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LEONE #45 〜どうかレオネとお呼びください〜 一章 第10話 1/3


1章:The Good, The Bad and The Ugly

第10話  “ハイエナ”ビル・クライド


「ビル……クライド……?」

セロン・レオネが青白い顔で彼の名前を呼んでいる間、ビル・クライドは深い考えに耽っていた。

彼は少女との最初の出会いを思い出していた。

ナイスバディーの美女と思っていた女性は、近くで見たらぺったんこの胸を持つ子供で、さらに助けてくれた恩を直ちに後頭部を殴ることで返してくれた。

彼はまた、少女が自分に契約を提示したときを思い出した。

少女は生意気な言い方で、彼にぞんざいな言葉を投げた。

しかし、2億GD、いや4億GDという金の力の前で、彼は涙をのんで跪くしかなかった。

彼はまた、彼が少女を連れて艦船から抜け出した後のことを思い出した。

少女は彼の自宅のソファーで寝転がりながら、床に伏せて哀願する自分を冷たい目で見下ろした。彼はほぼ少女の足を舐める勢いで飛びつき、かろうじて彼女の情けを得ることができた。

最後に、彼はこの惑星に着陸したばかりの出来事を思い出した。

多くのカウボーイが突然自分に飛びかかってきたとき、自分は少女に向かって助けを求めた。

そしてそれに対する少女の反応は……。

目もそらさずに、悠々とその場を離れることだった。

やがてビル・クライドは、虫を見るような目で少女を見下ろした。

「……」

「おい、ビル・クライド!」

「“おい”……?」

「いや、とにかく、ビル・クライド。その……」

顔を赤く染め、慌てて言い直す言葉を考えているセロンに比べて、ビル・クライドの顔色はもう灰色に近い色に変わったあとだった。

昨日と今日の屈辱を思い出したせいなのか、彼の顔は誰が見ても、軽蔑、冷淡、ざまーみろの三つの感情がうまく表現できていた。セロンも、他の保安官たちも、カルビン・もその表情に気付いていた。

「どうする?」

カルビンは両腕を広げて、確信に満ちた声で聞いた。

「様子を見た限りでは、ふたりの間で契約があったようだが、そのお嬢さんがお金を持ってきたということは、すでにその契約も終わったということだろう。それにこの状況、いくら“ハイエナ”だとしても、すぐに押し寄せる『ペイV』のカウボーイ全員を相手にすることは無理だろう! 道徳的に見ても、合理性を計算してみても、さらには、カウボーイの戒律で見ても違反することは何もない!」

クソが。

セロンはみじめな気分を感じた。

あのクソのようなカウボーイの言葉には、何一つ間違ってる部分がなかった。自分がクライドにした約束は、この惑星に連れてきてくれたら、2億GDをあげるということ、ただそれだけだった。そしてクライドは約束を果たした。もうふたりの間に残っているのは、セロン・レオネがクライドに支払う2億GDの義務だけだった。

すなわち、この場でビル・クライドがあのカウボーイの言葉に従ったとしても、自分にはその選択を非難する資格すらないという意味だった。

少しの沈黙の末に、固まった顔のセロンは、歯を食いしばって吐き出した。

「……消え失せろ」

「ああん?」

クライドは凶悪な目で、セロンを見下ろした。しかしセロンはクライドの方に顔を向けなかった。 その代わり、カバンを蹴って倒した後、足を使って壁の方に押し込んだ。

「あいつの言う通り、カバンにはお前の分の2億GDが入っている。もう顔も見たくないから、持って早く消えろ」

それがセロンにできる、唯一の選択だった。

数百人の賞金稼ぎを相手にケンカをふっかけるか、それとも2億GDを持って静かにこの場をこの場を去るか。

よほどの間抜けでない限り、誰でも後者を選ぶはずだ。

もちろん、ある人は前者を選択する人もいるかもしれない。中途半端な正義感、英雄心、または同情心に振り回された本物の馬鹿たち。

しかし、この二日間セロン・レオネが見てきたビル・クライドは、間抜けな英雄志望生には見えなかった。また、セロンはレオネ家の最後の生き残りとして、誰かの情けを求めるような無様な行為なんぞ死んでもやる気はなかった。むしろ、ここでは従順に負けを認めて、きれいにすべてのことをあきらめた方が、自尊心を守る道だった。

「…………確実に、どこの家柄なのかは知らんが、貴族のお嬢様なのは間違ってないようだな」

カルビンが自分の帽子を下ろしながら言った。彼はかなり驚いたよな口ぶりだった。

「その自尊心には敬意を表する。おかげさまで状況も簡単に解決できそうだし」

「てめえのためにしたわけではない」

セロンはぶっきらぼうに答えた。

しかし、その言い方とは違って、今度こそセロンは全てのことを観念した状態だった。彼女は口元に苦笑いをしたまま、頷いた。

「今、僕の懸賞金を支払うやつらが誰なのか君たちが知ってしまったら……おそらく、そのときは自分の頭に銃を撃ちたくなるでしょう。どうかそうなることを祈ろう」

そのことばを最後に、セロン・レオネはゆっくり両手を前に差し出した。カルビンが頭を動かしたら、保安官たちの一人が手錠を持って彼女に近づいた。

セロンは静かに目を閉じた。

今さら大した感想はなかった。ただ、空虚な言葉だけが、口の中で回るだけであった。

たかが一日、逃げられただけなのか。

その時だった。

「待て!」

彼女の後ろから、クライドの声が聞こえた。

その声を聞こえた瞬間、セロンは思わず足を止めた。カルビンの額にはしわができた。セロンは驚いた表情でクライドを振り返った。そしてカルビンは、なるべく穏やかな表情を保ったまま、低い声で問い返した。

「なんだ、ビル・クライド?」

「このまま2億GDだけ頂いただくのもあれだから、お前たちに役立つことを一つ教えてやろう」

クライドは言葉が終わってすぐ、壁から飛び降りた。

セロンの身長の三倍に匹敵する壁だったにもかかわらず、クライドの着地は優雅で軽かった。

彼はためらわずに歩いてきて、セロン・レオネの肩に手を置いた。同時に片方の手では自分のコートのポケットをかき回し、皺くちゃに丸まっていた白い紙を抜き取った。

セロンはうっとりした表情で、クライドの顔を見上げた。クライドは、そんなセロンに視線を向ける代わりに、まっすぐカウボーイたちを見ながら言い出した。

「このお嬢様はね。俺が今まで見てきたすべての女の中で最も性格が悪いんだよ」

……しばらくの間、彼らの中に静寂が流れた。

やがて、カルビンが口を開いた。

「それはどういう意味だ」


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著者プロフィール チャン(CHYANG)。1990年、韓国、ソウル生まれ。大学在学中にこの作品を執筆。韓国ネット小説界で話題になる。
「公演、展示、フォーラムなど…忙しい人生を送りながら、暇を見つけて書いたのが『LEONE 〜どうか、レオネとお呼びください〜』です。私好みの想像の世界がこの中に込められています。読んでいただける皆様にも、どうか楽しい旅の時間にできたら嬉しいです。ありがとうございます」


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