見出し画像

LEONE #10 〜どうかレオネとお呼びください〜 序章 第4話 2/2


ルチアーノの最後の言葉が終わったとたん、セロン・レオネは手術台から立ち上がった。下半身を隠していた布もそのまま床に転がって、少女の真っ白な裸身が丸見えになったが気にしていなかった。

ただ一人ルチアーノだけが口笛を吹いただけだった。

「気が短いな。そんなに慌てなくても、今夜には処女じゃなくなるのに」

セロンは答えなかった。

セロンはおおまたに歩いて、手術が始まった時と同じように布に隠されている人間の形の何かに近寄った。おそらく手術を始めた時、ここには今自分が入っているこのセクサロイドが横になっていたはずだ。

だから手術が終わった今、ここで横になっているのは当然……。

自分の元の体だった。

布の下に隠されていたものは、冷凍カプセルの中に眠っている彼の体だった。

セロンはほんの少しだけ、とても悲しい顔で彼を見下ろした。分厚いガラスの間にまるで実の兄妹のように似ている男性と女性の顔が互いに向かい合っていた。

悲しみに満ちた女性の顔と、目を固く閉じたまま永遠の眠りに落ちいている男性。

見るからにそれは、ある兄妹の死別を描いた絵画のようだった。しかしすぐにセロンの顔から悲しみが消えた。セロンはカプセルの横に置いてある小さい神像を取り、躊躇なくカプセルから身を動かした。

「ルチアーノ」

セロンは半分だけ顔を動かして、スクリーンを睨んだ。

「最後に一つだけ聞こう。今まで俺たちが共にしてきた時間を考えて、返事はしてくれると信じよう」

ルチアーノは肩をすくめた。

「どうせ今夜一晩中一緒だが、まあいい。質問してください」

「レディータリアはどこにいる?」

「あぁ、レディータリア」

ルチアーノは大きくため息をついた。セロンは神像を握っている手に力が入るのを感じながら、怒りで燃えている紫色の瞳でスクリーンの中のルチアーノを睨み続けた。

「そこは察してくださいよ、ボス。俺がボスを小娘にして犯すつもりだと言ったら、レディータリアが反対するに決まってるじゃないですか。俺には選択の余地はなかったんです」

とうとうセロンは我慢できずに大声を張り上げた。

「だからどこにいるのか聞いて!!」

「だから、邪魔者には消えてもらいました。」

その瞬間。

セロン・レオネの体がふらついた。

ルチアーノの表情が変わった。ルチアーノは、赤く充血した目で、大きく舌を伸ばして自分の口元をなめた。彼の部下たちがその顔を見たらこう言ったはずだった。

見ろ、あれがボッシ・ルチアーノだ!

あれこそが『アニキラシオン』の殺人鬼だ!

「今頃たぶんこの宇宙のどこかを泳いでいると思うけど……まぁ、時が来れば自然に見つけられるはずだ」

人肉でも食べるような顔でルチアーノはしゃべり続けた。

それに対してセロンは無言だった。セロンはただ顔を下げ、歯を食いしばって、震えている手にあの神像を強く握っていた。

セロン自身もわかっていた。

ここでもう得るべき情報はすべて手に入れたし、すぐにでも脱出できる可能性を上げるためには、今すぐこの場を離れるべきだった。

動け。

セロンは自分をせかした。本来彼の体ではないせいなのか、思い通りに動かない自分の足にセロンは、声にならない悲鳴をあげながら鞭打った。

動けよ。

ゆっくり、とてもゆっくり。セロンはドアに足を運んだ。遅い歩みで近寄った扉は、ボタンを押すといとも簡単に開いた。相変わらずふざけているルチアーノのスクリーンに背を向けセロンは手術室の外に足を運んだ。

いや、運ぼうとした。

二つ目に足を運ぶ前に、彼=彼女は最後に立ち止まった。

セロンはスクリーンに向かってゆっくりと体を回した。セロンとスクリーンの間にはさっきよりも距離があったが、それでも声を届かせることは可能だった。

セロンは、心のそこから湧いてくる声で話を始めた。

「ボッシ・“ラッキー”・ルチアーノ」

ルチアーノも好き勝手に動かしていた口を止めた。

ルチアーノは充血した目でセロンを直視した。自信満々な笑顔とともに。

「はい、ボス」

「俺は、セロン・カラミティー・レオネ。『アニキラシオン』の主、レオネ家の当主だ」

セロン・レオネはゆっくりと右手を上げた。親指は天井に向けて、人差し指はルチアーノの額を刺したまま。

撃った。

「貴様を、必ず、殺す」

ルチアーノは、それに対して何も言わなかった。ただ、セロンには聞こえない小さい声で、つぶやいた。

「多分、銃よりも腹上死の可能性のほうが高いです。ボス」

言い終わるとルチアーノは軽く指でパチンと音を鳴らした。その音が手術室全体に大きく響いたその時、フロア全体から足音がし始めた。

わずか十数秒もしないうちに、セロンは百人を超える組織員たちに囲まれていた。

彼らはみんな揃ったように同じ顔でニタニタ笑いながらセロンに銃を向けた。

しかしセロンは相変わらず炎で燃えている視線を、スクリーンの中のルチアーノに向けていた。

ルチアーノは下卑た表情でセロン・レオネに囁いた。

「どうか、このルチアーノを天国に行かせてください」

前のページを読む  続きを読む


著者プロフィール チャン(CHYANG)。1990年、韓国、ソウル生まれ。大学在学中にこの作品を執筆。韓国ネット小説界で話題になる。
「公演、展示、フォーラムなど…忙しい人生を送りながら、暇を見つけて書いたのが『LEONE 〜どうか、レオネとお呼びください〜』です。私好みの想像の世界がこの中に込められています。読んでいただける皆様にも、どうか楽しい旅の時間にできたら嬉しいです。ありがとうございます」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?