべていた。ルチアーノは一度うなずいて言った。
「一つは、俺はボスの首を絞めるつもりは全くないが、ひょっとしたらボスが自ら自殺したくなるかもしれないってこと」
「あぁ。俺がさっきそう言った……」
「二つ。今ボスの体は厳密に言って普通のサイボーグではないということ」
セロン・レオネの体が固まった。
ルチアーノは、奥歯まで見えるほど大きく口をあけて笑いながら言った。
「それは、セクサロイドです」
著者プロフィール チャン(CHYANG)。1990年、韓国、ソウル生まれ。大学在学中にこの作品を執筆。韓国ネット小説界で話題になる。
「公演、展示、フォーラムなど…忙しい人生を送りながら、暇を見つけて書いたのが『LEONE 〜どうか、レオネとお呼びください〜』です。私好みの想像の世界がこの中に込められています。読んでいただける皆様にも、どうか楽しい旅の時間にできたら嬉しいです。ありがとうございます」
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